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屍霊術師ーネクロムー  作者: ELL
2. 炎砂の大国
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炎砂の大国 28:真の戦い方

今度は隠す必要も無い。素直に応える。


「確か文献にあったな・・・・。主祖モルヴァのフィラメントか。」

「えぇ。そうです。」


意外と物知りなんだな。完全に脳みそまで筋肉で出来てるタイプだって勝手に思ってた。

誠に申し訳ない。


「不可思議な力の数々。これで合点が行くわけだ。フィラメントは特殊だからな。」

「ではこの戦いも終わりで良いですか?」

「んな訳ねぇだろ。お前が本物かどうかも疑わしい。数百年間ネクロムは不在の筈だ。それがお前みたいなガキなんて・・・信じがたいな。・・・・それに――。」

「それに・・・?」

「久しぶりに本気で戦える相手だ。どっちが強えぇか試さない手はねぇよなぁ??」


あると思います。


「とは言っても、お前と普通に戦ってもこっちの消耗戦にしかならねぇからな。奥の手を見せてやるよ――。」


そう前置きを告げると右手の剣を横ににしてその刀身に余った左手を添える形で構えた。

煌々と光るエンブレム。

突如グラムの足元から突風が沸き立ち、その体が炎に包まれた。

グラムを包む炎柱は結界まで到達するほどに高く、凄まじい熱波が放たれる。


「顕現せよ!!ガザーリオ!!」


グラムの叫び声と同時に炎柱は弾け去り、グラムと炎の精霊が現れる。


ガザーリオの顕現!?精霊を実際に呼び出したのか。


その姿は猛る猛牛を思わせる二本足の脚部。逞しい人型の上半身。その手には炎で構成された両刃斧を携えている。

頭部は獅子に近い形状に二本の大きな角。人間の頭部の面影も残る姿。

――その存在全てが威圧感に包まれている。

・・・そして何より大きい。直立して結界内ギリギリの巨体だ。

グラムの上半身には先程までは無かった炎の鎧が着込まれている。

あれも顕現したからこその恩恵なのか?


それにしても実際に精霊の姿を見られるなんて少し感動してしまう。

自然と感嘆の声が零れた。


「久しいな・・・。グラム。」

「おう。久しぶりだな。」

「我を呼ぶ程の者という事だな。」

「間違いねぇよ。ありゃ化け物だ。」


グラムとガザーリオが軽く話すと僕に注視する。


「おぉ・・・ネクロムの御仁か。お目にかかれて光栄極まる。」


僕を見るなりガザーリオから言葉が漏れる。

何か礼儀正しい。僕も軽く頭を下げる。


「グラム・・・。今回は相手が悪いぞ。我らが全力を尽くしても勝つ目は無い。」

「おいマジかよ!?」

「ネクロムは我の創造主。モルヴァ様の使途。まず勝てる見込みはあるまい。」

「でもよぉ!今回は何も命の取り合いをしている訳じゃねぇ。久しぶりに全力で戦えるぜ!?」

「ううむ・・・それは誠か?御仁。」


うーん。僕は命を取るつもりはないけど・・・。

グラムは完全に殺しに来てた気がするよなぁ。まぁ・・・ここは大人の対応だな。


「えぇ。全力で手合わせをしているだけです。」


・・・あれ?返事間違えたかも。


「おぉ!!この様な機会があろうとは・・・・。ならばグラム!!全力で胸をお借りしようぞ!!」

「そう来なくっちゃなぁ!!」


あ、やっぱり間違えた。

火に油を注いだだけだ。何とか穏便に――と思ったのに。

自分でやった事だ・・・・仕方ないか。


「では参りますぞ!!」

「行くぜぇ――!!」


何だろう。フィラメントと主祖ってどこかしら似てるのかな?

そんなことが頭をよぎってしまう程に唐突に戦闘を開始される。


グラムの剣撃が正面から襲う。

剣の側面を叩く様にして軌道をずらす。イージスのお陰で直接切られてもダメージは負わないだろうけど―――!!

そのグラムの後ろで大きく息を吸うガザーリオが目に映る。

そういう事か!!

危機を察知して後方に大きく飛び退く。

巨大な氷の壁を二枚。衝撃緩和の結界を三重に張る。この間ではこれが限界の対処。

ガザーリオが大きく息を吹きだすと、業炎と呼ぶにも足りない炎が辺り一面を埋め尽くす。

耐えられるか!?


―――結果イージスと引き換えに辛うじて防ぎ切った。氷の壁二枚に三重の結界はものの見事に蒸発、瞬壊。それで軽減していたにも拘らずイージスが解ける程までの火力だったという訳だ。

もちろん、ソルの従属転化も行っていたが炎の量が多すぎる。完全には転化しきれなかった。


・・・闘技場内の雲も雨も一瞬で蒸発しきっている。

とりあえず・・・服に焦げが出来なくてよかった。


もちろん、グラムごと燃やしてたけどグラムは健在。ガザーリオの鎧のお陰だろう。

恐らく炎の全般的な無効化だと推測できる。

――これは面倒だ。グラムで細かく足止め、ガザーリオの炎でとどめと言った連携はさすが。

グラムが剣士としても高い実力を持っているだけあって尚厄介だ。


・・・・仕方ない。


「ふぅーーー・・・・・。」


一つ大きく息を吐いた。

腰に携えた短刀を引き抜く。

――瞳に暗い色が灯る。


「お、漸く本気か!?」

「グラム!気を抜くでない!!」


“これ”には冥属のソルが多量に必要になる。

付近のソルを片っ端から冥属に従属転化。


――本来、”一の扉”の従属転化は他属から冥属への転化の為にある。

”二の扉以降”には冥属のソルが多量に必要となるにも関わらず、自然界には冥属のソルが非常に少ないのだ。


辺りの空気は、先程とはうって変わって重く沈んだ雰囲気に満たされる。

まるで一段と辺りが暗くなったような錯覚を覚える程。


宙に人差し指で十字を切る。

なぞられた様に指の通った後には淡い紫の術式が残る。


「”二の扉”――死屍累々。」


僕の言葉を皮切りに次から次へと地面から死者が這い出して来る。

その姿は実に様々、武装したスケルトンから魔術を扱うスケルトンに歩く屍。骨で出来た魔物。

その数はゆうに百を超える。

――だが正しくは死した体躯を呼び出している訳ではない。

冥属のソルを用いて造られた器に、戦う意思のある魂を定着させているのだ。

戦う意思のある魂たちに器を与え戦わせる。例え器が壊れても魂はモルヴァの元へ戻るだけ。

・・・戦いたい者の為に用意された一時の慰めだ。


続いて地面がひと際大きく盛り上がると、骨で出来たスカルドラゴンが二体。武装した巨大な躯の上半身が砂から姿を現した。


「こりゃぁ・・・・悪夢だな。」

「さすがのお力――。」


躯達は一斉にグラムに襲い掛かる。

一体一体が十分な強さを誇る躯。そう簡単に蹴散らされはしない。

次々と襲い来る魔術と攻撃にグラムは四苦八苦する。

炎で一面を焼き払ったとしても躯は次々と地面から這い出てくる。

――終わりはない。


「一度に全てを焼き払ってくれよう!!」


ガザーリオが再び大きく息を吸い込み始める。

―――が、こちらはスカルドラゴンと巨大な躯に責め立てられ、その隙を与えてもらえない。


「まずはガザーリオだな。」


僕はもう一度宙を十字に切る。

淡い紫の術式は指の後を追いかける様に発光する。


「”三の扉”――風前の紫炎。」


左手を上に向けて開くと紫の炎がボォッと音を立てて燃え上がる。


――”三の扉”。冥神モルヴァが扱う特殊な魔術の一部を借りることが出来る。

これにももちろん多量の冥属ソルが必要となる。

風前の紫炎はその名が示す通り、モルヴァの持つ魔術の中でも最低ランクの魔術。

炎は掌サイズだが・・・消せない炎。このサイズで十分。


「冥刀。―――紫炎。」


この紫炎を短刀にエンチャント。


直後、屍達に紛れる様に疾走。魔力のない僕がここに紛れると感知は殆ど不可能になる。

スカルドラゴンの尻尾から背骨を駆け上がり、巨大な躯の頭に飛び移る。後にガザーリオに向かって大きく跳躍。ここでガザーリオと目が会う。――僕の方が速い。


「精霊って死にませんよね?」

「ご、ご容赦を―――!!」


右肩から左胴下辺りまで斜めにかけて大きく飛ぶ斬撃。切り裂かれたガザーリオの断面は紫炎に覆われ、炎による修復も不可。

炎で出来た精霊体だ。普通に切ってもすぐ炎が湧き出て直ってしまう。それも考慮してのエンチャント。ガザーリオは壮絶な音を立てて仰向けに倒れた。


精霊は不死の存在。だが例外はある。更に上位の存在の力による外的殺害。

――今回はそれに近しい。

大丈夫だとは思うけど早くグラムを何とかしなければ。


「ガザーリオ!!―――クソッ!!次から次へと!!」


孤軍奮闘を続けるグラム。

これだけの数を相手にしても戦闘不能にならないのはさすがだ。

だけど―――。

躯に紛れて隙を突く。背後からの攻撃。

グラムは僕の接近を察知していち早く振り返る。さすがだ。――でもこれでいい。

短刀と剣が噛み合う音。

・・・の後にグラムの刃は紫炎に溶かされ、短刀が振り抜かれる。

ギィンッと鈍い音を立てながら切り取られた剣の破片は宙を舞う。

二撃、三撃と剣と短刀がぶつかる音。その都度剣は切り取られ、柄から少し残る程度となった。

動揺するグラム。見逃さずにここで足を払い、グラムの体が宙に浮く。

地面に尻もちを着くと同時に二の扉を閉める。躯達が霧散した直後にピッと向けられた眼前の短刀。

グラムが大きくため息を零す。


「―――・・・・降参だ。」


グラムの言葉を聞いた後に三の扉を閉める。

短刀に纏っていた紫炎は未練を残す様にふわっと消えた。

凄まじい戦闘の後、唐突に静寂が忍び寄る。

闘技場内の結界が一つずつ儚く消え去り、夜風が颯爽と駆け抜けていった。

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