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屍霊術師ーネクロムー  作者: ELL
2. 炎砂の大国
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炎砂の大国 24:クロVSシロ

掛け声と同時にシロが剣を抜く。どうしてなの?

湧き上がる観客。この大会でシロが剣を抜くのはこれが初めてだ。


「クロ相手なら手加減要らないよね!!」

「いや、なんでそうなるのさ・・・。」

「クロ強いもん!!」

「弱くは無いつもりだけど・・・僕死んじゃうかもよ?」

「そんな嘘――私には通じないからね!!」


ドンッと地面を蹴り、容赦なく突っ込んでくるシロ。

初段の突きを体を横に返して避ける。はっやい!!

続けざまの横振りを杖でいなす。

しゃがんで足払いを返すが、軽やかな跳躍で避けられる。

体勢を崩すどころかそのまま上段から剣を叩き落とす。舞う砂煙。

僕は数本の髪を切り落とされる事と引き換えに辛うじて体をひねって避ける。

近接戦闘は避けれはすれど勝ち目がない!

後ろに飛び退く。


「ほら!!死なないじゃん!」


死なないじゃんって殺すつもりだったの!?――死なないけど!!


「シロがそのつもりなら僕も真面目にやるからね。」

「手を抜いて私に勝とうなんて甘いよ!!」


シロが剣を僕に向ける。もうこうなったら手加減はすれど容赦はしないからね――。



「マスター。面白い事になって来たな。」

「えぇ。これは見ものですね。二人とも怪我無く終わってくれるといいのですが・・・クロなら大丈夫でしょう。」

「それはどうかな?シロはボクが鍛えたからな。」

「クロだって私が鍛えましたからね。」


戦う二人を他所に師匠同士の争いを始めるエルマーとロノ。

二人は大いに戦いの行く末を楽しみにしていた。



――さて、まず試してみるか。


「アナスタシア――。」


術式が杖先端に構築。・・・・これがどこまで効くかだな。

シロが再び突っ込んでくる。剣撃や体術は”視える”分避けやすい。けど、僕にも身体能力の限度がある。予見でこちらが避けるよりも相手が速ければもちろん攻撃を受けてしまう。

シロが本気で切りかかってくるとなると予見してもギリギリ避けられるかどうかだ。


「何か企んでも無駄だよ!!」


凄まじい勢いで上から横から剣撃が重ねられる。

魔術を発動したままとなると厳しいけど、時にはちゃんと受ければ守れない事は無い。

剣撃を重ねるたびに徐々にシロの動きが遅くなる。

少しでも遅くなればこちらのもの。

シロの猛攻は気付けば一太刀たりとも受ける必要が無い程に鈍っていた。


「クローー。何か・・・してるでしょ。体が・・・重いー。」


もちろん何かしてる。

――アナスタシア。端的に言えば麻酔の魔術。シュラーフよりも高度な入眠魔術だ。

興奮状態にある人間を魔術で直接眠らせる事は難しい。だから僕は攻撃を受ける度、シロの腕に、足に、徐々に麻酔を施したのだ。

次第に体は動きづらくなり、最終的には言う事を効かなくなる。

普通だったらもうとっくに四肢は動かなくなる筈だったんだけど・・・タフさに驚くよ。

割と僕も擦り傷やら打撲やらでボロボロだし。


「降参する?」

「しない!!」

「なら仕方ないな・・・。サブルショット。」


地面の砂が宙に浮き、強めの硬度に凝縮。土の弾となる。

そしてそれは、まるで散弾銃の様に発射された。

辛うじて避けようとシロは動くが、その内数発はその身に受ける。

大丈夫。全弾受けてもシロなら全身打撲で済む。そのくらいに力は抑えて発動している。

ここまでくれば後は距離を取りつつサブルショットを撃ち続ければいい。

シロからすればただの消耗戦だ。


「ズルいぞー!!正々堂々と戦えー!!」

「正々堂々戦ってるって!これが魔術師の戦い方なの!!」

「卑怯だぞ魔術師!!」


叫びながら剣をブンブン振ってくる。

最高速ならいざ知らず。落ち切った身体性能から繰り出される攻撃を避けるなんて造作もない。

アナスタシアで重い四肢。サブルショットで削られた体力。

何か悪い事してる気分・・・だけど。負けるわけにも行かないし・・・。もう決着にしよう。


「まだ降参しない?」

「しないってば!!」


・・・はぁ。強情だな。

今度は僕自身が地面を蹴ってシロの懐に入る。援護射撃のサブルショットは待機させる。

シロが剣を構える。正面から杖で撃ち合う。

シロは今、力の加減が出来ない。フルで撃ち合ってこれだろうからな。

剣と杖が噛み合う瞬間、いなすようにして少し杖を引く。

体重が乗った剣は杖に付き添う様に僕の左横を縦に通り過ぎようとする。

そこで杖の下先端でシロの手首を下から上に撃つ。

衝撃により握力より解放された剣は宙高く舞う。

これで僕はしゃがんでサブルショットを発動すれば全弾直撃で無事終わり―――。


先走った思考をシロの両腕が僕の体と共に抱き留める。

これはまずい・・・けど抜けられる――。


「ラディソル!!」


シロの口からあり得ない言葉が発せられる。

術式がシロの手の甲付近に構築されている。


「え――嘘でしょ!?」

「嘘じゃないよー!!もう離さないから!!」


不味い。これは不味い。そんな魔術使えるなんて想定してなかった。

・・・完全にアナスタシアが消えている。


「このまま締めあげちゃうからねー!!苦しかったら降参してもいいんだよ!!」


ギリギリとギアが上がるシロの両腕。

こ・・・れは・・・苦しい・・・・・。このままだと色々と折れちゃうな・・・・・。

まだ辛うじて両手は動く・・・仕方ない―――奥の手だ。


「ウィンドラファル!!」


杖を下に向けて高出力の突風を放つ。

一気に巻き上がる砂ぼこり。それは試合場を覆う程の大規模なものだった。


「そんな事しても離さないからね!!」


ニヤリと笑うシロ。


「じゃぁこれはどうかな・・・――零号!!」


叫ぶと同時に僕の後方から黒い影がシロに襲い掛かる。


「ぜっ零号!?」


思わずシロは両腕を解き、黒い影に掌底を浴びせる。

途端。黒い影はサラサラと砂に還る。


「えっ!?」

「アメイセンローグ。」


杖の下先端で地面を突くと同時に距離を取る。

シロは何が起きたか分からず狼狽している内にどんどんと足元の砂に飲み込まれていく。

――別名蟻地獄。発動箇所を起点に渦を巻くように砂が対象物を飲み込む。

いくら力があっても、もがけばもがくほどに砂の中心部に沈んでいく仕組み。

シロの馬鹿力を封じるには持って来いだ。

発動までに少しの時間がかかるから、あんまり移動されると嵌って貰えないのが玉に瑕。

おっと――忘れる所だった。


「サイレントフェアヴィル――。」


直訳すると”混濁の静寂”。これは魔術式の構築を阻害する魔術。

対象のソルを乱し、術式構築に必要なソルへの呼びかけを妨害。術式の構築をより難しいものにする魔術だ。

多分これで他に魔術があっても使えない。


ここでようやくワタワタと砂に沈んでいくシロに声を掛ける。


「どう?降参するー?」


アメイセンローグの淵にしゃがむ。


「零号使うなんてズルいー!!」


正しくは零号を使ったわけじゃない。

ウィンドラファルによる砂煙が起きた直後、僕の背後に犬型のサブルゴーレムを作った。

それを零号の掛け声と共に嗾けただけだ。

僕を締め上げている関係上視界は狭いし、さらに砂煙の中だ。十分零号に勘違い出来るだろう。


「シロだって魔術使えるとか聞いてないぞ。」

「あれは奥の手だもんーー!!」

「僕だって今のが奥の手だよ。どうする?どんどん沈んでっちゃうよ??」

「まーけーたーくーなーーーい!!」

「わかった。じゃぁこうしよう。僕達の目的は大会で二位になる事だ。だからここでの勝ち負けは正直どっちが勝ってもいい。シロの勝ちでもいい。」


うんうんと頷くシロ。既に肩まで砂に埋まっている。


「今回は僕がズルした。だから勝負自体はシロの勝ちだ。でも・・・試合のルール上ではやむを得ず僕の勝ちになっちゃうんだ。だから降参してくれないかな?」


うん。自分でも何を言っているのかわからんが、多分これで納得してもらえる。


「じゃぁシロの勝ちでいいの!?」

「うん。勝負はシロの勝ち。文句のつけようもないよ。」

「わかった!じゃぁ降参するーー!!」


シロは上を向いて顔しか砂から出ていない状況で高らかに降参宣言をした。

――シロにとっては試合などどうでも良かったんだ。

僕との戦いに勝ちたかった。それだけだ。

きっと一緒に旅をする上で思う所もあったんだろう。そこは汲み取ってあげたい。

・・・まぁ実際に僕も危なかったし。奥の手が無ければあそこから抜け出す手立てはかなり絞られたものになっただろう。


「勝者!!クロ選手!!」


降参の言葉を認知され、勝ち名乗りが上げられる。

勝ち名乗りと共に沸く観衆。

ふぅ・・・何とかなった・・・・・。

ほんっと危なかった。



「いやー、クロが勝ちましたね。」


ニヤニヤと話しかけるロノ。


「あれはシロがクロに絆されただけだ。アイツには話術も教えておくんだったな。」

「きっとシロの負けず嫌いは師匠に似たんでしょうね。」

「あぁ、クロの二枚舌も師匠に似たんだろうな。」

「全く・・・エルマーにはかないませんね。」

「マスターも大概だけどな。」


ふふっと笑う二人。


「でも――良い試合でしたね。」

「そうだな。これからの旅も何とかなるだろ。」


エルマーとロノ。二人も特等席から存分に二人の戦いを楽しんでいた――。

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