炎砂の大国 32:アルジス滞在
――――翌日。
「クロー・・・。起きてーー・・・・。」
呻くようなシロの声で目が覚める。
意識は戻ったがまだ眠い。寝返りをうつ。
「どうしたの・・・・?」
「私風邪かも知れない・・・。頭痛いし体がだる重い・・・。昨日の宴会も途中から覚えてないしさぁ。」
深刻に告げるシロに止む無く上体を起こす。
「それ・・・二日酔いだと思うよ。昨日シロお酒飲んでたし。」
「え!?私お酒なんて飲んでないよー。葡萄ジュースしか。」
「あれワインだったよ。」
「えぇーー!?通りで変わった味の葡萄ジュースだと思ったー。・・・・お酒って怖いね。」
「怖かったのは僕の方だけどね。」
ひとしきりこの部屋を使っていい事やらなんやらを説明した。
「とりあえず・・・この体調の悪さを何とかしたい・・・。」
「レベンさんなら何か知ってるかもね。」
時間は朝と昼の間。起きるには丁度いい時間だ。
起き上がって身支度を整える。シロはその余裕も無い様だ。鎧は後でいいとの事。そんなに二日酔いって辛いのか。・・・僕はお酒飲まない様にしよう。部屋を出る。
ええと・・・確か部屋の入り口にあるベルを鳴らせば良いんだっけ。――これか。
チリリーン。
ベルの取っ手をつまんで横に一度振る。甲高い音が廊下に響く。
少し待つとレベンさんがやって来た。・・・これどういう仕組みなんだろう
「おはようございます。如何なさいましたか?」
「おはようございます。あの・・・シロが二日酔いみたいで――。何か二日酔いに効くものってありませんか?」
「左様でございましたか。昨日の宴で本日は二日酔いの者も多いですから、館員用の食堂で二日酔いに良いスープをお出ししております。宜しければご用意させて頂きます。」
「あ、レベンさんもお忙しいでしょうから・・・場所を教えてもらえれば自分たちで行きますよ。」
「いえいえ。今の私の勤めはクロ様方の身の回りの世話、及び観光引率のみとなっておりますのでご遠慮なさらず。」
そうなのか・・・。本当に特別待遇なんだな・・・。
「では・・・お願いします。」
「かしこまりました。しばし、お部屋にてお待ちください。他に御入用のものはございますか?」
「あ、では軽い食事も一緒にお願いします。」
「かしこまりました。失礼致します。」
深く頭を下げてその場を後にしたレベンさん。
とりあえず部屋に戻る。テーブルにある椅子で待機。
ややあってコンコンと二回のノック。早い。というか早すぎる。さっきお願いしたばかりなのに。
扉を開ける。
「お待たせ致しました。」
そう言って食事を乗せたワゴンとレベンさんが部屋に入る。
ぐったりと机に突っ伏しているシロの前にスープ。僕の前には比較的軽めの朝食。
「シロ様、こちらのスープをお召し上がり下さい。二日酔いにはこのスープと定番な程のものです。飲めば昼過ぎには体調も落ち着く事でしょう。」
「ありがとー・・・。」
顔色の悪いシロがスープをスプーンで食べ始める。
僕は自分の前に用意された朝食に手を付ける。
「本日のご予定は如何なさいますか?」
「とりあえず・・・シロの体調次第ですけど。治り次第観光に行きたいとは思っています。アルジスには色々な観光地もありますし・・・武具のお店も周ってみたいと思ってます。」
「かしこまりました。観光地はとても一日では周りきる事は出来ませんので予定を分けて観光されることをお勧め致します。私にお任せいただけるのであれば・・・二週間程で一通り周れるかと存じます。」
「あ、ではお任せしても良いですか?レベンさんの方がアルジスにはよっぽど明るいでしょうし。」
「かしこまりました。武具の店舗のお好みはございますか?」
「いえ、特に自分達の武具を購入する訳ではないので・・・有名どころを何件か見てみたいってくらいです。」
「左様でございますか・・・。では何店舗か候補をご用意させて頂きます。」
「頼りっきりで申し訳ないです。」
「いえいえ。滅相もございません。クロ様方が心行くまでアルジスを楽しんで頂ければそれに勝る喜びはございません。・・・して・・一つお願いをしても宜しいでしょうか?」
「?。出来る範囲であれば何でもどうぞ。」
「そのクロ様がお召しになられている服を少し拝見させて頂けませんでしょうか。」
うーん。少し悩む質問。まぁでも見ただけで何がどうなる訳でもないし良いか。
話をしながら摂っていた朝食を終える。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。では失礼致します。」
両腕を差し出す。
レベンさんはポケットからルーペの様な物を取り出し、少し遠慮しがちに両腕の服を見つめ始めた。袖を少し捲り、裏地もルーペで確認している。
「ありがとうございました。・・・如何にして此方のお召し物を?」
「ええっと・・・それは秘密です。ただ――大切な人からの贈り物とだけ。」
僕の返答にニッコリと笑顔を返すレベンさん。
「こちらのお召し物はかの古の武具職人ヴェルム作の物に間違いございません。しかも世に確認されている3着及び5組の武器とは異なる逸品です。」
「武具職人ヴェルム・・・ですか?」
「えぇ。古の遺跡から発掘されたその武具には如何なる事象からもその者を守り、如何なる敵をも討ち滅ぼす力が備えられていると聞き及んでおります。」
――先生・・・一体何者なんだ・・・。
まさかそんな伝説の武具職人だったなんて・・・。確かに魔道具マニアだったけど・・”武具職人”と言われるとしっくりこないな・・・。多分あの人の正体はそんな易しいものではない。
それに古の遺跡から発掘と来た。
僕の想像がするだけ無駄なものに思えてしまう。
「恐らくクロ様方が持っておられる武具を競売に出せば城がいくつか買える程の値が付くでしょう。」
ほう。城とな。もう驚かないぞ。
先生が色々とおかしいのは知っていた。それが予想以上におかしいだけの話だ。
・・・・・・・帰ったら問いただしてみよう。
「ですが、そうそう見て解るものではございません。盗もうとする輩もいないでしょう。これは私の心の内に仕舞っておきます。」
「そうして頂けると助かります。」
「グラム様が敗れたというのもにわかには信じられませんでしたが・・・。今は頷けます。大変失礼を致しました。」
「いえいえ。お気になさらず。」
深く頭を下げるレベンさん。
やり取りを終えるとレベンさんはテキパキと朝食の皿をワゴンに片付ける。
シロはスープを食べてからいつの間にかベッドに戻っていた。・・・相当しんどかったんだろうな。
「大変良い物をお目に書かれて至極光栄でございました。ありがとうございます。」
「それなら良かったです。これから色々と宜しくお願いします。」
僕の言葉に爽やかな微笑みを返すと、シロの体調が回復したらまた教えてくれとの事。
ワゴンを押しながらレベンさんは部屋を後にした。
ソファに移動する。
ソファ横のサイドテーブルに本が何冊かある。
”ガザーリオ信仰”・・・か。シロが復活するまで読んでみるかな。
ソファに寝そべる様に腰を降ろし、少し厚い本のページを捲った。
「おっはよーー!!完全復活だよ!きっとスープのお陰だね!!」
本に目を落とす僕に向けてシロの言葉が届く。
顔を挙げるとシロはいつの間にか鎧まできちんと身に着けていた。
”ガザーリオ信仰”――色々と興味深い記述が多い本だったな。
「大丈夫そう?」
「うん!!もうバッチリだよ!」
「時間はまだ昼過ぎだし・・・観光にでも行こうかと思うんだけど・・・。」
「そうしよう!!」
「ボクも行くぞ。」
しゅるりとシロの肩に乗るエルマー。零号は腕輪の中か。それにしてもサモナーの腕輪とは便利なものだ。主の魔力を元に生きているとはいえ、食事も睡眠も必要ない。零号が見聞きしたものは他のウルフ団にも伝わる。視覚、嗅覚、味覚、満腹具合までとは。
まぁ零号だけ外の世界にいる後ろめたさを感じなくていいのは助かるけどね。
さてと・・・。
「じゃぁ行こうか。観光の段取りはレベンさんに任せてあるからきっと面白い所に連れて行ってもらえるよ。」
「うんうん!!何となく覚えてるけどシャキッと仕事をこなしそうな人だったもんね!」
鞄を肩にかけ、杖を手に取る。
旅に出てまだ日は浅いが、このスタイルがすっかりしっくり来るようになってしまった。
部屋を出て入り口に置いてあるベルを鳴らす。
ややあってレベンさんが姿を現す。・・・どういう仕組みなんだろう?
「大変お待たせ致しました。シロ様、お体の加減は如何でございますか?」
「もうバッチリだよ!!ありがとね!」
「それは何よりでございます。」
「良ければ今から周れる観光地に行きたいのですが・・・。」
「えぇお任せください。色々とプランを練っておきました。」
流石出来る叔父様。
レベンさんの後に続く形で王館を後にした。
―――それから二週間。
僕達はアルジスを満喫し尽くした。
有名どころの観光地から穴場の絶景スポットまで。もちろん、僕の希望だった武具を扱うお店も沢山用意されていた。
シロも武具には興味津々だったらしく、僕達は武具の作成体験までさせてもらった。まぁ・・・出来はアレだったけど・・・。
本当に抜かりの無いプランを組んでくれたレベンさんには頭が上がらない。
アルジスを一通り満喫した頃だった。
唐突にグラムから声がかかったのだ。もちろん、滞在期間は普通に話したりご飯を一緒に食べたりもしたけど・・・。今回は軍務本部に呼び出されたのだ。
恐らくただ事ではないのだろう。




