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屍霊術師ーネクロムー  作者: ELL
3. 樹林の大地
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樹林の大地 8:地の精霊ティエンド

「はぁ・・・疲れたわい。お主達。楽にして構わんぞ。」


思わぬ王の一言に耳を疑う。


「・・・ありがとうございます。」


とりあえず立ち上がる。片膝ついて座ってるって意外と疲れるんだよね。


「先の戦いでの活躍。本当に感謝しておる。ありがとう。」


その言葉と共に差し出された手に握手で答える。

その後、シロとも握手している。・・・・あれ?王?

疑問を感じている僕に勘づいてなのか、ボルデン王が話し始める。


「儂は王という肩書き上、皆の前ではらしく振る舞わねばならん。じゃが、旅人のお主達の前では話は別じゃ。儂もこの方が楽でのう。」


ま・・・まぁ本人がいいなら良いか・・・・。落差に驚いた。


「ボルデン王がさっき仰っていた”ティエンド様の申した通り”というのはどういう事です?」

「そうじゃの。それは見せた方が早いじゃろう。ついてくると良い。」


そう言うとボルデン王は立ち上がり、玉座の後ろに歩き出した。

後に着いていく僕達。


「ところで、その肩に乗っている猫ちゃんとワンちゃんは何という名前じゃ?」


まさかの猫ちゃんワンちゃん呼び!!!


「あぁ、エルマーと零号です。」

「そうかそうか。かわいいのぅ。お前さん達も先日はありがとうの。」


ニッコリと笑顔を浮かべるとエルマーと零号の頭をそれぞれ可愛がる様に撫でた。

・・・動物が好きなのかな。こう見ているとただの動物好きのおじいちゃんだ。

優しい人なんだな。


「ここじゃ。」


そういってボルデン王は玉座裏に施された魔術式を指でなぞり、魔力を注いだ。

すると玉座は後ろにスライドし、その下には階段が現れた。

なるほど。王の魔力にだけ反応して動く仕組みか。敵襲によって王城が脅かされた時に逃げる為の隠し通路という訳か。・・・・これってこんな易々と見せていい物じゃない気がする・・・・。


「ほれ。行くぞい。」


呆気に取られている僕に一声かけるとスタスタと階段を下りていくボルデン王。

急いで後に続く。僕達が階段を下りて少しすると自動的に玉座は元の位置に戻った。


「この階段を下れば霊樹の足元にすぐ出られる。ティエンド様とお話する時には良く使うんじゃよ。」


話を要約するに・・・あの霊樹には本当にティエンドが宿っているのか!

精霊の形は多種多様と知ってはいれど、これは好奇心がうずいてしまうな。

最低限の明かりしかない薄暗い階段を黙々と下りる僕達にボルデン王が口を開く。


「ティエンド様はこの大陸全てに根差す樹木と意思が繋がっておる。魔物をいち早く感知できたのもティエンド様のお陰じゃ。そしてお主達がこのスペラクエバを目指していた事を先に知る事が出来たのもティエンド様がお教えになってくれたのじゃよ。」


地の精霊ティエンド。大地の精霊だと思っていたけれど・・・その大地に根差すものまでもその影響下にあるとは。さすが精霊だな。


「そろそろじゃ。」


階段を降り切って、暫く直進した頃にボルデン王が告げた。

目の前に梯子か。つまり、一度地下まで下りて直線的に霊樹の足元まで来たわけだ。

ボルデン王に続いて梯子を上がる。ボルデン王が頭の上にある薄い石板を押し上げると外の光が差し込む。


梯子を上がって目の前に広がったのは視界に収まりきらない程巨大な霊樹。

その足元に来て改めてわかる雄大さ。荘厳さ。しばし言葉を失い、大きく天を仰いだ。

雄大な枝葉は王城を超えて大きく外に手を伸ばし、風にゆっくりと揺らめいていた。


「これは・・・すごい・・・。」

「ふあーーー・・・・。おーっきいねーー!!」


僕達は思わず口を開けて呆けてしまっていた。


「ほっほっほ。すごいじゃろう。」


満足そうに微笑むボルデン王。

これは本当にすごい。言葉も失う程だ。


「こっちじゃ。しっかり着いてくるんじゃよ。」


そういうと霊樹の周りを歩き始める。後に続く形で僕達も歩く。

霊樹の外周四分の一も行かないところで立ち止まった。


「ここじゃな。」


ボルデン王が霊樹の方を向く。よく見ると人の手形の形に窪みが出来ているのだ。

今まで何人のフィラメントが何度ここでティエンドと会話を交わしたのか。

その歴史を物語っていた。

手形にぴったりと沿う様にボルデン王は霊樹に手を当てた。


「我が≪地霊祈士ティエム・プレギラ≫の名のもとに。精霊ティエンドとの対話を許したまえ!」


ボルデン王の足元が衣服を透過して神々しく光る。

そうか。地の精霊のエンブレムは両足にもたらされるのか。

ガザーリオは力を象徴する両肩から腕にかけてのエンブレム。

ティエンドはその大地を踏みしめる両足に。

こう考えてみるとエンブレムの箇所にも意味がある様に思える。すごく興味深い。

いや待てよ・・・。そうなると僕のエンブレムはどこにある・・・?


思考に閉ざそうとする現実にボルデン王の手が目の前に差し出される。

これで僕もティエンドとの会話が聞こえるって事かな・・・?

ボルデン王の手を取り、シロとも手を繋ぐ。


「おぉボルデンよ・・・おはよう。」

「えぇおはようございます。ティエンド様。本日は良い天気で温かくなりそうですのぅ。」

「そうじゃな。我が木々も大いに喜んでおる様じゃ。して・・・今日は茶と団子は持ってきておらぬのか。」

「この歳になりますとなぁ・・・。ほっほっほ。長い立ち話に膝が文句を言ってきますでな。」

「ほっほっほ。人とはそういうものじゃろうて。だが歳をとって老いるとは実に美しい事じゃ。」

「えぇ、儂も常々感じております。」


ボルデン王とティエンドの会話が直接頭に響く。・・・・・・・・何このおじいちゃん同士の寄り合い!!!もっと話す事あるんじゃないかな!!


「ほっほっほ。そう急くでない。ネクロムの御仁よ。」

「あ、いえ、すみません!」


ってあれ?思わず言葉に出したけど・・・これは言葉による会話じゃなくて意思の疎通なのか。


「その通りじゃよ。待っておったぞ。我らが創造主モルヴァ様の使途よ。それと・・・シロと言ったかな。そちらのお嬢ちゃんも先日の働き。実に感謝しておる。」

「うん!!・・・・ううん。沢山スペラクエバの人を死なせちゃってごめんなさい・・・。」

「心優しき子よ。戦では血が流れる。儂は見ておったよ。そなた達は出来る最大限をした。感謝の言葉はあれど、それを誰が責める事が出来ようか。ネクロムの御仁。いや、クロといったの。そなたもじゃ。」

「・・・・ありがとうございます。ですが――。」

「うむ。言いたい事は分かっておる。ボルデンもその件でそなた達を連れて儂のもとを訪れたのであろう。」

「その通りでございます。魔物達の挙動は如何でしょうか。」

「そうじゃのぅ。スペラクエバの斥候も常に付いておるようじゃ。おおよそ数に変わりはないが・・・。相手としては先の戦闘からこちらが完全に体制を立て直すまで待ちたくはないじゃろう。進軍の速度は早まっておる。このままじゃと・・・あと五日ほどじゃな。」

「かしこまりました。万全は尽くさせて頂きます。本日か明日中にはアルジスからの応援も到着する予定でございますのでな。何とかティエンド様だけでも守り通させて頂きます。」

「儂の事は構わん。ボルデンよ。お前はお前の守るべきものを守るのじゃよ。」

「えぇ。もちろんそのつもりでございます。」

「あの・・・少しいいですか?」

「構わぬよ。好きに聞くがよい。モルヴァ様の使途に秘密にしておくべき事など持ち合わせておらぬでな。」

「ありがとうございます。不躾な質問になってしまうかもしれませんが・・・ティエンド自体に戦う力は無いんですか?」

「儂自体に戦う力は無い。と言った方が良いな。儂の役目は争いとは遠い所にある。豊かな実り、豊かな土壌による生き物の生存確保。儂がモルヴァ様から求められた力はそれだけじゃからの。」

「そうですか・・・。ではもう一つ。」

「うむ。」

「今回の魔物騒動には黒幕がいると想定されます。」

「それについては儂も把握しておるぞ。」

「えぇ。樹木を用いて敵の状況を探れるという事は黒幕が戦場に居るか居ないかわかりませんか?」


今回の魔物達の動きは不可解な点が多い。

まず、何故そこまで多くの魔物の統率がとれているのか。そして次に何故スペラクエバを目指して進軍を続けているのか。

最後に”何故北部から進軍が始まった”のか。

そもそもあんな数の魔物を大陸からかき集める事自体非常に困難な筈だ。

先の戦闘で魔物に感じた違和感。その正体は僕の中で掴みかけては居る。先生の話。今までの旅。それに不可思議な点を付け加えると・・・・。あまりしたくはない仮説が出来上がってしまう。


この戦いがもし、スペラクエバを滅ぼそうとする者の策略だった場合、黒幕は戦場に出ない。当然だろう。自分が生きていればまだ目的を達する可能性は残る。また何か策を練ればいい。

魔物たちを操っているにしても広大な範囲に及ぶ力だ。わざわざ戦場に居る必要はない。


だがもし僕の仮説通りであれば・・・黒幕は戦場に居る。


「儂が木々から受け取る情報は魔力感知に近い物での。そこまで詳細に状況が解るものではないのじゃよ。――だがそうじゃのぅ・・・。黒幕かどうかはわからぬが、魔物の群れ中央から最後尾付近の間。そこによくわからぬ歪みがある。もちろん、そこに強力な魔物が陣取っているだけの可能性も大いにあるのじゃが・・・。」

「いえ、それだけ分かれば十分です。ありがとうございます。」


これで仮説の可能性が残ってしまった。

あとは自分の目で確かめるしかないか。


「それとクロ。この声はお主にしか聞こえておらんのじゃが・・・。あのお嬢ちゃん――シロは何か脳にダメージを受けておるのか?」


中々笑える冗談だけど・・・多分ティエンドはそういう意味では言っていない。


「えぇ。僕達が出会った時、彼女は記憶喪失でした。それが何か?」

「記憶喪失・・・ふむ。」


煮え切らないティエンドの返答。


「いやの、何か魔術の痕跡が感じられるんじゃ。儂は人でいう所の脳と直接会話しておる。シロにだけ何か違和感があるのじゃ。」

「そうですか・・・。今の所は特に変な事もありませんし・・・留意はしておきます。」

「うむ。それが良いかも知れんの。」

「ありがとうございます。」


僕達の会話が一瞬途切れたタイミングでボルデン王が話し始める。


「ではティエンド様。このお二方は十分に信頼に値する存在である事に違いはございませんかの?」

「うむ。ネクロムのクロ。そしてシロ。スペラクエバを救う為、その力を貸してはくれんか?」

「もちろんです。」

「うん!いーっぱい助けちゃうよ!!」

「ほっほ。これは頼もしいのぅ。ティエンド様のお眼鏡に適った今、そなた達はスペラクエバの中心戦力としてこれからの戦いに加わって貰おう。すまぬが・・・存分に力を揮われよ。」

「はい。」

「もっちろん!!」


こうして僕達はティエンドのもとを離れた。

後五日。それをどう過ごすかがこの国の命運を決めるのだ。

それは僕達の双肩にもかかっている。出来る限りは―――尽くす。

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