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屍霊術師ーネクロムー  作者: ELL
3. 樹林の大地
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樹林の大地 9:不穏な仮説

――――その日の夜。

僕達は臨時で創設されたスペラクエバの魔物進軍対策本部に詰めていた。

魔物の状況、保有する戦力の確認。地形の変動に伴う魔物進路の確認。やる事は次から次へとあふれ出ていた。

僕とシロは対策本部長補佐という、外部の者にはあり得ない程中心に近い立場をあてがわれていた。しかも現状対策本部長は”選定中”とされている。

つまり、僕達の裁量に全て任されている状態なのだ。これは・・・・信用しすぎだろボルデン王よ。

やる事、確認する事があまりに多すぎて目が回りそうだ。

そこに突然転がる大きめのノック。

バァンっと対策室の扉が開かれた。


「遅くなってすまねぇ!!情報は粗方聞いたぜ!先日に攻撃を・・・受けたって・・・。」


聞いたことのある声が対策室に響き渡る。

振り返った僕達の目に入ったのは見た事のある赤髪。


「グラムさん!」

「グラム!!」


声を揃える僕とシロ。


「あ、兄貴!?何でもう対策室に居るんだ!?」


その質問に今まであったかくかくしかじかとやらを簡単に説明した。


「そういう事か・・・。せっかく伝令にまで任せたのによぉ。・・・兄貴には適わねぇな。」

「いえいえ、本当はグラムさんの伝令頼りのつもりだったんですけど・・・思ったより事が早く起きてしまって後は流れというか何というか。」

「シロたちの方が先にスペラクエバについてたからね!」


小さくため息を付いた後にふっと笑うグラム。


「まぁ・・・兄貴たちなら当たり前かもしれねぇな。正しい事に力を使う。有り余る力だ。そんな簡単な事じゃねぇ。でもそれが当たり前に出来る。それは特別な事だぜ。よっぽど良い師匠でも居たんだろうな。」


良い師匠・・・。うん。良い先生だと・・・思う。難は山ほどあるけど。


「それよりもグラムさんが直接出てくるなんて・・・アルジスの方は大丈夫なんですか?」

「あぁ、問題ねぇ。アルジスは比較的落ち着いてるからな。大陸調査の報告待ちがてら、こっちを助けに来たって訳だ。俺が出れば自然と兵も動くしな。統率も取りやすい。」


まぁ確かに。グラムは国民の支持が高い。自身の武功を上げ続けるのもその信頼の一つだ。あとは・・・多分根本的な兄貴肌なんだろう。気持ちはわかる。


「アルジスからはどのくらいの兵が来てくれたんですか?」

「三万だ。当初二万の予定だったが・・・俺が出るってなったら一万増えた。ったく良くわからねぇ野郎どもだ。っても大いに越したことは無いだろう。」

「そうですね。大いに越した事はありません。多ければ多いほど戦況は有利になります。」

「そんで現状はどうなってるんだ?」

「ティエンドからの情報と、斥候からの情報を合わせて考えると猶予は後五日。――五日後には約30万弱の魔物がこのスペラクエバに押し寄せて来ます。」

「猶予がねぇな・・・。」

「そうですね。この五日後という状況。先手をうつには此方の兵の数も期間も足りません。」

「だな。・・・だが籠城すれば数の力でこっちのジリ貧だ・・・。どうするつもりだ?」

「えぇ。そこは考えてあります。」

「おぉ!さすが兄貴!!聞かせてもらおうじゃねぇか!」

「うんうん!私も聞くー!!」


あれ?シロには説明したはずだけど・・・まぁいいか。


「まずこちらの兵力の説明からです。先日の魔物の襲撃により、こちらの死者数は約18000人に及びました。」

「18000・・・。夜襲とは聞いていたがそれにしても多いな。」

「えぇ、それだけ魔物が強力なものなのでしょう。おおよそスペラクエバには棲息しないような。」

「棲息しない?」

「えぇ、僕の仮説が間違ってなければですが。とりあえず話を続けますね。こちらの兵力はアルジスからの応援を含めて約12万となりました。」

「あぁ、確かにそのくらいにはなったな。」

「そこで―――全兵力を北部城壁防衛に注ぎます。」

「なるほど・・・って!さっき籠城はダメだって兄貴も同意してたじゃねぇか!!」

「籠城する気は更々ありませんよ。何か忘れてませんか・・・?」


シロに目線を送る。


「籠城だと負けちゃう気がする!!」


人の話聞いてた?グラムに目線を送る。


「・・・・黒幕か。」


さすがグラム。


「その通りです。今回の黒幕は戦場に居ます。居なければならない理由があるのでしょう。」

「理由・・・。――魔物の統率か!」

「それも可能性の一つです。もう一つの可能性で言えば”戦況の観察”です。」

「戦況の観察?どういう事だ?」

「僕達は一足先に魔物たちと一戦交えています。その時に魔物に得も言えない違和感を感じたんです。」

「――わからねぇ事が増えて来たな。分かりやすく頼むぜ。」

「では細かい説明は省きますが、その魔物たち。体内のソルの構成が全く同じだったんです。」

「んなことあるわけねぇだろ・・・。人にしろ魔物にしろ体内のソル構成は千差万別。そいつの生まれや育ち方でも随時変わるもんだ。―――まさか!?」

「そのまさかです。僕はソルを目視出来ます。まず間違いないでしょう。今襲ってきている魔物たちは”人為的に作られた”可能性が高い。」

「ソルを目視って今さらっとやべぇ事言ってた気がするが・・・兄貴なら出来んだろうよ。」

「えぇ。この魔物たちの壮大な行軍。これがもし人為的なものであったなら。これは始まりに過ぎない。今は実験段階。そう考えると全ての辻褄が合います。」

「それで魔物の統率、その魔物がどれ程戦えるかの戦況を観察するために黒幕が直接戦場で確認しているって事か。・・・確かに仮説としては筋が通り過ぎてるな。」

「なので、全兵力で北部城壁籠城で堪えている内に、僕が黒幕を叩きます。」

「仮説からすると・・・黒幕がリタイアした時点で、魔物には何らかの影響が出るって事か。運がよけりゃぁ全部行動不能になるとか・・・あるかもしれねぇよな。」

「御名答です。」

「でもいくら兄貴でもあの数の中に単身突っ込むのは無事じゃ済まねぇんじゃねぇか?」

「僕は単身で突っ込むつもりはありません。策は考えてあります。ただ・・・・今は上手く行くかわかりません。」


少し自信が無いだけだ。きっと大丈夫。

雰囲気を察してグラムが口を開く。


「なんか・・・やべぇ事考えてんのか?命を賭して的なよ。」

「ええ!?そんなのダメだからね!!」

「勝手に僕の命をかけないで下さい。命まではとられないと思いますから。それに、僕が失敗したら誰が黒幕を叩くんですか?・・・・必ず成功させます。」


―――その後、詳細な打ち合わせをさらに行った。

北部城壁籠城戦。その指揮はグラムが執る。もちろんシロも付ける。回復魔術に戦闘力に。これほど心強い味方もいないだろう。

後五日の内に城壁の可能な限りの強化。出来る限り死亡者を出さない様にローテーション式の防衛陣。医療施設の配置まで。事細かに話を詰めていく。

行動するには思考が必要だ。その思考がまとまれば行動にも迅速に移る事が出来る。

今日中には全てまとめ上げて、明日からは行動に移す。

思考が目まぐるしく移り変わる。だが僕の頭には一つの問題が浮かんで離れなかった。


この魔物の行軍。――”これは始まりに過ぎない”のだ。

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