炎砂の大国 33:忙しない出国
軍務本部の扉の前に佇む僕とシロ。そして肩に乗るエルマー。
扉を押し開ける。
中に入るなり、僕達の姿を見たグラムから声がかかる。
「おお兄貴!シロ!来てくれたか。」
そう。いつの間にかシロはグラムとも仲良くなっていた。
まぁ・・・僕の連れでもあるから無下にも出来ない内に打ち解けた感じだろう。
「何事ですか?基本的に僕達は国政や軍務に介入するつもりはありませんけど・・・。」
「そうだねぇー。私達基本的に旅人だし・・・。どこかに肩入れするつもりはないよー?」
「ああそりゃ解ってる。・・・けど今回の事は耳に入れておいた方が良いかと思ってな。」
グラムの元に歩み寄る。
十人ほどが大きめのテーブルを囲んで意見を交わしている。
テーブルの中央には大きな世界地図。
グラムが指を差す。
「俺たちがいるアルジスはここだ。今回二人にも聞かせておきたかったのはこの炎の大陸の隣国。地の大陸についてだ。」
頷く事で話の続きを促す。
「俺たちの住んでいる大陸は四つが陸続きになっているのは知ってるよな?天上大陸シエロ意外はグルっとこの星を包むように陸続き。その南北には広大な海が広がってる。」
「えぇ、把握しています。」
「端的に説明するぜ。――まぁ訳あってこの国は正反対にある水の大陸とは仲があんまり良くねぇ。エンブレイシアのマールとは少し思想の食い違いが大きいんだ。マールは水の精霊≪カタラディネ≫及び、シエロの≪フォスキア神≫の信仰を元に大陸が運営されている。対してこちらはどちらかってぇとモルヴァ神寄りだ。信じる者が違えば自然と仲は悪くなっちまう。」
「なるほど・・・。」
「だが、俺らの大陸の東西はフォスキア神、モルヴァ神どちらの信仰も大陸内にある地の大陸と風の大陸だ。もちろんそれぞれ風の精霊≪トルエ≫と地の精霊≪ティエンド≫が信仰の最たるものである事は確かだな。」
「・・・という事は、両隣の国のお陰でこのアルジス有する大陸は水のマールと完全に敵対しなくて済んでいるという状況なんですね?」
「――さすが話が早いな。その通りだ。だから俺たちは両国と友好条約及び不可侵条約を締結している。まぁ骨も風化しちまうほど昔から取り付けられていた条約を俺が引き継いでるってだけだが・・・。」
グラムはアルジスの西隣の大陸中央を指差す。
「ついさっき、地の精霊≪ティエンド≫を主祖とするエンブレイシア≪スペラクエバ≫から救援の要請が入った。」
「救援?エンブレイシアが他国に助けを求めるなんて・・・よっぽどの事でしょうか。」
「あぁ、そもそも地の大陸にはスペラクエバしかねぇ。まぁ正しくは、他に集落がいくつかある程度だ。街と呼べるものは他にない。」
「その代わりに広大な土地と人口を誇るエンブレイシアでしたよね?」
「ああその通りだ。そのスペラクエバから救援要請が入れば友好条約を締結している手前、こっちもそれなりの出方をする必要がある。」
「という事は・・・戦争に近いレベルの何かがこれから起きる・・・?」
「そういう事だ。だが、マールとの侵略及び防衛の戦争じゃねぇんだ。それなら兄貴には声を掛ける必要は無いしな。」
その通りだ。それこそ国政介入甚だしい話になってしまう。
「では・・・?」
「どうやら―――救援要請の内容からして魔物の群れらしいんだよ。」
「魔物の群れ・・・?そのくらいどうにかならないんですか?スペラクエバ程の規模があれば国を守る兵士は10万はくだらないでしょう。」
「その数30万体。斥候が肉眼で確認したらしい。規模からして”最小”の数で30万体だ。それがどういう訳か北部から徒党を組んでスペラクエバに向かって進軍しているらしい。」
「な―――。」
思わず言葉を失ってしまう。
そもそも、魔物の中には数十で狩りや街を襲う事は多々ある。
だが、30万もの魔物が統率されている事自体おかしい。
――何者かの介入があると考えるのが当然だ。
「まぁ数が数だ。進軍の速度自体は遅い。だが、このままではひと月しない内にスペラクエバに到達するとの事だ。そこでこっちからも派兵はする。だが出せて2万だ。腕は保証するがな。」
「今から急いで派兵したとしてスペラクエバにはいつ到着するんです?」
「早くて20日後。どれだけ急いでもそれが限界だ。」
それでは間に合わない可能性もある。
今でこそ遅い進軍もいつ加速するかは解らない。
「――シロ。僕はこれからスペラクエバに向かおうと思う。これは――明らかに異常だ。」
「奇遇だね!私も行こうって言おうと思ってた!!観光する前に街がなくなっちゃ困るもん!」
「お、おい流石に兄貴と言えども巻き込まれたらきついぜ・・・?」
「巻き込まれない方が後悔しそうなので。それに僕達なら10日足らずでスペラクエバに到着出来ます。」
「――――。わかった。兄貴が決めた事にとやかく言うつもりはねぇ。・・・ただ――。」
「誰かが裏で糸を引いている・・・ですね?」
「――かなわねぇな。」
溜息交じりにグラムが笑みを零す。
「何か必要なものがあれば言ってくれ。すぐに用意させる。」
「では数日分の食料を。それだけで十分助かります。」
「わかった。すぐに用意するぜ。」
「ありがとうございます。ここに招いてくれた事にも感謝しています。」
「兄貴は旅人なんだろ?・・・これから行く場所がなくなっちまってたら困るだろうからな。」
ニッと笑うグラム。ふっと笑みを返す。
そう。僕達は旅人だ。色々に移ろって・・・そこで正しいと思う事を成す。
僕達が僕達である証として。
「シロ。行こう。」
「うん!!」
僕達は頭を下げ、軍務本部を後にする。自体は一刻を争うのだ。今からアルジスを出る。
軍務本部前で待ってくれていたレベンさんに事情を説明し、一度部屋に戻る。
身支度を済ませるとドアのノックが部屋に転がる。
扉を開くと、十分な程の食料を準備してくれたレベンさん。やはり仕事が出来る叔父様は違う。
有難く鞄にしまい込む。・・・・もちろん見られない様に。
「準備は大丈夫?」
「バッチリ!忘れ物も無いよ!」
「ボクもいつでも良いぞ。」
「バウッ!!」
今回も零号にお願いする事になるだろう。存分に力を揮ってくれ。
一通り確認した後、部屋を後にする。部屋から出るとレベンさんが待ってくれていた。
「レベンさん。大変お世話になりました。」
「ありがとね!!レベンさん!!」
「いえいえ、お二方の願いに沿えましたならそれだけで光栄でございます。くれぐれも・・・・お気をつけて。」
「はい。」
「うん!」
「あと――グラムさんにも感謝の意をお伝え下さい。僕達は心から満足できたと。」
「――!・・・はい。承りました。」
僕の言葉を噛みしめる様に深々と頭を下げるレベンさん。軽く頭を下げて王館を出る。
ここからはまず時間との勝負だが・・・その後、アルジスを出国する際も特に煩わされる事は無かった。
グラムの計らいだろう――。これは助かった。
ええと・・・西口から出たから・・・・北西の方向か。一応地図を確認する。
――――こうして僕達は忙しなくアルジスを出る事となった。
沢山の人々にお世話になったし、良い体験も沢山させてもらった。
「・・・良い街だったね。」
「そうだね・・・。また来よう!!」
「――うん。」
僕は深く頷く。
ロクに挨拶も出来ずに出国してしまったな・・・。
後ろ髪を引かれる思いを振り払うようにして召喚された零号に跨った。




