樹林の大地 5:闇討ち
「――ここら辺かな。」
スペラクエバに迫る魔物の最後尾。ちらほらと魔物の後ろ姿が見て取れる。
ゆっくりと木陰に着地する。
スペラクエバ城壁北門に続くルートは、北、北東、北西の三方向に伸びる整備された広大な街道。その間は森で仕切られている。
恐らく街道は魔物がぎっしり。森の中を進む魔物が多々いる。その割合は7:3って所だろう。
僕達が始末できるのは3の方だ。もちろん、街道側も少しは手伝う。
声を落としてシロに話す。
「作戦はそこまで難しくはない。今、魔物たちは主に広い街道を進んでいる。そして残りが森の中を進んでいる状態だ。街道は広いし、闇討ちには向かないから森の中の魔物を殲滅する。」
「うん。おっけーだよ。」
「でも、狼型の魔物や虎型の魔物は耳も鼻も利く。バレずに戦うには少し面倒な相手だ。」
「そうだね・・・。野生動物の狼と虎も戦ったら強かったもん。」
戦った事あるんだな・・・。まったくどんな訓練したんだ。まぁそれぞれの特性を知っているなら有難い。
「つまり、クラールハイドで透明化してても効果は薄い。代わりにこれを使う。」
杖をシロに向ける。
「スチルレッシェ。」
クラールハイドが解け、僕達の姿が顕わとなる。
「これ何したの?」
「簡単に言えば気配を消す魔術だよ。もっと現実的に言えば、その人の発する匂い、音とかを周りに伝わりづらくする魔術。今回は高度な発動にしたから効果も高い。まぁ・・・その人の身体能力ありきの魔術だけどね。これで陰から陰へ。闇から闇への移動がバレなくなる。もちろん。魔物に見られでもしたら即アウトだから気を付けてね。」
「問題無いよ!ありがとう!」
「うん。街道を囲う森は四方向。僕とシロ、手分けして潰していこう。」
「ちょっと待って!街道の魔物はそのままなの?」
「ううん。そこも考えてある。――僕達には心強い仲間がいるでしょ?」
「あぁ!ウルフ団の皆!!」
「そういう事。17頭のルミオクタウルフを三か所に分けて、適宜攻撃と撤退を繰り返させる。魔物からすれば前にスペラクエバ兵、後ろにウルフ団。戦いづらいだろうね。もちろん手傷を負えばシロはわかるだろうから、状況をみて攻撃と撤退を繰り返して。」
「わかった!・・・でもウルフ団は見られても平気なの?」
「大丈夫。ルミオクタウルフは”ただの強力なサモナーの使い魔”だからね。そこまでの状況変化は与えないはずだよ。」
「そっかそっか!それなら問題無いよ!任せて!!」
森の中に蔓延る魔物の殲滅とウルフ団の指揮。シロは難しい戦いになるはずだ。
・・・にしてもこの自信ある返事。本人のキャパシティを超えていない証明だろう。信用に値する。
「念の為に・・・・。」
さらに杖に術式が構築される。
「ダークペイント。」
直後、僕達の色が真っ黒になる。
言葉通り、余すところなく黒くなる魔術だ。夜戦に用いられるともの凄く厄介。
「あはははは!クロ真っ黒だよーー!ホントのクロになっちゃったね!」
「ぶふっ・・・」
シロの言葉に笑いをこらえるエルマー。抑えた口から空気が漏れてるぞ。
「あのねぇ・・・。単純な魔術だけど、夜の中に黒いってすごいアドバンテージなんだからね・・・。」
「わかってるって・・・はー面白かった。」
いつか真っ白になる魔術を開発してシロにかけてやると心に決めた。
「さ、笑ってないで行くよ。」
「うん。・・・ここからは真剣勝負だね!」
ウルフ団を召喚する。久しぶりの勢ぞろい。
零号に作戦の確認をとる。シロ曰く把握しているとの事だ。
「ウルフ団の事は任せたよ。」
「任された!!」
「じゃぁ・・・行こう!!」
掛け声と同時に左右に散る僕とシロ、そしてウルフ団。
文字通り闇に溶ける様に街道沿いの森に潜り込んだ―――。
「ウォオオーーーーーン!!」
低くも甲高いウルフ団の声。魔物を引き付けている様だな。もう向こう側は始まってるって事か。
こっちも既に数十体は片付けたけど・・・森の中にはこの数百倍はいるって事だ。
気を抜かずに行こう。
木々の隙間を軽業師の様に飛びながら次々と魔物を一撃で仕留めていく。
杖は邪魔になるから鞄の中。使い慣れた短刀は意図も容易く時には首を刎ね、時には心臓を一突きにしていく。
これでもまだ時間がかかるな・・・。
「アクセラシオン。」
加速の魔術。対象の速度を飛躍的に上昇させる。
本人の感覚が加速されるわけではないので、シロには使わなかった。勢い余って――が十分に起こりえる代物だからな。
音もたてずに忍び寄る刃はさらにその速度を飛躍的に上げ、魔物の屍を次々と築いていく。
それにしても・・・この魔物達――違和感がある。
何がとは特定できないが何かがおかしい・・・。疑念を振り払う様に短刀は流れる。
完全なノーマークからの闇討ち。ワンミスが命取りになるが・・・ミスを犯さなければこれほど優位な状況はそう無い。―――出来る限り速度を上げる。
―――クロの方は大丈夫かな・・・。って心配するだけ無駄だよね。きっと私よりうまくやってる。
大振りの剣を片手に木の上から状況の把握。
思ったより数は多いけど、密度は低い。慎重にとも言ってられないからありがたいね。
ウルフ団の皆の声も聞こえたし、まだ誰も傷を負ってない。きっと上手くやってる。出来るだけ敵を倒してね!
「私もフル稼働だよ!」
呟きにすらならない程の声量で呟くと足場の木を蹴る。
この木々たちの中ではこの大振りの剣は扱い辛い。だから刺突に徹する。幅も広い分、ある程度急所を狙って立ち回ればミスも無くて済む。幸い、自然動物に近い形の魔物。動きも読みやすい。
次から次へと魔物の急所を一突きにしては木々に飛び移る。
存分に身体能力を活かした戦い。それが私の本質だもん。どんどんいっちゃうよ!
もう多分百体は超えた・・・けどまだまだ山ほどいるんだよね。
これはきっといくら急いでも長期戦になるね・・・。失敗しない様に気を引き締めて行かないと!!
大きく静かに息を吸い込み、再び足場の木を蹴った。
―――あとの問題は城壁の守りが保つかどうかだ。後ろから僕達が強襲している分、いくらか魔物に混乱が起きている事を願いたいが・・・黒幕が司令塔と考えるとその期待は薄い。
スペラクエバの兵に頑張ってもらうしかない。
作戦開始から数時間。
四方向に伸びる森の西側2つがシロ担当。東側2つが僕の担当だ。
僕は既に一つの森を終え、城壁と北東街道間の森の殲滅に当たっている。もちろん、先の森を終えたと言っても、再び街道から広がる可能性もある。だが、あくまで”見つからずに敵の数を減らす”事が目的だ。気にしている場合ではない。
魔物の首を刎ね、もう一頭の魔物の首に短刀を突き立てる。
――これでこの森も制圧完了だ。どの魔物にも見られてすらいない。完璧に作戦を遂行した。
だがわだかまりが残る。魔物に感じた違和感。それがどうも拭えない。
・・・気にしすぎなのだろうか。ひとまずシロと合流だ。
合流地点は作戦開始地点にしてある。ただ戻るだけだ。迷う事も無い。
凄まじい勢いで森の木々の隙間を駆ける。時折、再び森に入っている魔物も刈り取る。
そして合流地点。すでに辺りからは魔物は一切見当たらなくなっていた。
少し待つと反対側からシロが現れた。
「おっまたせー!!何とか上手くやったよ!」
「こっちも問題無いよ。ウルフ団の皆は?」
「まだ魔物軍を後ろから攻撃してるみたい。撤収する?」
「ちょっと待って。戦況を見に行こう。」
僕達に施されている魔術を解き、レビテイト&クラールハイドで上空高く飛び城壁に近づいていく。
徐々に目に映る光景。
魔物軍はその数を三分の一以下にまで減らしている様だ。
これ以上ウルフ団の皆を戦わせて兵士に目撃されれば仲違いになる可能性も一応ある。
「シロ。ウルフ団の皆を撤収してあげて。もう十分だ。」
「わかった!!」
突如消失するウルフ団に魔物が狼狽する姿が映る。
「バウッ!!」
ミニ零号が僕の肩から出てくる。
「お疲れ様。皆無事みたいで良かったよ。」
もっふもっふと撫でた。
「いっぱい頑張ったって!」
「うん。すごく助かったよ。」
「ヘッヘッヘッ!!!」
尻尾をパタパタさせながら喜ぶミニ零号。本当によくやってくれた。
スペラクエバの兵の白兵戦は続いているが・・・やや押している様だ。これなら問題無いだろう。
戦況を下に眺めながら城壁を超えようとした時、僕達の目にそれは映った。




