樹林の大地 14:防衛戦
――――クロの作戦開始前。スペラクエバ北部城壁。
こんな甘っちょろい作戦。俺なら考えもつかねぇな。戦場では血が流れる。それは当たり前の事なのによ。それにまで抗っちまう。兄貴は”諦めねぇ”男なんだ。っても兄貴の力あってこその作戦だ。
俺はそれまでやる事をやって待つしかねぇ。
出来るだけ早く帰ってきてくれよ――。
「お前ら!!敵さんのお目見えだ!!いいか!俺達は守るだけで構わねぇ。絶対に死ぬな!」
拡声魔術でグラムが声を荒げる。
それに呼応するように兵士たちが声を上げる。
「傷は負っても重傷までだ!致命傷を受けるんじゃねぇぞ!!致命傷受けたやつは俺が殺す!!以上だ!――――魔術部隊、弓兵は城壁上から攻撃を開始!」
グラムの声を皮切りに城壁上に並んだ兵士達が攻撃を開始する。
「第一ローテーションの兵士は組んで防衛線前の敵と交戦開始!第二ローテーションの兵士達も準備を怠るなよ!出番は直ぐだ!!」
次々と指示を飛ばすグラム。
魔物軍襲撃に備えた北部城壁の防衛は整っていた。
北部城壁門からやや離れた場所に巨大なバリケードを設置。兵士達はバリケードを超えられない様にローテーションを切り替えつつ前線を維持する。これは同時に城壁北部門を守り、兵士の交代ルートを確保する為でもある。
バリケードの前には先の戦いで討伐した魔物たちの亡骸を多量にばらまいて魔物軍進軍の遅延。及び、足元を悪くして戦い辛い状況を作っていた。
森の中にはシロ率いるウルフ団部隊。森の中をすり抜けようとする魔物が居れば適宜討伐。
魔物軍が濃い個所の支援、バリケードを破壊されかねない大型の魔物が現れた際の討伐役となっている。
そして城壁内部には広大な野戦病棟。任されているのはもちろんローチだ。
「いやぁ・・・これだけの戦いで誰も死なずにって・・・。クロも無理言ってくれるよなぁ・・。」
テント内で煙草を大きくふかすローチ。
大きくため息が混ざった白い煙は行く当てもなく消えていく。
「だが。・・・誰もが願っている。俺もだ。――まぁ出来るだけやってやるさ。」
長い袖を肘前まで捲り上げ、銜え煙草の火を消した。
森の中を駆けるウルフ団とシロ。
こちらでも既に戦いは始まっていた。
「やっぱり前と同じだね!森の中は敵の数が少ない。でもみんな!!絶対に一匹も通しちゃダメだからね!!」
森の中を一匹でも魔物が抜ければガラ空きの街道防衛兵士達に間違い無く死者が出る。
今一度、自身とウルフ団の気を引き締める様に声を上げた。
「確か・・・私が動くときは発煙弾が上がるんだよね。赤が応援で黄色が巨大な魔物の出現。そして緑が致命傷患者が出た時・・・。忘れない様にしなきゃ。」
正面から襲い来る魔物を苦も無く一太刀に切り伏せる。
「絶対守って見せるからね!!クロ!!」
不安を振り払うように言葉に出すシロ。
早速北東の方で上がった赤い発煙弾にウルフ団が反応する。
「さぁーいっくよーー!!!」
森から森へと飛ぶように歩を進め、応援に駆け付ける。
到達したシロは一撃のもとに魔物を蹴散らし、敵の数を大きく削いだ。兵士たちの状況を一目確認し、危機的状況を終えた事を察する。
直後、今度は西で上がる黄色の発煙弾。
「うっひゃー!これは忙しいねぇー!」
シロは再び森の中を飛ぶようにして戦場を駆け抜けた。
唐突な地鳴り。
森が大きく騒めきを見せる。
「――なんだっ!?」
城壁上から指揮を執り続けているグラムは思わず声を漏らした。
バリケードより更に先の森が不自然に蠢く。
地鳴りが止むと同時にこの位置からでも確認できる。あれは――トレントだ。
トレントとは言わば木人。そのサイズはゆうに周りの木々を超え、根の様な足で二足歩行を行う。
大地の怒りを買った時にその制裁の為に現れるとかって言い伝えだな。
予定外の状況に少し動揺したグラムだったがその意図には我関せずと、トレントは街道の魔物たちを両手で薙ぎ払い始めた。
そのトレントが20、30と続々と現れる。――――これは・・・。
「ほっほっほ。国の一大事に儂が出ない訳にも行かんじゃろう?戦場は初めてじゃが。」
「――ボルデン王!?戦場は危ねぇから王城に引っ込んでろって言いてぇ所だが・・・あの戦力は助かるぜ。」
そうじゃろうそうじゃろうと頷くボルデン王。
「クロの作戦は儂の耳にも届いておる。この戦では誰も死なぬ。死なせてはならぬのだ。であれば儂も死ぬことは無い。安心して加勢出来るってものじゃよ。」
「じいさん。そりゃぁ屁理屈ってもんだぜ・・・。」
呆れるグラムに笑うボルデン王。
「だが丁度良い。俺がもし戦場に出る事になればここら辺は焦土になっちまう。実り豊かな大地を穢す訳にも行かなかったしな。」
「なぁに。お主が暴れ、木々が死んだとしても民が守られればそれで良い。木々はお主が思う程弱くはない。次第に新たな命が芽吹き、じきに元通りになるわい。」
「じゃぁ暴れても問題ねぇな!」
「お主・・・初めからそのつもりで吹っ掛けおったな・・・。」
ニヤニヤするグラムに呆れるボルデン王。
「じゃぁちょっくら行ってくるわ!!」
「ちょ、ちょっとまたんかい!!」
「指揮には影響しない程度に加勢してくるだけだから心配するなよ!」
そう言葉を残して城壁上から戦地に跳躍するグラム。
「――――全く。仕方あるまい。儂が暫く指揮を執ろう。」
ボルデン王の足元が神々しく光る。
「ホルツ・フリーデン。」
直後、ボルデン王の足元に根を張り巡らせたような光りの線が数多に走る。それは戦場に向かい、兵士たちの近くの森が柔らかな光を帯びる。
魔物たちと戦っている兵士の痛みは和らぎ、恐怖する兵には意志と温もりが与えられた。
それと共に兵士たちに伝わるボルデン王の声。
「この国を守る為。自分の大切なものを守る為に戦う者達よ。余と共に生き抜こうではないか。」
一斉に湧き上がり、士気を大きく上げるスペラクエバ兵。
――ボルデン王の表情は決意に満ちていた。




