炎砂の大国 26:武闘会のその後
静寂を破る歓声。
上手くいったみたいだ・・・。
勝ち名乗りを聞いた後に上体を起こす。杖も服も鞄も無事だ。良かった――。
パッパと焦げを払う。
その視界上部に突如差し出される手。
「おう。久しぶりに楽しかったぜ――。」
「どうも。」
差し出された手を受けて立ち上がる。
グラムは意外な顔もせずに観客に手を振った。
「観客もあれだけ派手な戦いを見られれば満足も満足だろ。」
「・・・それは良かったです。」
「もう一度聞くぞ――クロ。お前は何者なんだ?」
「ただの旅人ですよ。・・・それしかお答え出来ません。」
「アッハッハ!!――全くいい度胸だ。俺は気に入った奴にはしつこいんだよ。覚悟しとけよ。」
「あはは・・・・。」
恐ろしい一言。全くもって笑えないな。
グラム王を称える歓声の中、一応グラムに肩を借りる形で競技場を後にする。
「小僧も凄かったぞ!!」
「クロもよく頑張った!」
道中、僕を賞賛する様な声も沢山聞こえた。少し――後ろめたい気分はあるけど。
皆が心から興奮したり熱中してくれたなら戦った甲斐もあったな。
「ほらよっ。」
競技場を後にするなりグラムにポイっとされた。
何だ。普通に歩けるのバレてたのか。
「じゃぁまたな。」
「あ、ありがとうございました。」
またなって言ったな?まぁまたどこかで会う事もあるかも知れないけど・・・。
ううむ。何か引っかかる。
思考に耽りながら控室に戻る。
「クローー!!惜しかったねーー!でも凄かったよ!!怪我とかしてない!?」
「大丈夫だよ。疲れたーってだけ。」
惜しかったは違うだろ。勝っちゃ駄目なんだから。
「よくやったな。見事な負けっぷりだったぞ。」
どこからともなくシュタタとエルマーが駆け寄る。
「でしょ?実際は結構焦ったけどね。」
苦笑いを浮かべる。
エルマーはにゃっはっはと笑った。
「武闘会の褒賞は即日払いだ。支払いはギルド集会所だからな。お疲れの所悪いがギルド集会所に向かうぞ。」
「表彰式とか無いのー??」
「表彰式は無いぞ。毎年グラムが勝つのに表彰式なんてするか。むしろカッコ悪いだろ。」
シロとエルマーのやり取り。確かにその表彰式はカッコ悪いな。
「大丈夫だよ。確かに疲れてるけど褒賞目的に出場してるからね。向かおうか。」
「クロが大丈夫なら私は大丈夫ー!!」
「じゃぁ行くか。」
こうして闘技場を後にした二人と一匹。
外に出るなり、僕らの目を見張る健闘を直接賞賛したい人達に揉みに揉まれた。
イドのおっちゃんもめっちゃ儲かったって。ヨカッタネ。
何とか人々の波をやり過ごしてギルド集会所に到着する。
中に入るなり再び人々の波に飲まれる。・・・勘弁してくれ――。
「褒賞のお受け取りですね。」
「は・・・はい。」
「暫くお待ちください。」
漸く窓口に着いた頃にはヘロヘロだった。何か大会より疲れた気がする。
「お手数ですが再度ギルド証の提示をお願い致します。」
「はい。」
「はいどーぞ!」
「ご本人様ですね。クロ様、シロ様。大会でのご健闘、大変お疲れさまでした。こちらが褒賞となります。お受け取り下さい。」
ガジャッという音を立ててカウンターに置かれたはち切れんばかりに金貨が入った袋。
「おぉ・・・。」
「こんなに!?」
改めて目にすると凄いな。何か悪い気がしてそそくさとそれぞれ鞄にしまった。
何かこれだけの大金を持って歩くってなるとソワソワしそうだ。
「明日は炎霊際、後夜祭となりますから存分に楽しんでくださいね。お二方の戦い、本当に凄かったですよ!」
業務口調の淡々とした口調ではなく、いち観戦者としての言葉が漏れたんだろう。
言葉に熱が籠っていた。
「後夜祭・・・ですか?」
炎霊祭は今日で終わりかと思ってたから意外だ。
「えぇ。炎霊祭はアルジス国民全員の為のお祭りです。本日武闘会に参戦した方々も楽しめる様に明日も一日お祭りなんです。それに、夜になれば”葬送の灯”も行われますから。是非ご滞在ください。」
葬送の灯?何だろう。
「わかりました。もう少しアルジスでのんびりさせてもらいます。」
「うんうん!!お金も沢山増えたからたっくさん遊ぶよ!」
僕とシロの返答に受付のお姉さんは優しく微笑んだ。
僕達は軽く頭を下げてギルド集会所を後にする。
もちろん集会所を出る時も、僕達の居場所を聞きつけた新たな人々に揉まれた。
一躍人気者だ。・・・・はぁ。
「なんか・・・試合よりも疲れたな・・・。」
「そう?私は皆が喜んでくれて私も嬉しい!!」
はい。さすが元気っ子。
「僕はもう今日は宿に戻って休もうと思うけど・・・シロはどうする?」
「もちろん!!沢山遊んでから戻るよ!」
「まぁボクは特に疲れてないからな。シロについてくぞ。」
「やったー!一緒に遊ぼうね!!」
元気印とエルマーと別れて先に宿に向かう。
あ・・・・トカゲ串だけ買っていこうかな。
バタンッ。
誰もいない部屋の扉を閉めた。明かりをつける気にもならない。
あー疲れた。トカゲ串も食べたし。まだ明日もきっと遊ぶだろうからしっかりと休もう。
宿屋のおじさんも、宿の広間に集まってた人たちも既に僕の事を知っていたみたいだ。
次々に労を労う声を掛けられた。造り笑顔が顔にまだ張り付いている。
ソファにゴロンと寝転ぶ。
こんなに人に褒められるのは初めてだ。悪い気はしないけど・・・。やっぱり疲れる。
静かな所が僕の性には合ってるよな。きっと。
悲観的な思考が忍び寄ろうとしてくる。それを振り払うシロの言葉。
僕は考えすぎだ。一仕事終えた後位、何も考えずに過ごそう。
「シャワーでも浴びるか。」
独り言に次いでシャワーを浴びに向かう。
まだまだ旅はこれから。今は浮かれていられるかもしれない。
けど―――。違う違う。今は何も考えない。のんびりゆったりが僕のやるべき事だ。
シャワーから上がって、鞄から出した適当な服に着替える。
ソファに少し丸まって寝転ぶ。
何も考えない。何も―――。
「たっだいまー!」
ドカンっと開く扉。
いつものテンションで帰ってきたエルマーとシロ。
部屋の明かりすらついていない状況に目を見合わせる。
「あれー?クロ?」
声を掛けるが返答はない。きょろきょろと見回しながら部屋に入る。
ソファで寝息を立てるクロを見つけて少し微笑みが零れる。
「ぐっすり寝てるみたいだな。」
「そうだね。今日は大変だったもん。」
シロはクロを起こさない様にゆっくりと抱きかかえると、ベッドに寝かせて肩までしっかり布団を掛ける。
「お疲れ様。今日はベッドを譲ってあげよう。」
そう呟くと、シロはササっとする事を済ませてソファに横になった。
「・・・クロは強いなぁー。私も負けない様に頑張らないと。」
「ちゃんとお前も頑張ってるぞ。」
「えへへ。ありがと師匠。でもまだまだ頑張っちゃうんだから。」
「それがいい。その為にも今日はしっかり寝るんだな。寝る子は育つぞ。」
「ホント??じゃぁ育つ為にも寝なきゃね!――おやすみ!」
「あぁ。おやすみ。」
師弟の会話を終えるとシロは毛布に包まる。
そのお腹の上でエルマーは丸くなる。
少し間が空いてクロは大きく寝返りをうった。




