樹林の大地 7:謁見
―――翌日。僕達は早朝から馬車に揺られて王城に向かっていた。
僕達の拠点からすると王城は結構遠いからな。
「大丈夫かなぁー。ローチさん少し適当そうな人だったし!」
開口一番失礼な事を言うシロ。言葉は少し軽薄な方かもしれないけど芯の通ったしっかりとした大人だ。きっと大丈夫。
「大丈夫だよ。医療班の責任者って言ってたからね。相応の地位の人だよ?」
「それならいいんだけどー。」
そうこう言っている間に王城入り口の門に到着。
入り口を守る門兵に声をかける。
「すみません。クロという者ですが・・・。ローチさんからお話は通ってますか?」
「クロ様・・ですか?少々お待ちください。」
丁寧な対応の門兵。門横にある詰所に確認に行ってくれた。
ふとよぎる不安。
小走りに戻ってくる門兵。
「確認しましたが、昨日ローチから伺った内容にクロ様方のお話はございませんでした。」
「そ・・・そうですか。今日ローチさん王城に来ますか?」
「えぇ、時間からすると・・・間もなくお見えになる頃ですが・・・。」
「少しここで待たせて貰ってもいいですか?・・・お邪魔にならなければですけど。」
「もちろん構いませんよ。いつもこの門を通って王城にいらっしゃるので来ればすぐわかるかと。」
「わかりました。ありがとうございます。」
少し歩いて門兵と距離をとる。
「ほらーーー!!言った通りじゃん!!来たら懲らしめなきゃ!」
「まぁ・・・シロの言う通りだったね。」
懲らしめるのはダメだけどね。
暫く待ちぼうけか・・・。仕方ない。ローチさんが来ない事には始まらないもんな・・・。
―――暫くすると相変わらず銜え煙草をして欠伸交じりに歩いてくる一人の姿が目に映る。
僕達に気付くと、あっと何かを思い出したような顔をして走り寄ってくる。
「おー。お前さん達!すまん。忘れてたわ。」
「そんな事だろうと思いました・・・。」
とりあえずシロ。その握り拳をしまおうか。気持ちは痛いほどわかるぞ。
「酷いんだからもー!!」
「悪かったって!まぁ俺と一緒に城に入れば手続きとかの面倒ごとも無しだ。それでチャラって事にしてくれや。」
「僕は手続しても構いませんでしたけど。」
「クロ・・・意外と根に持つタイプだな。」
あははと苦笑いするローチさん。伝えとくって言ってたのあなたでしょうに。
ローチさんは門兵に色々と説明を始めた。一通りの説明を終えると僕達の方を振り返りグッと親指を立てる。それを確認してローチさんのもとに歩み寄った。
「先日は仲間を救って頂きありがとうございます。戦いに参加していた中に同期がいまして・・・。お二方が居なければ自分は死んでいたと言っていました。・・・本当にありがとうございました。」
時間がゆっくりに。世界が少しだけ輝いて見えた。
「いえ・・・お力になれたなら良かったです。」
「うんうん!助けられてよかった!!」
深く頭を下げる門兵。かけられた言葉に少し心が軽くなる。
少しでも力になりたいと思っていた。・・・でもここからは大いに力添えしたい。
大きな音を立てて開く門をローチさんの後に続いてくぐった。
「ローチさん―――。」
「あぁ。とりあえずボルデン王にお前さん達を紹介する。俺もやらなきゃならん事がてんこ盛りでな。先に面倒ごとは済ませるさ。」
普通に面と向かって面倒ごとって言い放ったなこの人。
良くも悪くも歯に衣着せぬ人なんだろう。
「それに――。恐らく猶予はないんだろ?何にしろ早い方がいいだろ。」
「はい。・・・助かります。」
適当そうだけど状況の把握もしっかりしてる。
僕達の紹介も忘れた――なんて言ってたけど最初からこのつもりだったんじゃないだろうか。
効率の良い人・・・・なのか?
でもたった今目の前で王城内は禁煙だって怒られてるよなぁ・・・。
考えすぎか。
そうこう考えながら王城内を歩き続ける。
”王城”と呼ばれては居れどその形は少し特異だ。
巨大な一本の大樹を囲う様にしてぐるりと城が建設されている。
階層は3階建てと低いものの、一周一キロ以上はあるのではないだろうか。広大過ぎるとも言える王城となっていた。
しかしこの構造。中央に佇む”大樹を基に建設された”事が手に取るように解る。
信仰の対象。地の精霊ティエンドが宿ると謳われる大樹。
国の最も重要な場所だろうからな。
それにしても近くで見ると大きい。大きいという感想を超えて大きいとしか表現のしようが無い。
もう少し近くで見てみたい好奇心に駆られる。
気付けば階段を昇って歩いて昇って歩いて――ローチさんが一つの荘厳な扉の前で足を止める。
「ここだ。あの人は朝早いからな。きっともういるだろ。」
その言葉に小さく頷く。
扉を守る二人の衛兵もローチさんの顔を見て止めようともしない。
顔パスか。この人本当はすごい偉い人なんだよな・・・。
扉を押し開く。
ローチさんの後に続く様にして部屋に入るとそこには豪華な装飾等は全く無く、まるで僕達の拠点宿の内装の様な木造だった。
部屋は広く、謁見の間の様な最低限の設備が用意されている程度だ。
本来なら王の謁見の際にはこの部屋にも多くの兵士が並ぶのだろう。何もない余白も多くある。
だが今、衛兵は不在だ。中央奥に配置された椅子。そこに座る高齢の男が一人いるだけ。
高齢の男の容姿が事細かに分かる距離まで歩くと、ローチさんは片膝を着いた。
僕もそれに倣う。
シロは相変わらず部屋をきょろきょろと見回して楽しそうにしてる。
・・・・グラムに怒られてから何も学ばなかったの!?この子!!
「ボルデン王。昨日お伝えさせて頂きました二名を連れて参りました。」
・・・昨日お伝えさせて頂いた?ローチさんは門兵の前では忘れてたと言っていた。
なるほど―――予想以上にキレる人の様だ。
多分”王にのみ伝えた”のだろう。僕達の行動、能力からして異端な何かで且つ味方である事は判明している。だが解っていたのはそれだけの筈だ。ローチさんは自身の判断には余る。扱い方を誤れば後に響くと考えて王にのみ話を通し、判断を仰いだ。
結果。何者かわからない僕達の事は”ローチさんの仲間”である事だけを周知して王城内に招き、直接王の采配にかけようという魂胆だ。
確かにそれが一番ミスが無い国の為になる行動。そこまで考えられている。
軽薄かと思えば実に堅実。本当に掴み所が無い人だ。でもその行動すべては国を思っての行動。僕が王でも信頼を置くだろうな。
「面を上げよ――。」
その言葉を聞いて顔をボルデン王に向ける。
白髪の長髪に立派な王冠。髭も長く蓄えられており、威厳に事欠かない風貌。
やや細身で長身なのだろう。座っている体つきからもそれが見て取れる。
意外なのは外見からしてドワーフ族の血筋では無かった事くらいだ。
ここスペラクエバは国内にも周りの集落にもドワーフ族が多い。
身長は僕と同じくらい低いが筋骨隆々の人種。職人気質の人が多いイメージだ。
スペラクエバは森に覆われている関係上、本来風の大陸に住むエルフ族の一部も居るという。
どちらかというとそちらに近いかもしれない。
「先の戦。大いに我が国の戦士の命を救ったと聞く。誠に大儀であった。」
「ありがとうございます。」
「ローチからの話では、異端な力を持つと聞いておるが・・・そなたたちの素性を知りたい。既に人払いは済ませた。ここでの話は私とローチのみが知る所となる。問題なかろう。」
そうだな。今回は時間もない。隠す必要も無い。言ってからどう捉えられるかで動きを決めるしかないだろう。
「では自己紹介からさせて頂きます。僕はクロと申します。そしてこっちで礼節を欠いているのがシロです。」
うむ。と王の一言。
「シロは戦闘も魔術も使用できる戦いのエキスパートです。そして・・・僕はネクロムです。」
その一言にボルデン王とローチが驚愕の表情を浮かべる。
・・・・さて、凶兆として排除されるか・・・先の行動によって仲間として迎え入れられるか。
「ふむ・・・。やはりティエンド様の申した通りか・・・。」
僕の予想の二択以外の答えだった。口ぶりからするとボルデン王はティエンドから何らかの形で僕達の存在が訪れる事を察知していたという事か。
「お主達二人は・・・この国の窮状を知って駆けつけたという事で間違いないか?」
「間違いありません。僕達の力で助力できる事があればそれを惜しまないつもりです。」
「それに関しては私からも間違い無いと提言させて頂きます。先の戦いでの彼らには民を助ける事に迷いがありませんでした。まず間違いなく邪な者ではございません。」
ローチさんが僕の言葉の背中を押す。
「うむ。であれば我が国スペラクエバは喜んでお主達を迎え入れようぞ。」
「ありがとうございます。」
「わーい!!ありがとう!」
毎回シロの言葉に肝が冷える。
多分一生変わらないんだろうなぁこれ。
「してローチよ。お主にはまだやる事が残っておろう。向かうがよい。客人二人にはしばし話がある。余が受け持とう。」
「ありがとうございます。では失礼致します。」
ローチさんはサッと立ち上がり、振り向く事無く颯爽と謁見の間を後にした。
扉がバタンと閉まる音。




