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屍霊術師ーネクロムー  作者: ELL
2. 炎砂の大国
32/75

炎砂の大国 16:家族

――宿はここにしよう。辺りは陽が暮れ、月が出番を待っている。

アルジスにある中では一般的な宿。値段も標準。拠点としては申し分ない。

僕達は一室で済むから安上がりだ。シロ相手に男女だから別部屋でってのもバカらしいだろう。

シロも快く承諾してくれたし向こうも気にしてないならそれでいい。

部屋に入るとそこにはベッドとソファが一つずつ。少し大きめなテーブルが一つ。

その他必要なものは一通り揃っている。

今まで泊まった宿より確かに良い部屋だ。


「今日は色々と疲れたよ。」

「そうだねー!こんなに街が大きいなんてびっくりしちゃったー。」

「でも楽しくなりそうだね。」

「うんうん!!明日はクロ行くところがあるんでしょ?」

「うん。先生の授業を受けてるときに聞いたんだよ。アルジスには大図書館があるらしんだ。」

「図書館??・・・クロ好きそうだもんねぇ。」

「シロは退屈でしょ?」

「うん!!」


臆面もないな。

僕達の家にも沢山の書物があったけど、それとは比にならない程の蔵書量があるらしい。

家にあった本の中にもネクロムに関する書物は少なかった。

自分を知る為にも、もっと色んな知識が欲しい。


「そんなことよりー!今日はクロがベッド使っていいよ!!」

「いや、僕はソファの方が落ち着くから。」

「そうなの?私に気を遣ってくれてたのかと思ったー。こういう時大体譲ってもらっちゃうから。」

「ベッドで寝ていた期間よりそこら辺に転がって寝てた期間の方が長いからね。」


気を遣ってなかったと言えば嘘になる。けどソファの寝心地がいいのも本当だ。

何気ない一言に少し暗い表情を作るシロ。


「でもそれって悲しい事だよ。」


その一言で気づいた。そうか。シロならそう感じるよな。


「なんか・・・ごめん。」

「なんで謝るのさ!!クロは何も悪い事してないよ!そーゆーとこだよ!!ジメッぽい!!」


ジメッぽいとは酷い。


「クロはこれから沢山お布団で寝るの!!それが当たり前になるんだから!!」

「・・・そうだね。」


ここで布団にダイブするシロ。


「今日の所はお言葉に甘えるけどね!!」

「うん。じゃぁ・・・大会で頑張って勝ってお金稼がなきゃね。」

「そうそう!!そしたら次からはもっと広いお部屋に泊まろう!!」

「別々に泊まった方が広いんじゃない?」

「えーー!なんか寂しいじゃん!!」

「うーん・・・じゃぁそれでいいよ。」


諦めの溜息と共に笑みが零れる。

まぁ・・・なんか寂しいのは分かるし。


「ふっはっは!ボクに追い付こうなんてまだまだ甘いな!!」

「バウワウッ!!ハッハッ!!」


僕達のやり取りを他所に追いかけっこに興じるエルマーとミニ零号。

微笑ましい光景に思わず僕とシロはふふっと笑う。


「あんまり高級なところはやめとこっか。」

「うん。追いかけっこ出来なくなっちゃうもんね。」


暫く二匹の追いかけっこを眺める。


「よーし!!私も参加しちゃうぞー!!」

「ちょ、ちょっとシロ!!」

「クロもやろうよー!」

「仕方ないなぁ・・・!周りに迷惑かけない様にこっそりね!!」


こうして謎の室内追いかけっこが始まった。

僕に捕まったエルマーとシロに捕まったミニ零号は思う存分モフられたのであった。




「おはようシロ。」

「――!?どうしたの!?クロが私より先に起きてるなんて!!」


寝ぼけ眼で驚愕の表情を浮かべるシロ。髪もぼさぼさ。とりあえず涎は拭いた方がいいと思うよ。


「いや、今日図書館に行けるって思ったら早く目が覚めちゃって。」

「そんな楽しみにしてたんだ・・・。あ!私寝言とか言ってなかった!?」

「僕もさっき起きたばっかりだから心配しないでいいよ。」


ふふっと笑った。


「もー。意地悪!」


プンプンのシロ。まぁたまには僕の方が先に起きているのも悪くない。


「ほら。支度して朝ごはんは一緒に食べよう。」

「うん!!ちょっと待っててねー!!」


シュバババと支度を済ませるシロ。僕より朝の支度早いんじゃないかな。

僕はまず・・・朝起きるの苦手だし。


「おっけー!!お腹すいちゃったよー!!」

「行こっか。エルマーも行こう。」

「ボクは今日はここでゆっくりするぞ。」


珍しい。まぁここまで怒涛の超速旅だったからなぁ。エルマーも疲れてるんだろう。


「わかった。ゆっくりしてて。」

「師匠も今日はお休みだねー!」

「おう。お前らも気をつけろ。面倒起こすなよ。あと無駄遣いするなよ。」


保護者の一言を放ってからエルマーは丸まった。

零号も腕輪の中で熟睡中な事だろう。そっとしておいてあげよう。

僕達は部屋を出てそっと扉を閉めた。



「マスター。アイツらは順調に成長してるぞ。見てただろ?」

「・・・みたいですね。大会が楽しみです!」

「――マスターはそれが見たくてギルド証用意しただろ。」

「え、そ、そんな事ありませんよー!路銀に困ったら出るだろうなぁと思って――。」

「まぁ正直ボクも少し楽しみだけどな。」

「思う存分に彼らの戦う雄姿を見させて頂きましょうか。ポップコーン用意しておきますね。」

「ボクも観戦用の鶏ささみジャーキーは用意してある。」

「エルマーも抜かりないですね。」


ふふふっと笑うロノ。


「いまの所は万事順調だけど・・・いざボクでもどうしようもない時は頼んだぞ。」

「ええもちろん。覚悟はできていますよ。――まぁそれまでは彼らの旅を楽しませて頂きましょう。」

「マスター。相変わらず性格悪そうだな。」

「エルマー酷い――。」

「・・・じゃぁな。」

「えぇ、また。」


エルマーは会話を終えると再度丸くなった。




ヴァイスハイト大図書館――。

先生の授業で話に上がったアルジスに位置する巨大な図書館。

傭兵業を生業としている国民性上、知識が必要となる機会も非常に多い。

――戦闘とは情報だ。相手の何を知っているかによってその勝敗は大きく左右される。もちろん、護衛任務であれば守る場所の土地柄、魔物の種類などの知識を持っているかいないかで大きく成功率も変動するだろう。

それほどまでに何かを知るという事は戦闘においても重要なファクターなのだ。

そこでアルジスにはそれらを集約した資料館がある。それがこのヴァイスハイト大図書館。

世界各地の情報がここに集まっている。

ここなら冥属信仰に関する書物もある筈だ。


他の連なる高い建物とは違い、二階建て。ただし、面積の広さはその比ではない。

広大な広さの建物に貴重な書物がごまんと並んでいるのだ。

入り口に立つと、所々に見える柱には独特な建築装飾。

内側にカーテンが控える大きなガラス窓が等間隔で並んでいた。木造ではない様だが――その外壁にはこの建物の歴史を伺わせる風化が垣間見える。

それでも素晴らしく威厳のある建物だ。

自然と心が躍る。


扉を開くと同時に鼻をつく紙の匂い。――この匂いは好きだ。なんだか落ち着く。

入り口を入ってすぐに横にカウンター。目の前の先には読書スペースが見える。十分な広さだ。

一番奥には階段が見えるが、それ以外は所狭しと本棚が並んでいる。

今日は休み?ってことは無いよな・・・。人っ子一人いない。


「あのー・・・。」


少し心配になってカウンターのおじいさんに話しかける。


「はいはい。如何なさいましたか?」

「今日って・・・休みとかじゃないんですか?人が居ない様ですけど・・・。」

「あぁ、炎霊祭が近いですからなぁ。この資料館の利用者も殆どいないのです。普段は傭兵業務に伴う調べ物をする方々で溢れかえっておりますよ。」


ニッコリと笑うおじいさん。


「ここを利用したことが無くて・・・。」

「おや、珍しいですな。――ここの蔵書は全て無料で閲覧できますぞ。貸し出しも手続きを行っていただければ可能です。ただ、本は丁寧に扱ってくださいな。ものによっては大分劣化が進んでいるものもあるもので・・・。――以上ですが・・・何か他に質問はございますかな。」

「いえ、ありがとうございます。助かりました。」


軽く頭を下げてカウンターを後にする。

これだけの量の本を今日は殆ど独り占めか・・・これは胸が高鳴らない訳がない!!

存分に調べ物をさせてもらおう。

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