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屍霊術師ーネクロムー  作者: ELL
2. 炎砂の大国
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炎砂の大国 27:その名を明かす

「おっはよーー!!」


フライングボディプレス。エルマー付き。


「ぶぉっふ!!!」


衝撃に現実が訪れた事を察する。

それにしてもその起こし方何とかならんものかね。


「もーー!何回も起こしたのに起きないんだから―!!」

「あー。・・・ごめんごめん。おはよう。」


あれ?ベッドで寝てる。

昨日確かソファで寝たよな・・・?


「もうお昼前だよー!寝坊助なんだから!!お祭り行くよお祭り!!」


もうそんな時間か。願わくばもう少し寝ていたかった。

けどお祭りエンジンがかかっているシロから逃げるのは不可能だ。


「わかった。支度したら行こうか。」

「うんうん!お祭りも今日で終わりみたいだし思い残す事なく遊ぼう!」


いつもの服に着替えてぼさぼさの髪を手櫛で適当に抑える。

欠伸が止まらない。

シロにもの凄く待ってたアピールをされているので小言も言わずに準備を済ませる。


「よし。忘れ物も無い。行こう。」

「れっつごー!!」

「ボクはトカゲ串また食べるぞ。」


こうして僕達は宿を後にした。





―――その日の夕暮れ後。僕達はハイヴ闘技場に居た。

何故こうなったのか。


「よぉクロ。言ったろ?俺はしつこいんだよ。」

「あのー。僕達はただお祭りを楽しんでただけの筈なんですけど・・・。」


そう。

好きなものを食べ、面白そうな所を周り、戦いの疲れを存分に癒し、英気を養っていた所に衛兵が来たのだ。その手にはグラム王からの書簡。


≪モフモフ隊所属、クロは速やかに出頭せよ。≫


出頭って。僕何も悪い事してないんだけどなぁと思いつつ衛兵の後をついてきたら闘技場に到着してしまった訳だ。

そして目の前にはグラム。職権乱用じゃないかな。


「お前らが祭りを楽しむのは大いに結構。存分に楽しんでくれ。だがな、俺もお前に用があるんだよ。」

「僕にはありません。」

「私もないよー!」

「ボクも特にないな。」


一緒についてきたシロとエルマーも僕の言葉に続く。


「うるせぇ!!黙って聞け!!」


グラムの怒声が響く。

それにしてもこの騒々しい結界の数々。競技場全体に張られてるみたいだけど・・・。

嫌な予感しかしないな。


「昨日の武闘会じゃぁてめぇの都合を察して手を貸してやったんだ。今度はこっちの都合に手を貸してもらうぜ。」


確かに昨日は助かった。グラムが僕が負ける落としどころを作ってくれたわけだから。


「手を貸すかどうかは話を聞いてから決めます。」

「なぁに。そう難しい事じゃねぇ。――クロ。俺との戦いで手を抜いて戦ってたろ。」


手を抜いたというかなんというか勝っちゃ不味い褒賞があったというか。


「手を抜いた覚えはありませんけど・・・。」

「あぁ、言い方が悪かったな。お前”全力で戦えてなかった”だろ。察するに大衆に見られては困る事情でもあったんだろ?」


野生タイプの勘。再び。図星をグサリと突かれた。

グラムは続ける。


「今、この闘技場には俺たちを除いて誰一人いねぇ。王の勅令だ。誰も近寄ったりしてねぇ。そして闘技場には最高位の耐衝撃結界を五重に。隠蔽の結界を三重に張ってある。中で何が起きても感知どころか空気の揺れ一つ外には漏れない。言うまでも無く、遠方からの監視も不可だ。」


粗方予想はついてきた。


「それで・・・?」

「白々しいな。もうわかってんだろ?――全力で俺と戦え。」


これは困った。


「嫌って言ったらどうなりますか?」

「お前にその選択肢はねぇ。」


質問の答えになってない!!目がギラギラしてる!!


「もしも――僕が勝っても何もしませんか?」

「生意気だな。――いいぜ。ただの俺の好奇心だからよ。ガザーリオに誓って何もしねぇ。これで満足か?」

「本当に結界は信用出来るんですか?」

「まだるっこしい奴だな!!国家魔術師に張らせてる。――まず性能に問題はねぇよ!」

「ちょっと待ってて下さい。」


これは逃げられそうもない。

問題を起こさずに切り抜けるには・・・戦うしかないか――。


「どうするんだ?」


一通りのやり取りを聞いたエルマーが問いかける。


「とりあえずちょっと本気で戦うよ。結界も問題なさそうだし。多分僕の素性を明かさないとグラムは満足しない。それよりも先生に心配ないって連絡しといて。この中だと多分先生に状況が映らないと思うから。」

「わかった。心配はしてないが・・・グラムを殺すなよ。」

「あはは・・・。多分大丈夫。」


僕の言葉を聞いて頷いたエルマーはしゅたたと闘技場を後にした。


「これ、預かっておいてくれる?――シロは観覧席で見てて。危なくなったら自分の身は自分で守ってもらう事になるだろうけど・・・。」

「大丈夫だよ!!あの人怖いもんね!黙らせちゃえ!!」


一国の王に対するセリフとは思えないな。さすがシロ。

シロに杖と外套。鞄と服の両袖を外して渡した。タンクトップの形だ。これで動きやすい。

袖を外したから服も傷付いたり汚れたりしないようにしなきゃな。

この服の替えは世界のどこを探しても無いだろう。


「杖使わないのー?」

「僕の杖は今回邪魔になりそうだから持ってて。」

「ほーい!」


両手に僕の荷物を抱えて観覧席に駆け上がるシロ。

シロが座ったのを確認した後、僕はグラムに向かって歩みを進めた。


「お待たせしました。」

「お仲間は良いのか?」

「そんなやわな仲間じゃないですから。――いろんな意味で大丈夫です。」


僕の返答の後。暫くの沈黙。

夜風が強いアルジスにもかかわらず、闘技場には風一つ吹かない。


「じゃぁ始めるか。」

「えぇ。満足したら降参してください。・・・出来たらですけど。」


グラムが不敵に笑う。


「――良い度胸だ!!」


もう隠す必要はない。

今回は存分に戦わせてもらう。

直進するグラムの足元に唐突に氷柱が現れる。


「――!!ぅおっっと!!」


高い跳躍で避けるグラム。

あえて追い打ちはしない。


「これは・・・何の手品だ??」


あり得ない状況に思わず疑問を零すグラム。


「こんな場所でここまで巨大な氷魔術。・・・つまり水の魔術だ。術式もタトゥーも無しにそんな事出来る手段を俺は知らねぇぞ。」


疑問を募らせる。これでいい。


「怖気づきましたか?」

「んなわけねぇだろ!!こちとら燃えて来た所だ!!」


グラムは叫びながら炎の渦を掌から放つ。

僕は掌を炎の渦にかざす。

ソルの結合を解き、従属転化。全て水のソルに変換。

すると瞬く間に炎の渦は蒸気となって消失する。

グラムはそれを気にする事も無く跳躍、上空からの一閃を放つ。

手の甲でいなすと同時に胴に手を当てる。

――炎と水。風のソルを用いた複合魔術。


「ドナーヴァルフ」


グラムの体に凄まじい電気が走る。


「ぐ・・・これは―――!!」


すぐさま僕を蹴り飛ばして距離を取った。

もちろん蹴りはガードしている。念の為衝撃に合わせて後ろに跳んだ。それでも少し腕が痺れる。

本当に強い戦士だ。


「洒落にならねぇな・・・。ノーモーションの魔術発動に魔術無効化。体が痺れてロクにいう事ききやしねぇ。」


よく言うよ。普通なら即意識が飛ぶレベルで発動したのに。反撃して距離を取るなんて中々出来る芸当じゃない。


「こりゃぁ俺も出し惜しみしてる場合じゃねぇな・・・。」


ガシャガシャと上の鎧を脱いで地面に捨てた。

ガザーリオのエンブレムが顕わになる。


「見せてやるよ。手加減無しだ。―――ガザーリオ!!」


叫ぶと同時にエンブレムに光が宿る。

グラムの剣が凄まじい業火を纏う。剣のリーチが二倍以上になるって訳か。


「まだエンジンがかかりきってねぇみてぇだな。俺は全力で来いって言ってんだぜ――!!」


先程とは比較にならない程の速度で剣が振り抜かれた。

飛び跳ね、空中で体を横たわせて回る。剣は僕の僅か下を掠める様に過ぎ去った。


「プロテクト・イージス」


最上級の防護魔術。服に焦げ一つ付けるつもりはない。

僕の着地と同時に地面から火柱が吹き上がる。

これは避けようが無いからな。

火柱から歩いて出る。

出た直後を狙って、グラムは間髪入れることなくエルギ・フラントの槍を投げつける。

それは僕が使った技でしょ。

掌で槍を受ける。

イージスが損傷を堪えている間に超速の従属転化。全て水のソルに変換。

闘技場内にも関わらず結界ドーム上部に雲が溜まり、水を落とした。

まるで夕立の様な強い雨が競技場内に降り注ぐ。

――あ、シロ大丈夫かな。後ろをちらっと振り返る。

いつの間にか傘を差しながらルンルンの観戦。膝の上にエルマーも戻っていた。


「なんの冗談だよ・・・・。こりゃぁ・・・。」

「僕はまだ武器すら抜いてませんよ?」

「わかってらぁ!!ヤバすぎんだろ・・・。」


これだけ水のソルまみれになった状況では、炎を操るのにも負荷がかかる。

それ相応の魔力も持っていかれる事だろう。


「よく見りゃぁお前・・・魔力もねぇじゃねぇか・・・。俺は夢でも見てんのか・・・?」

「現実です。」

「いちいちうるせぇ野郎だな!!」

「そういえば・・・。グラム王はガザーリオに対しての信仰は無いんですか?力を借りる時も呼び捨てですし。」

「あぁん!?・・・まぁいい。俺とガザーリオは信仰云々の関係じゃねぇ。――戦友だ。」

「戦友・・・ですか。」

「あぁ。数多の戦場を駆けまわって勝利を収めてきた戦友だ。」


――!!そういうフィラメントと主祖の在り方も存在するのか・・・。


「昔は・・・自由になる為に力が必要だったんだ。強くなる為なら何でもやった。まぁ強くなりすぎて今となっては≪炎霊剣士フラム・スパーダ≫とか大層な名前ひっさげる様になっちまった・・・。アルジスの面倒ごともこなさなきゃならねぇ日々だ。」


何か後ろ暗い過去もあったのだろう。

本人が話さない事は聞きださない。それが人を傷つけない一番安全な方法だ。


「これで最後にさせてくれ。クロ――お前何者だ?」


真剣なグラムの顔。


「僕は――≪屍霊術師ネクロム≫です。」

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