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屍霊術師ーネクロムー  作者: ELL
2. 炎砂の大国
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炎砂の大国 18:選定試験

――それから存分に色々聞いた。

モルヴァ信仰の人たちの生活から、ガザーリオ信仰に至るまで。時間が許す限り存分に相手をしてくれたジルデムさん。

ちなみに図書館の利用者はただの一人も来なかった。丁度いいタイミングで来られたな。


「――と。そろそろ閉館の時間ですな。」

「そうですね。色々と聞かせて頂いて本当に助かりました。ありがとうございます。」

「いやいや、老人の長話に付き合って頂けてこちらも嬉しい限りで。」

「それならよかったです。お礼に――ならないかも知れませんが閉館を手伝わせてください。」

「おぉ、それは助かりますのぅ。近頃は腰が良くなくてですな・・・。」

「そうなんですか・・・?――少し失礼しますね。」


ジルデムさんの腰に手を当てる。なるほど。これは痛い訳だ。

ここは幸い水のソルもいくらかある。


「コンソラトル。」


手を当てた個所に構築術式が展開。淡い光が漏れる。


「な、なんですか!?」

「回復魔術ですよ。色々とお話を聞かせてくれたお礼だと思ってください。」


暫くすると、淡い光は役目を終えて消えていった。


「どうです?」

「お・・・おぉ!!」


腰をポンポンと叩くジルデムさん。大きく反り返ったり、前屈してみたりしてる。


「痛みがさっぱり消えましたぞ!!」

「なら良かったです。」


ニッコリと微笑んだ。

ジルデムさんは興奮冷めやらぬ様子だけど。


「さ、閉館準備をしましょう。」

「お、おぉそうでしたな!!」


閉館作業は指示されるままに手伝わせて貰った。ジルデムさんもテキパキと閉館作業を行っていて、あっという間に準備が整った。


「手伝って頂いて助かりました。」

「いえいえ、このくらいしかお返しできなくてすみません。」

「何をおっしゃっいますか。ワシの腰まで直して頂いて・・・。」

「ジルデムさんにはまだまだ現役で頑張ってもらいたいですからね。」

「こりゃぁかないませんな・・・。」


笑う二人。


「さ、出ましょうか。」


促されるまま図書館を後にする。

ジルデムさんは入り口横に備えられている強固な鉄格子を締めて鍵をかけた。


「そういえば・・・炎霊武闘会には出場なされるので?」

「え、えぇ。出るつもりですよ。」

「やはりそうでしたか!先程も見事な魔術でしたからの。ワシも応援に行かせてもらいますぞ!」

「そんなに盛り上がるんですか?」

「そりゃぁ炎霊祭の目玉ですからの!!血沸き肉躍るってもんです!」


あれ、ジルデムさんってこんなに熱いタイプだったっけ。


「まぁ・・出場資格試験が通ればですけど。」

「なぁに!クロ殿なら楽勝でしょうとも。」

「そうですかね・・・。」

「えぇ!ワシの腰は幾多の医者が匙を投げた年季の入ったものでしたからの。それを易々と直されては応援しない訳にはいかんですとも!」


あ、さらっと直したけど・・・。地雷だったな。


「では、出場出来たら応援お願いしますね。」

「今休暇を取っている資料館の職員を引き連れて行かせて頂きますぞ!!」


こうしてちょっとした応援団が出来てしまったわけか。

余計出場しない訳には行かなくなってしまったな。


「では、色々とありがとうございました。」

「こちらこそ楽しい時間でしたぞ。モルヴァ神の加護があらんことを。」


頭を下げてその場を後にする。

モルヴァ神の加護か・・・。

色々知る事が出来てよかった。僕のやりたい事も少し見えてきた気がする。

あ――。


「エルマー。結局僕についてきて暇じゃなかった?ずっと机で寝てたし。」

「シロに振り回されるよりはずっと有意義だったぞ。」


そっかそっかと笑う。


「さて、戻ろうか。次は武闘大会に向けて準備しなくちゃ。」

「おう!楽しみに――ろ、路銀を稼ぐために頑張らなきゃだもんな!」


今楽しみにって言ったよね。わかってたけど。

小さくため息をついた。


「シロも無駄遣いしてないといいけど・・・。」

「それは期待できないな。昨日も何か買ってきてたぞ。」

「やっぱりか・・・。」


エルマーが諦めるんだなと言わんばかりの視線を送ってくる。

はぁ・・・・。肩を落としながらトボトボと帰路についた。




――炎霊祭前日。

僕達はアルジスの名物とも言える≪ハイヴ闘技場≫を訪れていた。

円形のだだっ広い砂場に、それを囲う様にぐるりとそびえ立つ観覧席。屋根は無い。

観覧席各所には通常の観覧席の他に、広めの観覧スペース群が用意されている。お偉いさん用の観覧席だろう。


アルジスでは傭兵業が盛んであるが故に、戦い、切磋琢磨する姿に魅せられる者も多い。

傭兵の仕事に向かう前に闘技場を訪れて、自身の力試しをする者も少なくないらしい。

定期的に開催される武闘会ではそれなりに褒賞も出るらしく、アルジス国民の一般的な行事ともなっている様だ。


「ほぇー。たっくさん人がいるねぇー!」

「そうだね。まさかここまで大きい行事だなんて思わなかったよ。」


闘技場に集まった数は数百人。この中から明日の炎霊武闘会に参加する33人が決まる訳だ。

というか・・・33人の内に残らなければならない訳だ・・・。少し気が遠くなるな。

何をしてふるいにかけるんだろうか。


「えー、お集りの諸君。これから出場資格選定会を始めます。」


唐突に一番大きい観覧スペースから大きな声が響く。

あれは戦闘指揮とかの時に用いる拡声魔術か。こんな風に使うなんて面白いな。

一同が声のする方向を振り向き、驚くようにして続々と片膝をついて首を垂れる。

状況を飲み込めず置いてけぼりの僕とシロは二人だけ突っ立っている形になってしまった。


喋っている人とは別にもう一人。

観覧席の中でも特段広いスペースを占拠している一席に、偉そうに足を組んで男が座っている。

この国のお偉いさんかな?それにしてはしっかりと鎧を着込んでるみたいだし・・・。

でもあの人・・・相当強いな。ソルの感じが違う。ここの誰よりも猛々しい雰囲気だ。


「そこの二人!!何をしている!!」


僕とシロは目を合わせて首を傾げる。

僕達も片膝ついて首を垂れた方が良さそうだけど・・・。


「なーんでーーすかーーー!!??」


あ――。

シロが大声で返す。一瞬で手遅れになったなこれ。


「貴様――!!このお方の――!!」


隣に座る男が手で制する。

僕達を咎めようとした言葉は途中でさえぎられる。

足を組んで座っていた男はゆっくりと立ち上がり、観覧席の一番手前まで歩いた。


「お前らこっちに来い。」


有無を言わさぬ威圧の籠った一言。・・・絶対面倒ごとになるなぁ。恨むぞシロ。

仕方なく言われるがままに観覧席に向かって歩き出す。

その途中、首を垂れている方々から”死んだな”とか”バカな奴らだ”とか有難い呟きがヒソヒソと聞こえてくる。


観覧席最前列前に到着。改めて男を見る。

逞しい大柄な体躯に赤銅色の鎧を纏っており髪は少し長めの赤髪。肌が褐色で耳が尖っている所を見ると、この大陸特有の人種。サブル族かな・・・。でも黄色い瞳の色を見るとハーフか何かか。サブル族は本来赤髪に赤瞳が特徴だ。


「お前ら・・・俺がグラムだと解ってその態度か?」


え・・・グラムって・・・・現アルジスの国主。ガザーリオのフィラメントか――!!


「あ、いえ。そうとは気付かず―――。」

「グラムってだぁれ??」


面と向かって本人に尋ねるシロ。

頼むよ・・・。


「その女の保護者はてめぇか。」

「あ、はい・・・一応。」


答えた直後グラムの姿が消え、僕の目の前に現れる。

その手には大振りの剣。僕の胴を二分にせんと凄まじい速度で横から振り抜かれようとしている。

この威力――これを正面から受けるのは無理だな。僕が吹き飛ばされるのがオチだ。

杖の先端を振り抜かれる刃の下に当てて上に弾き、自分はしゃがむ。

”予見”通りの回避。刃の軌道は山なりに逸れ、僕の頭上を掠める様に通り過ぎた。

それにしても予想以上に剣が重い。もう少し余裕があるはずの回避が結果スレスレだ。さすがフィラメント。多分本人としては挨拶代わりの一撃だろうけど・・・これは凄いな。


「ほぉ・・・。」


何故か嬉しそうに笑むグラム。次の刃が上から降ってくる。これは受けなくていい。

問題は次だ。強度が足りるかどうか。

半身で縦一文字の剣を避ける。


「スターク――。」


ゴォォォォォオ―――


地面から突如吹き上がる炎。


「わぁっ!?」


驚くシロの声。どよめく選定会場。


火傷とかはなさそうだし・・・大丈夫そうだ。

――スタークプロテクト。

人の体を衝撃、凍結、燃焼、その他諸々の害から守るプロテクト。その上位版だ。魔術的には中級魔術にあたる。使える魔術師も山ほどいる。今回はちょっと怖くて純度高めちゃったけど・・・。


「あの・・・。無礼は謝ります。・・・剣を収めて頂けませんか?」


炎柱から歩いて出る。

少し驚いた顔のグラム。


「お前・・・名前は?」

「クロと申します。」

「――クックック・・・・アッハッハッハ!!――こいつは面白くなりそうだ。」


とても嬉しそうな顔を浮かべる。

どういう事がわからずに少し戸惑う。


「おい!」


グラムは振り返り、出場資格選定試験の進行者に告げた。


「こいつは合格だ。――明日の大会に無理にでも出せ。」

「か、かしこまりました!!」

「それとそこの女!!」

「何々!?私とも戦ってくれるの!?」


いやはや呆れてものも言えない・・・。


「俺は仕事以外で女は殴らん。お前は選定試験に出ろ。――だが礼儀くらいはこいつに教わっておけ。」


そういうとグラムは僕の頭をポンポンと叩いた。

そうだぞシロ。礼儀くらい覚えなさい。


「あの・・・さっきの・・・避けられなかったら僕死んでましたけど・・・。」

「あぁそん時はそん時だ。そもそも・・・お前みたいな”似非”魔術師は見た事ねぇ。だが、他国のスパイとか邪な考えを持っている奴じゃない。そういう奴らはお前らみたいなバカはやらん。」


ぐぅの音もでません。


「俺の一撃を無傷で避けたやつはお前で二人目だ。――失望させるなよ?」


にやっと眼前で笑われる。――怖い。

何か気に入られてしまったようだ。


グラムはそれだけ告げると元の席に戻っていった。

まさか出場資格の選定にフィラメントが来るとは思わなかったな。それだけ国全体で大切な行事なのか。まぁ・・・意図せず出場資格を得た事は怪我の功名。

シロには後でしっかりとお説教しておかなきゃな。それとこれとは話が別だ。


「で、では合格者の方は観覧席の方へ。」


戸惑いながら告げる選定試験進行者に従って、一番近い出口から観覧席に上がる。


「じゃぁシロ。頑張ってねー。」


手をヒラヒラと振る。


「クロばっかりずるいー!!」


ズルいも何も君の尻拭いをした結果なんだから仕方ない。ご褒美だ。

シロには頑張って出場資格を勝ち取ってもらわなきゃね。


「オッホン・・・改めまして出場資格選定試験を開始します。皆様、頭をお上げください。」


その一言を境に全員が立ち上がった。


「まず、ここにお集りの方には近接戦闘を得意とする戦士の方。魔術、召喚を得意とする方で分かれて試験を行わせて頂きます。その中の上位者より、厳正な審査の結果出場者を決定いたします。」


その言葉が告げられると同時に、進行役の方々がぞろぞろと円形の砂場に登場する。


「クロ。災難だったな。」


外套に隠れていたエルマーが肩に現れる。


「まぁ災難だったけど結果オーライだよ。審査ってなったらどの程度力を出していいかわからないからね。」

「そりゃそうか。さて、ボク達はシロの応援もとい監視と行こうか。」

「そうだね。」


観覧席の一番前に腰を掛ける。円形の舞台を事細かに目に出来る特等席だ。

ワクワクを隠せないシロが戦士達の輪に紛れている。


「やりすぎないといいけどね・・・。」

「そうだな・・・。」


一抹の不安がよぎる僕とエルマー。ま、まぁきっと大丈夫だろう。そう信じよう。

うん。信じたい。多分・・・恐らく・・・・。

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