炎砂の大国 21:炎霊武闘会~クロ初戦~
――何とかハイヴ闘技場にたどり着いた僕とシロ。外套の結び目を解く。
闘技場の正面には大々的にトーナメント表が張り出されていた。
何だこのトーナメント表。決勝戦に直接出場可能なシードがある。こんなトーナメント聞いたことないぞ。出場者は”???”になってるし・・・。
「あー!クロと当たるの最後だね!!」
シロの言葉にトーナメント表の最下部に目が動く。
我らモフモフ隊は一回戦一試合目に僕。最終試合にシロの割り振りだ。
・・・・これ何かしらの意図を感じるな。まぁ深読みしても無意味なんだろう。
シロによる被害者の方々には申し訳なく思うが仕方ない。
「出場者入り口こっちみたいだよ。」
「行こう行こう!!」
「エルマーはどうする?」
「ボクは適当に見晴らしの良い所で観戦にしけこむぞ。」
そういうとエルマーは僕の肩からシュルリと地面に降りる。
「いいか。くれぐれもやり過ぎるなよ。それ以外は――好きに暴れてこい!」
しゃきんっと親指らしき指を立てるエルマー。
「うん。わかった。」
「わかったよ師匠!!楽しみにしてて!!」
それが心配なんだけどね・・・。
僕達の返事を聞くとエルマーはしゅたたたと場所取りに走り出した。
「シロ。やり過ぎないでよ?」
「わかってるよー!!思いっきりやり過ぎない!!」
うん!偉い!!心配!!!
肩を落とす僕とやる気満々のシロは出場者入り口から控室に向かった。
出場者用の入り口を入ると空気が一変。
かなり殺気立っている人ばかりだ。まぁ国民の一大行事で無様な戦いは出来ないだろうし気持ちは分かる。
それに、特別出場扱いの様な僕に対して良くない印象があるのだろう。
ちらほらと嫌味が聞こえる。
逆にやり過ぎたシロに対しては賞賛に近い声が聞こえる。
僕はシロの尻拭いをしただけなのに・・・損した気分。
「わー!みんなやる気満々だね!!」
「そうだね。炎霊祭の目玉行事だから。」
すたすたと座れそうな場所を探す。ここら辺でいいか。僕とシロは空いたベンチに腰を下ろす。
暫くすると観客の入場が始まったのか、急に外が騒がしくなる。
試合はまだ始まってすらいないというのにまるで地鳴りがするような盛り上がり方だ。
「これは・・・凄いね。」
「そうだねー!!わっくわくしちゃう!頑張るぞー!!」
いや頑張らないで。頑張らない事を頑張って。
まぁ、シロがいくら勝ち進んでも僕がシロを下せばいいんだけど・・・。
今思えばシロと戦った事なんてないし、どんなことが出来るか把握していないな。
ただの爆裂元気少女くらいにしか思ってない。
今から面と向かって聞くわけにも行かないしなぁ・・・。
不安だけど・・・いざとなったら少しズルして勝つしかないか。僕が勝たないと何しでかすかわからないもんな。これからの旅の為にも仕方のない事だ。うん。割り切ろう。
それよりもまずは順当に勝ち上がらないと。
足元を掬われては元も子もない。――少し気を引き締める。
「一回戦、一試合目に出場の選手はこちらにおいでください。」
あ、そっか。僕一試合目だった。立ち上がる。
「クロ!頑張ってね!!」
「うん。シロも見られそうなら見ておいてね。」
「不安なの??仕方ないなぁー。」
いや違う。やり過ぎないお手本を見せるつもりだから見ておいて欲しいんだけど。
大きめの溜息が漏れる。
呼ばれた場所に行くと、対戦相手の人が待っていた。軽く頭を下げる。
それにしてもガタイの良い人だなぁ。縦にも横にも僕の二倍くらいありそうだ。同じ人間でどうやったらここまで違うかな。僕ももうちょっと身長欲しかった。
「お前がズルして武闘会に出場する奴だろ?」
うーん。ズルはしてない。
「どうやって取り入ったから知らねぇけど手加減しねぇからな。今の内に覚悟しておけ。」
こちらを見る事もせず凄む。
選考会はあれだけの人数居たからな。僕とグラムのやり取りをちゃんと見えてない人も居たんだろう。全員に見えてたのはグラムの炎柱位だろうか。
ちょっとイラっとする。
シロと違って僕は闘争心があまり無い方だけど・・・。
「お揃いでしょうか。」
選手案内役の人が説明を始める。
「試合の説明を行わせて頂きます。戦闘における反則事項は二つ。戦闘者以外からの補助魔法、援護攻撃の禁止。相手を死に至らしめる事。以上です。武器の使用、魔道具や回復薬などその他の規制はございません。勝利条件は、戦闘相手の意識喪失。及び戦闘意思の喪失。それにより戦闘継続困難となった場合。若しくは相手が負けを認めた場合となります。宜しいでしょうか?」
「問題ありません。」
「おう。」
「ではこちらへ――。」
それぞれに案内役が付き、案内されるがままに後を付いていく。
この闘技場の戦闘場への入り口は両サイドにある。向かい合って登場する形になる訳だ。
しばらく歩くと案内役の人が立ち止まる。
「こちらでお待ちください。正面の鉄格子が開き次第、入場となります。」
「ありがとうございます。」
言われた通りに待機する。
―――さて、どうやって戦おうか。
外の進行が聞こえる。
「それでは皆さまお待たせ致しました。これより炎霊祭メインイベント≪炎霊武闘会≫を開催致します!!」
地鳴りの様な歓声は地響きの様な歓声に位を上げ、武闘会開催を大いに歓迎した。
唐突に目の前の鉄格子が左右に開かれる。
――いきなり始まるのか。まだ何も考えてないけど・・・なんとかなるといいなぁ・・・。
「モフモフ隊所属!!クロ選手!!」
圧倒的モフモフ隊!!・・・・・いい加減慣れてきている自分が怖い。
名を紹介されるがままに歩みを進める。
鉄格子を抜けるとそこはまるで別世界。人種問わずありとあらゆるアルジス国民で観覧席は埋め尽くされている。そして鼓膜が割れんばかりの歓声。
観客の手には酒や食べ物。皆心から楽しみにしていたようだ。どの人を見ても興奮と笑顔を察する事が出来る。
一応観客席にむかって軽く手を振る。歓声がひと際盛り上がる。
何だろう。人気者になった気分だ。よく見ると最前席にイドのおっちゃんがいる。軽く手を振る。
何か叫んでるけどぜんっぜん聞こえない。ニコニコしておこう。
エルマーは・・・・。こっからだと全然見えないな。まぁどこかで上手い事見てるんだろう。
選手用観覧席なんてものもあるのか。まぁいずれ戦うかも知れない相手を見ておきたい人用だろうな。シロの姿も見える。めっちゃ手振ってる。なんですでに周りと和気藹々としてるの?コミュ力お化けなの?・・・考えるだけで疲れる。
気付けば試合場中央付近。試合開始位置まで歩みを進めていた。立ち止まる。
上を見上げるとドーム状の結界。なるほど。観客にとばっちりが行かない為だな。かなり強固な結界が張られている。これなら並みの大暴れなら大丈夫そうだ。
「レイセンギルド所属!!デボーレ選手!!」
ギルド名いいなぁ。どういう意味かわからないけど。レイセンさんが作ったギルドなのかな。
モフモフ隊より良い。まぁうちもある意味モフモフが作ったギルドだけど。
先程イラっとさせてくれた人が向かいの鉄格子から現れる。
360度の観衆に大きく手を振り、携えた巨大な斧を振り回しながらの登場。
派手だなぁ・・・。
存分に観客アピールした後に試合開始位置まで歩みを進めて来た。
少しの静寂。観客たちの歓声も一時の休憩。
「それでは、一回戦第一試合。―――開始!!」
歓声が怒涛の盛り上がりを見せる。
開始の掛け声と同時に相手は大きく斧を振りかぶる。これは避けるまでもない。
杖の先端で斧の側面を撫で、軌道を逸らす。湾曲した太刀筋は僕の左足横に着地。砂煙が舞う。
斧に肉体強化のステッカーが見える。完全に肉体派だ。
ニヤけていたデボーレの表情が少し崩れる。
いやいや、そんなモノ食らう人ここには居ないんじゃないかな。
すぐさま襲い来る二撃目の横薙ぎ。
これだけ重量のありそうな武器に、どう見てもパワーファイターなら――。
「よっと――。」
横薙ぎに振り抜かれた斧に乗る。湧き上がる歓声。僕を見失うデボーレ。
斧から軽く飛び上がり、ガラ空きの頸椎を思いっきり杖で殴る。何も強化してない僕だけの腕力なら重篤なダメージにはならないだろう。
大きくグラつき、そのまま前のめりに倒れる。
歓声は一瞬で静寂に移り変わった。
――・・・・終わり・・・かな?
ややあってフラつきながらも立ち上がる。
やっぱりタフだなぁ・・・。見た目から想像はついてたけど。頭をぽりぽりと掻く。
立ち上がったデボーレは怒りの表情を浮かべている。短絡的で解りやすい思考。対一の戦いでは尚更致命的だ。
――多分奥の手を出す。
「てめぇを舐めていた様だな――。」
言われなくても舐められているのはわかってました。
鎧下右肩にソルの収束。タトゥーか。術式からすると土拘束。確かにパワーファイターには相性が良いかも知れない。
相手を動けない状態にして渾身の一撃を加えるんだろう。
「サブルサージェント!!」
デボーレの叫びと同時に僕の足元から砂の手が這い上がる。
それは瞬く間に僕の頭から足先全体を包み込み、体全体が砂の圧力で動けなくなる。
なるほど。これで拘束して、魔術ごと叩き割るって事か。
「これで終わりだぁ!!」
デボーレは叫び声をあげながら大きく振りかぶり、両手に全身全霊の力を込めて斧を振り下ろした―――――。
ガキンッッ!!
壮絶な勢いで振り下ろされた斧は砂の塊を砕く事は無く、その刃が欠ける。
叩きつけた反動に握力は耐えられず、大きな斧は宙を舞った。
数舜後、空を泳いだ斧は円形闘技場の端に突き刺さる。
何が起こったか分からず狼狽しながらも、自身の両手の痺れに顔をしかめるデボーレ。
体を拘束していた砂が、サラサラとただの砂へと還る。
体の隙間に残る砂粒を払った。
「――サブルサージェント。」
杖の先端に術式が構築。
瞬く間にデボーレの体を砂が這い上がり、頭を残して締め上げた。
体をどうにかこうにかして動かそうとするデボーレ。・・・魔物ですら自力では解けない強度にしてある。まず振りほどかれる事はない。
「お・・・お前・・・何しやがった?」
「何しやがったも何も。ただ貴方がかけてくれた魔術の強度を上げただけです。それで追い打ちが弾かれては世話がない。次からは今みたいに首から下だけを拘束して、首を刎ねる事をおススメします。」
「首を・・・――ヒッ!?」
「では・・・・。」
杖でポンポンと掌を叩きながら一歩。また一歩とデボーレに近づく。
「どうしますか?降参して頂けるなら何もしませんが・・・。して頂けないのであればこの杖で降参するまで殴ります。―――何度でも。」
ニッコリと笑顔を作る。戦いの中での表情とはこう使うものだ。笑顔は時として憤怒の表情以上の威圧感を相手に与える。
暫くの沈黙。
「わ、わかった。・・・・降参・・する。」
「それはよかった。お疲れさまでした。」
拘束を解く。
デボーレはその場に膝から崩れ落ちた。
「だ、第一試合目!勝者クロ選手!!」
息を合わせたかのように沸き起こる歓声。静かだったりけたたましかったり忙しいな。
でも・・・少しは楽しんでもらえただろうか。
観客に軽く手を振って挨拶する。どうやらシロは大喜びの様だ。万歳して両手を大きく振っている。
入場した鉄格子から退場する。
それにしても相手は相当本気だったなぁ。下手すれば死ぬんじゃないかって思うほどに。
いや・・・でも違うか。この大会に出場している人であれば思いっきりやっても死にはしない。それ程の実力者が揃っている。だから本気同士でぶつかり合えるって事なのかな。
うーん。・・・・難しい。何かそういう熱い系はシロの方が理解してたりするからなぁ・・・。
一人でブツブツと考えながら控室へと戻った。




