樹林の大地 10:我儘
―――翌朝早朝。
先程まで根を詰めて打ち合わせしていた努力の結晶とも言える指示書の束を机の中央に、僕とシロ、グラムは机に突っ伏して眠っていた。
「マスター。聞こえるか。」
「えぇ。聞こえてます。クロが何かしようとしてますね・・・。」
「そうだな。今回は少し心配だ。ボクも着いて行こうと思う。」
「そうしてください。もし、何かあれば私も動きます。」
「マスターはそう易々と外に干渉しちゃ不味いだろ。命を賭してとかじゃないって言ってたしな。何かの根拠に基づく行動ではあるんだろ。」
「でもクロに何かあったら―――。」
「まぁ心配なのはわかるぞ。ボクも心配だ。何かあれば止めるが・・・ここは信じてみないか?」
「・・・わかりました。エルマーの言う通り。彼らもこの旅で色んな事を知り、触れてきたはずです。」
「あぁそうだ。だから心配しすぎるなよ。親バカならぬ弟子バカマスター。」
「弟子バカ・・・そうかも知れませんね。―――家族ですから。」
「おう。そうだな。」
おもむろに机から顔を起こすクロ。
「おっと。そろそろ起きるみたいだ。また何かあれば連絡するから大人しく見てる事だな。」
「えぇ、出来るだけ大人しく見させてもらいますよ。」
エルマーがしゅるりと起こした頭の上に乗る。
「お目覚めか?」
「うん。まだ眠いけどね・・・。おはよう。」
「何かあれば相談に乗るからな。」
あぁ、昨日のあれを気にしてくれてるのか。
「うん。その時が来たらちゃんと話すよ。」
「そうか。ならいい。」
僕達の会話のせいか、グラムが突っ伏していた上体を起こす。
「やべぇ。寝ちまってたか。おはよう兄貴。兄貴はあれからずっと?」
「いえ、僕もついさっき起きた所です。何とか要綱は纏め終わってましたからセーフですね。それにまだ早朝ですし、今日から色々と動けるでしょう。」
二人の視線は眠り続けるシロに向けられる。
「ぐっすり寝てるな。涎たらし放題かよ。」
「ですね。シロは小難しい事は苦手ですから。むしろよく頑張ってくれましたよ。」
ふっと笑う二人。
「もう少し寝かせておいてあげましょう。」
「おう、そうだな。」
突っ伏して眠り続けるシロの肩に毛布をかける。
「エルマー。シロが起きたら合流するように伝えてあげて。」
「仕方ねぇな。お守は任せておけ。」
「うん。ありがとう。お願いね。」
鶏ささみジャーキーを献上する。
苦しゅうないと頷き、エルマーがもっきゅもっきゅと食べ始める。
「さて、俺はこの要綱を基に色々と始めてくるぜ!防衛戦と言えど指揮を任された以上、やる事は出来るだけやっておきてぇ。」
「えぇ、お願いします。僕はボルデン王に作戦を伝えて来ます。王に伝えない訳には行きませんからね。」
「お互い忙しくなるな。」
「ですね。」
僕とグラムは椅子から立ち上がり、対策室を後にした。
―――シロが僕の元に駆け付けたのは丁度ボルデン王に報告が終わった後だった。
置いていくなんて酷いー!!と手足をバタバタさせた事は言うまでもない。
全く。良かれと思って寝かせておいてあげたのに。
「それよりお腹すいてない?そろそろ昼時だし。」
「まぁお腹はすいてるけどー!!」
「じゃぁどこか食べに行こうか。スペラクエバの中央区近辺ともなれば美味しいお店もきっと沢山だよ。」
「そうなの!?行こう行こう!!」
一瞬で機嫌が直るシロ。さすがだな。
「それよりいいの?忙しいんでしょ?」
「大丈夫だよ。主な戦闘指揮はグラムさんに任せてあるし。」
多分あっちはあっちで大変だろうなぁ・・・・。
合間を縫って少しでも休憩取れてると良いんだけど。
それに・・・少しでも思い出を作っておきたい。僕の我儘だ。
「そうなの!?じゃぁ行こう!!」
「うん。つかの間の休息を楽しみに行こう。」
僕とシロは王城を後にして、一番近い場所から居住区を抜けて商業区に出た。
馬車とは便利なものだ。少しお金はかかるけど、ストレスなく商業区まで出る事が出来る。
それにしても流石中央区に近い商業区だけはある。
飲食店に宿に選びたい放題な程に店が連なっている。
「わーー!!いっぱいお店あるね!目移りしちゃう!!」
「そうだね・・・。これだけあるとどこか一軒に決めるのは難しいなぁ・・・。」
辺りを見回しながら歩く僕達。ふと一軒ののぼりに目が止まる。
≪スペラクエバ名物!大蛇の白焼きやってます!≫
シロと目が合う。わかる。わかるよ。トカゲ串美味しかったもんね。でも大蛇だよ!?
爬虫類なら全部美味しい訳じゃないよ!?
――結局僕達は好奇心に負けてそのお店を尋ねる事にした。
「いらっしゃいませー!!」
店員さんの声が響く。
適当な席について、結局大蛇の白焼きを二つ頼んだ。定食で。
何だかんだでワクワクしてしまうな。
―――・・・・・・・。
「シロはさ・・・。この旅楽しい?」
僕の問いに少し驚いた顔を見せる。
「どうしたの急に?」
「いや。気になってさ。」
「うーん。楽しい事ばっかりじゃないし・・・沢山辛い気持ちもして来たけど。それでもクロと師匠と零号とこうやって旅が出来て嬉しいよ!」
「そっか・・・。僕もシロ達と旅が出来て本当に嬉しいよ。」
「どうしたの!?何か悪い物でも食べた!?」
シロじゃないんだから悪い物なんて食べてないよ。
でもなんて誤魔化そう・・・らしくなかったよな。弱気になっている自覚がある。ううむ・・・。
「大蛇の白焼き定食お待たせしましたー。」
おおナイスタイミング!
そしてすごい迫力の定食!!
「おお!これは食べ応えありそう!!」
「午後眠くなりそうだね・・・。」
目の前に置かれたのはふんわりと焼き上げられた魚とも肉ともつかない巨大な白焼き。
適度な焦げ目とかぐわしい香り。
箸を割り入れるとその身からは柔らかいながらも確かな弾力を感じる。
一口。
「旨い・・・・!!!」
「美味しーー!!!」
ほのかな塩味にあふれ出る脂。何より脂が甘い!!
これはご飯が進む!!
いつも通りにはよはよと急かすエルマーにもあげる。シロは零号にあげてる。
このままでは我らは爬虫類偏食になってしまう・・・。それ程までに旨い・・・。
――暫く会話も忘れて夢中で食べていた。
「ごちそうさま。」
「ごちそうさまでした!」
二人と二匹も大満足。
会計を済ませて店を出る。
「ものすっごく美味しかったねー!!今度旅の途中でワニとか居たら食べてみようかなぁ。」
「いやそれは流石に・・・。」
いやでもワニにも可能性はあるんだよなぁ・・・。
いかんいかん。本当に偏食になってしまう。
「さ、王城に戻ろう。グラムさん程とは行かないけど僕達も忙しいからね。」
「そうしよー!お腹いっぱいだし私も頑張っちゃうよー!!」
「とは言っても僕とシロは別行動だけどね。」
「えぇー!?そうなの??」
「シロはグラムの方で防衛戦の打ち合わせとその他準備。僕は対策室で抜け漏れの確認やら各箇所への伝達やらだから。」
「そっかぁ・・・。でも頑張らなきゃね!!」
「うん。出来る限りの事はしよう。」
こうして僕達は存分に昼休みを満喫して王城に戻った。
迫る現実に対処すべく、僕達はそれぞれ成すべきことを成すのだ。




