樹林の大地:零号爆走
――僕達は炎の大陸をもう少しで越境する付近。つまり炎の大陸最西で野営をしていた。
ここまでは北西に向かってきた。だがこれからは西に一直線でスペラクエバに到着する筈だ。
ここまでくると炎の大陸特有の荒野の様相もかなり移り変わっている。
徐々に樹木が乱立するようになってきた。
荒野は平たんで移動しやすかったが・・・ここからはそうも行かないかも知れない。
そうは言っても零号の大活躍のお陰で、ここまで約4日。あと6日もあれば恐らく着くだろう。
・・・・変な妨害が無ければ。
「晩御飯出来たよー。」
シロの声に思考が現実に引き戻される。
焚火の上に火にかけられている鍋から皿にスープがよそわれている。
「ん。ありがと。」
「ここまで順調だねぇー。」
「そうだね。零号のお陰で魔物が寄ってくる事も無いし、道も走りやすい。でもこれからはどんどん樹木が多くなって、それなりに移動しづらい道が続くだろうね。」
「そうだねぇー。ここら辺もかなり木が生い茂ってきてるし。・・・そういえば地の大陸ってどんな所なんだろう?」
「エンブレイシアのスペラクエバが治める地の大陸。その大陸は様々な樹木が生い茂り、豊かな土壌から農作物の生産、酪農産業が盛ん。ってくらいかな。だけどその豊かな自然環境から魔物や自然動物の生息数は大陸随一。だからスペラクエバは強力な自衛軍隊を持っている。」
「でも・・・それでも何ともならない程の魔物が押し寄せてるんだよね?」
「うん。僕達の移動速度ならまず間違いなく事が起こる前に間に合う。・・・何かの妨害が無ければね。」
「・・・妨害?魔物とか??」
「いや。グラムと僕の話を聞いていたと思うけど、普通魔物は徒党を組むことがあっても数十程。今回の数は明らかに”何らかの意図”がある。」
「―――あ!じゃぁ誰か悪者がいるかもしれないってことだね!」
「御名答。だから油断せずに行こう。」
「うん!!油断大敵だ!!」
スープを食べ終えてテントに入る。
まさかアルジスにいる内に便利かなと思って買ったテントがこんなに早く役に立つとは思わなかったな。勝っておいて大正解。中は快適だ。シロとモフモフ二匹と一緒に寝ると少し狭いけど・・・。少なくとも寒さに震えることは無くてよかった。
―――翌日。
早朝から僕達が零号に乗って移動を始めて数時間。
南北にひたすら長い壁が見える。国境か。確か・・・。零号をシロに任せて地図を確認する。
道は間違ってないな。ここら辺に国境検問がある筈だ。
暫くして長い壁の縮尺が僕達の身長を遥かに超え始めた頃。
国境検問らしき砦が見える。
「よし。クロ、止まってくれ。」
エルマーが告げる。
「恐らくグラムの伝令よりボク達の方が早い。アルジスみたいに簡単には行かないぞ。」
「あ、そういう事か。って事はエルマー・・・・?」
「おう!!お待ちかねの身分証タイムだ!!」
僕は溜息を吐き、零号を止めた。
零号から降りるとエルマーは零号の背中の上に乗ったままリュックをガサゴソと漁り始めた。
そして差し出される二枚のカード。
「これは・・・。」
なんて一般的な入国証!!
変な事が何も書いてない!!
少し残念そうなシロ・・・どうしてなのか。
「今回はすまないが普通の入国証だ。遊びの余地はなかった。そもそも必要最低限の物しか必要ないしな。・・・スペラクエバの入国証はもうちょっと色々あるから安心してくれ。」
「仕方ないねぇー・・・。」
待て待て。
何だ?普通のじゃダメなのか??普通のでいいよね。普通ので。
今回は無駄な疲労をしなくて済む。少し安心。
僕達は国境検問に歩いて近づいた。
恐らくスペラクエバの現状が噂で届いているのだろう。地の大陸に入国したい者は誰一人並んでいなかった。
砦の入り口から中に入る。
この時期に入国がある筈ないと、僕達の姿を見て検問所の兵士が驚いていた。
軽く頭を下げると、兵士が気を取り直して告げる。
「入国証の提示をお願いします。」
「はい。」
二枚のカードを差し出す。
アルジスのギルド証まで偽造出来たのだ。先生が作る者にもはや疑いはすまい。
「はい。問題ありません。―――ですが・・・。」
「スペラクエバの状況ですね。・・・知った上です。」
「今は予断を許さない状況に国も緊張してます。お気をつけて。」
「ありがとうございます。」
少しのやり取りの後、僕とシロ、エルマーと零号は砦を通り抜けた。
砦を通り抜けた先はまさに森林地帯。城壁の外に及んでいた樹木たちはさらに密度を高めて乱立している。風は湿りを帯び、乾燥しきった炎の大陸とは体感からして違うものだった。
正面には街道らしき道もある。
らしき・・・というのも広い獣道程度の道だからだ。まぁこれだけ樹木が乱立していれば道の舗装もそう簡単ではない。
仕方あるまい。この道を行こう。
「急いで行こう。」
「うん!」
零号のサイズがみるみる内に元の巨大サイズに戻る。
「バウバウッ!!」
早く乗れと催促する零号。役に立てている事が嬉しいんだろう。少し笑顔が零れる。
零号に跨る僕達。
零号は凄まじい速度で樹木生い茂る道程を走り始めた。
炎の大陸を走っていた時より速度が早い気がする。足場が滑らない分、速度も出るのか。
「バウッ!!」
「零号がしっかり捕まれって!!」
「わかった!」
シロが零号の言葉を代弁する。何かは解らないがしっかりと零号の毛皮にしがみついた。
直後、零号は獣道から少し外れた樹木に向けて跳躍する。
それからは木から木へ、時には地面を経由して超スピードの移動速度をさらに上げる。
しがみついているのがやっとだが・・・スピードが上がるのは助かる―――。
これなら予想より早く到着出来そうだ。が、道が逸れる分、随時地図の確認を怠らないようにしないとな。
いつもありがとね―――零号。
僕の思いが伝わったのか、零号はひと際大きな跳躍を見せた―――。




