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屍霊術師ーネクロムー  作者: ELL
3. 樹林の大地
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樹林の大地 3:束の間の物見遊山

「ここにしようか。北門にも近いし、何かあればすぐに駆けつけられる。」


北門近くに一つの宿を漸く見つけた。


「うん!というか・・・この付近って意外と宿少ないんだね?」

「多分だけど、スペラクエバは中心地に近づくにつれて栄える形になっているんだよ。旅にしろ観光にしろ来たらとりあえず皆中心地を目指すでしょ?」

「そうだね。あんなに大きな木があったら近くで見たみたいもん!」

「だから自然と客商売は中心地に近い程増えるんだよ。対してここら辺は居住区と商業区が入り混じった区画。客数は中央地付近よりも少ない。そうなると店の数も減ってくるって訳だ。」

「お店も難しいんだねぇ・・・。」

「商売はきっと難しいよ。まぁ、やった事無いからわからないけどね。でも・・・。」

「でも・・・?」

「客数が少なくてもやっていけるだけ客が入るって事は”良いお店”っていう可能性が高まるね。」

「そっか!!良い宿だといいね!」

「うん。そうだね。」


少しのやり取りの後、僕達は宿の扉を引いた。

中は広めの木造。木の温かさが感じられる内装だ。受付でチェックインを済ませる。

話を聞くと朝夕二食付き。さらに値段もお手頃。これは素晴らしいな。

この状況で客足は少なく、部屋もその多くが空室となっていた。この宿のスタンダードな部屋を指定する。

変わった木製の板が差し出された。これが鍵らしい・・・。面白い。

軽く頭を下げて受付を後にした。


階段を上がって部屋の前に着くと、ドアノブ上に板の刺し込み口がある。受付から受け取った板を刺し込むとカチャリという音。・・・どういう仕組みなんだろう。興味が湧いてしまう。

扉を開けるとこれまた木を基調とした内装。中は十分な広さだ。

スタンダードな部屋でもベッドが二つにソファ。サイドテーブルまである。

これであの値段ならかなりの当たり宿だ・・・。

思わず僕とシロは感嘆の声を漏らした。


「あのお値段でこれはすごいねぇー!」

「そうだね・・・。しかも朝夕二食付き・・・。」

「期待しちゃうね!!」


観光に来たわけではないのだが・・・。いや観光にも来てるんだけどこれは期待してしまうな。

拠点にするには十分に豪華過ぎる。だがこれはありがたい。ゆっくりと体を休められそうだ。


「そういえばこの宿には温泉があるらしいよ!!」

「温泉?」

「うん!さっき受付横に案内版があったから間違いない!」


温泉付き・・・。欲張りセットだな。

規模で言ったら大きい宿だけど・・・この立地でもやっていけている理由がわかった気がする。

とりあえず今日唐突に色々と始まる訳じゃない。

ここまで超特急で飛ばしてきたんだ。今日くらいはゆっくりと疲れを癒そう。

荷物と外套をソファに転がす。


「まだ夕食までは時間もあるし、温泉に行こう。」

「だいさんせーい!!」

「ボクは部屋でゆっくりしてるぞ。」


エルマーの言葉を他所に、シロが万歳した両手をぱたぱたさせる。温泉なんて入った事無いもんな。僕もワクワクしてる。

部屋に備えてあるタオルを抱えて部屋を後にした。



―――結論から言えば温泉は最高だった。他にも人が居たのは何だか少し恥ずかしかったけど・・・。それでも最高だった。露天風呂?という外に温泉があったのは本当に驚いた。まるで疲れが綺麗さっぱり汚れと共に洗い流された気分だ。

そして夕食後。僕達は部屋のベッドで既に横になっていた。


「まさか・・・あんなに夕食が豪勢なんて・・・。」

「さすがの私も・・・・もう食べられない。」

「ボクもお腹がはちきれそうだ。」

「バフフ・・・。」


ベッドで呻く二人と二匹。

それもその筈。温泉を上がってのんびりと自室で過ごしていた僕達は夕食が出来た旨を聞いて一階の食堂に向かった。

そこには想像を超えた光景があったのだ。


”ご自由にお取りください”


そう表記されたもとには積みあがったお皿と十数種類の料理が用意されていた。


「ご自由に・・・?」

「お取りください・・・・??」

「これは・・・何事にゃ・・・・。」

「バウバウ・・・・?」


初めての光景に狼狽する僕達に新たな料理を運んできた宿の従業員が声を掛けた。


「おや?バイキングは初めてかな?」

「あ、はい。バイキングって・・・?」

「食べ放題だよ!ここにある料理ぜーんぶ。好きなだけ皿に取って好きなだけ食べてくれ!ただ、食べ残しが無いようにね。」


それだけ告げると従業員はさらに料理を増やして去っていった。


「食べ放題・・・。」

「えーーーー!!好きなだけ食べていいんだ!!??」

「こりゃぁたまらんな!!」

「バウワウ!!」


大歓喜の二人と二匹。

料理を見るとどれも悩むほど美味しそうだ。

肉に野菜に主食に・・・どれもこれも目移りしてしまう。こうなったら片っ端から試してみるしかないな。

僕が悩んでいる間にシロの皿は既に山盛りになっている。

もちろん、僕の皿にはエルマーと零号の分も盛ってあげる。

急かされてもいないのに、急ぎ足で空いてる席について手を合わせる。


「いただきます。」

「いただきまーす!!」

「食うぞ!!」

「バウッ!」


――あれは食べ過ぎた。でも不可抗力だったんだ。

バイキング・・・あんな素敵なシステムがあるなんて誰が想像出来ただろうか。

これから暫くは幸せな日々が続きそうだ。嵐の前の何とやら。気は抜けないけどね。でも結局は何か動くまで待機しかする事は無いのだ。今の内に少し観光とかもしておいても良いかもしれない。

他愛ない雑談が続く中、徐々に少なくなっていく口数。

徐々に鈍くなっていく思考。

・・・たまにはこういう安寧があってもいい。少し口角が上がる。

部屋の明かりを消す事も忘れたまま、二人と二匹は眠りについた。


それから僕達は拠点宿を中心に色々と周った。厳戒態勢の中という事もあって営業していない場所も多々あったけど、それでも様々なものを目にすることが出来た。

あの素敵なバイキングのシステムも、この豊かな農作、酪農産業が成せるシステムだったんだな。

武具店も独特な物が多かった。くの字に曲がった短刀やら竹筒に通された槍やら。大衆向けというよりも、集落出の”戦える人に向けた武具”といった品揃えばかりだった。

そう考えると国を守る兵士たちの備えは国で管理しているのだろう。変わった武具ばかりでは兵士たちの鍛錬にも乱れが生じてしまうだろうからな。

他には滝というものも見た。知識としては知っていたけれど、想像していたものとは迫力が違った。

百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ。この時は・・・少し遠出になってしまったけど何も起こらなかったから結果オーライだ。

見分を広める物見遊山。僕達自身の目的も決して忘れてはいない。

このスペラクエバに滞在しているのだって”国を守る為”ではない。僕達の旅の過程なのだから。




―――滞在10日目の深夜。事は起こった。

けたたましい警鐘の音が響き渡る。無理矢理叩き起こされるようにして僕達は跳ね起きた。

情報が脳を通る前に状況は把握できた。

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