炎砂の大国 25:決勝戦
シロを救出して、それぞれの入り口から退出してから控室で再度合流を果たした。
「えへへー。クロに勝っちゃった。」
試合は僕が勝ったけどね。
「まさかラディソルなんて使えるとは思わなかったよ。シロ、魔術も使えたんだね。」
「ふっふっふ!!実は魔法剣士だったんだよー!他にも魔術沢山覚えたのにあの時は何故か使えなかったんだよ!!ほんとに!」
「うん。僕が魔術発動を妨害する魔術使ってたからね。」
「えー!?そんな魔術もあるの?ズルい!!魔術師やっぱりズルいー!」
手をパタパタさせるシロ。
魔術師としては僕のほうが先輩みたいだな。良かった良かった。
それにしても・・・決勝戦の対戦相手は誰なんだろう。
決勝戦だけのシードなんて聞いたことないし。そもそも、この武闘会では褒賞自体二位から八位までしか用意されていない。これだけの武闘会なのに決勝戦はおまけみたいな扱いだ。
それか・・・勝敗が既に決まっているかのような・・・。まぁ考えすぎか。
決勝戦は程々に戦って負ければそれで万事解決。めでたしめでたしな訳だ。
「決勝戦に出場されるクロ様。こちらへおいでください。」
不意に声がかかる。
今までの試合からしても呼ばれるまでが短いな。
二連戦になる訳だ。仕方が無いか。
案内役の人が促すままに後を付いていく。今回は競技場左右の鉄格子からではなく、競技場正面のゲートからの入場になる訳か。・・・何か嫌な予感がする。
「では、健闘をお祈り致します。」
物々しい音を立てて正面ゲートが開く。
凄まじい喝采。拍手に歓声。まるで優勝者の表彰式の様だ。
一応軽く手を振りながら試合開始位置まで歩く。立ち止まったところで追加のアナウンス。
「これより決勝戦を行います。恒例となりますが説明させて頂きます。勝者にはこのアルジス国の覇権及び運営権が与えられます。」
ん?今なんて?
アルジスの全権!!??いやいやいやいや。
エルマーが言ってた意味が今分かった・・・。って事はあの不自然なシードは・・・。
「それではお待たせ致しました。我らが国主、ガザーリオのフィラメント。≪炎霊剣士≫!!グラム王の登場です!!」
アナウンス直後、専用の観覧席から飛び上がり、競技場の開始位置に剣を突き立てて着地。
ズドンッという鈍い音の直後、グラムの背後に大きな火柱が上がる。
派手過ぎる登場に観衆は割れんばかりの歓声を送る。
片手に携えた剣を上げて観衆の声に応える。
剣を地面に突き刺し、腕を組んだ。
「よぉクロ。こうなると思ってたぜ。お前、本戦で全く本気じゃなかったよなぁ。」
「あ、え、まぁ余力は温存して戦ってました。」
「そうじゃねぇだろ。俺にはわかんだよ。お前が本気を出したら殺しちまうからだろうが。」
まぁ一理ある。この人もそうなんだろう。野生タイプは時折もの凄く勘が鋭くて怖い。
シロ然り。
「いいか。俺相手にその必要はねぇ。本気で来い。叩き潰してやるからよ。」
「では・・・胸を借りるつもりで頑張らせて頂きます。」
ニッコリと笑顔を作る。
「・・・・――ケッ。食えねぇ奴だな。」
つまらなそうに吐き捨てるグラム。
「それでは本日の最後の試合となります。――決勝戦!試合開始!!」
昼頃に開始した武闘会も日差しはすでに西日。試合開始の掛け声と共に始まった決勝戦。
だがグラムに動く気配はない。受けてやるから何でも来いって感じだ。
決勝戦だし・・・。無様な戦いをしてはこの観衆と炎霊祭に失礼だろう。
ある程度ちゃんと戦ってから負けよう。
じゃぁまずは――。
「アンテルサーチ。」
抜かりなく行こう。相手の状況を調べる魔術だ。
まず鎧には魔術防御のステッカー。アナスタシアとか精神介入系を防ぐ術式だ。
剣には当然ながら肉体強化と・・・炎の強化か。見た目と名前に違わず炎使い丸出しって事か。
タトゥーは両肩・・・見た事無い術式・・・?違うな。
――そうか!あれが≪紋章≫か。初めて見た。
ガザーリオに認められた印。フィラメントがフィラメントたる所以だ。エンブレイシアの由来でもある。
っとまぁ表面から分かるのはここまで。
後は仕掛けてみるしかないか。
「サブルショット!」
ここでは一番発動速度が速い魔術。足元から直接グラムに向けて撃つ。
直後、グラムの正面に炎の壁が立ち塞がる。
硬度の高い砂の塊すら瞬時に溶かすのか・・・。厄介すぎるな。
「サブルサージェント。」
これは相手の足元から直接掴みに行ける。炎の壁は関係ない。
みるみる内に砂に絡めとられるグラム。
――直後。グラムの全身から炎が吹き出し、砂の手は跡形も無く消え去った。
なんだよこれ・・・。
ここのソルで不自然なく発動出来る魔術の殆どは効かないんじゃないか??
多分片っ端から消し飛ばされる。
「・・・終わりか?んなもんじゃねぇだろ。」
「今考え中です・・・。」
苦笑いをしてしまう。
現状考えられる手では全て燃やされる。燃やされる?――そうか。これは試す価値がありそうだ。
「グラムさんからは何もしてこないんですか?」
「あぁ??」
露骨に機嫌を損ねるグラム。
「いや・・・グラムさんって守ってばかりだから、かかってくる勇気はないのかなって。」
白々しく顎に指を当てて考える素振りを見せる。
安い挑発だ。・・・・だが。
「ほう?いい度胸だな。」
剣を引き抜く。
「ならお望み通りに細切れにして燃やしてやるよ――!!」
直進。グラムの剣撃にはシロ程の重さと速度は無い。でも問題なのは炎との組み合わせだ。
恐らくエンブレムのおかげで炎系魔術の術式構築が不要。その数は未知数。下手すれば全部だ。
横振りを杖で受ける。炎の軌跡が後を追いかける様に僕に襲い掛かる。
後方に飛び退いて炎を避ける。対象を失った炎は霧散する。
――これを利用する。
炎が散った後には火のソルが多量に残る。グラムが魔力を炎に転化している為だ。
グラムが炎を出せば出す程この場の火のソルの密度は上がる。
このまま攻撃させ続けて、火のソルを十分に満たす。
「逃げるだけか!?」
「逃げるだけも何も。傷も負ってませんし。」
「こいつは面白れぇ――!!!」
さらに追い打ちをかけるグラム。
剣の後を追う炎。剣撃の後に地面から立ち上る炎柱。
拳に蹴りに纏う炎。攻撃の繋ぎの間を潰す為の炎球。
多種多様な術式を伴わない魔術、剣撃に暫くの間、避ける、受ける、受け流す時間が続く。
「そろそろ息が上がって来たんじゃねぇか!!??」
「そう・・ですね・・・疲れてきました。」
こう息つく間もなく繰り出される攻撃を捌き続けるのも楽じゃない。肩で息をする。
シロより楽とは言えど、そこらへんの傭兵とは比較にならない鋭さを持っている。
的確に急所を狙ってくるあたりも気が抜けない。
下手すれば本当に死んでしまうだろうな・・・。何を考えているのか――でも。
「もうそろそろですね。」
「あぁ!?負け惜しみか??」
横に剣を振り抜くグラムの攻撃を避け、胴を蹴り飛ばす様にして後ろに大きく引く。
グラムが再び剣を地面に刺す。
「何がもうそろそろなんだ?見せてくれよ!!」
「えぇ――死なないでくださいね。」
これだけ火のソルがあれば良いだろう。
一握りの上級魔術師なら使用できる者も居る魔術だ。きっと不自然には思われない。
・・・・はず。
「――古より伝わりし最古の炎。三番目の棺の解放。炎天の霹靂を与えし名をここに。残るは滅びの洞。我に立ち塞がりし者。慈悲なき神の怒りを顕現せよ――。」
――詠唱。
自身の魔力量が及ばない魔術の発動を行う際、術者が自然のソルに直接声に出して語りかける事によりその代行を行わせるもの。
若しくは、より魔術の精度、威力を上げる為にこれから発動する魔術をソルに知らせ、助力を求めるもの。
今回は前者の振りをした後者だ。この魔術を詠唱無しに使ったらそれこそ怪しまれる。
でも威力が足りなかったら、きっとグラムの性格上面倒な事になる。
彼を満足させられる程の強力な魔術発動が必要だ。
術式が自身の足元に展開され、神々しく煌めく。
「エルギ・フラント」
直後――。凄まじい炎が巻き上がり、熱風が僕を取り巻く。
それは瞬時に巨人の上半身の様な形状を象る。
その手には巨大な一つ刃の槍。
観客の歓声が一瞬で鎮まる。
「こりゃぁすげぇな・・・。」
グラムの口から感嘆の声が零れる。
「いきますよ――。」
告げると同時にグラムは地面の剣を引き抜き防御態勢を取った。
グラムの正面にひと際大きな炎の壁が構築される。
目には目を。炎には炎を。
神々しい炎の巨人がその手の槍をグラムに投げつける――。
鼓膜を破るほどの轟音。
辺り一面が焦土と化す程の熱量の炎。
バチバチと砂が激しい音を立てて燃える。
夕日とは別にもう一つの太陽が出現したかのような業火。
ピシッ・・・。
観客保護用のドーム結界に亀裂が入る。
炎で何も見えない前方。
―――やりすぎたか・・・?
数秒の炎の猛りだったが、見ていた観衆には永く感じられただろう。
砂煙ではない黒煙が競技場内に立ち込め、徐々に晴れ始める。
観衆はどよめいていた――。
「サイッコーーーじゃねぇかてめぇ!!」
観衆のどよめきを一蹴するかの様なグラムの声。
剣は吹き飛び、上半身の鎧も殆ど消し飛んだようだが・・・。
グラムは大喜びだ。
「だが・・・。腑に堕ちねぇなぁ・・・。なるほど・・・そういう事か。」
独り言を積み重ねるグラム。
何がなるほどなんだろう。
「てめぇ――何者だ。」
「いえ・・・僕はただの旅人ですよ・・・。」
その質問に言わんとする畏怖を覚える。
「そうか・・・なら一旦幕引きだ。」
ん?幕引き??降参したりしないよな・・・。アルジスの全権なんて要らないぞ。
僕の心配を他所に、僅かに残った上半身の鎧を脱ぎ捨てた。
突如神々しく光るグラムのエンブレム。
「ガザーリオ!!」
叫ぶと同時に両肩のエンブレムが更にひと際激しく光る。
そしてグラムが掲げた右手に悍ましい炎が収束する。
あれは―――。
「ほら、お返しだ!!」
炎により構成されたそれは紛れも無く先のエルギ・フラントの槍!!
「ちょ、ちょっと待ってくださ――。」
僕の言葉に躊躇する事無くこちらに投げつけるグラム。
――瞬時、思考が駆け巡る。
先と同様に凄まじい威力を誇る炎。
観客の雄たけびにも近い歓声が混ざり合い、今大会一の爆音となった。
遂に耐えきれずに壊れる観客保護用のドーム結界。
会場中に残り香程の熱波が吹きすさぶ。
僕は黒い煙を上げながらその場に仰向けに倒れた。
暫くの静寂――。
「勝者!グラム王!!」




