炎砂の大国 14:紋章国家アルジス
「―――うっひゃぁあああ!!これはぁーー速すぎるぅぅううーーー!!!」
凄まじい砂埃を上げながら走る狼。・・・とそれに乗る僕とシロ。
――翌日。サモナーの腕輪という免罪符を手にした僕達はその力を存分に利用させてもらっていた。
受肉体ではなく、普通に召喚した際のルミオクタウルフのサイズは僕達二人が乗っても余裕なほど大きい。それに移動速度はデザートウルフの比ではなく、倍以上の速度を誇っている。
「ちゃんとつかまって!!振り落とされるよ!!」
「わかってるってぇー!!あ――!こうすればいいんだ!」
僕にがっしりとしがみつくシロ。動きづらい!鬱陶しい!!
「これなら楽々ーー!!いけいけー!!」
そもそも――!宿主であるシロが零号に指示を出すのが筋だ。
それなのに道がわからないから僕が指示を出してっと来た。
この移動速度なら、最短距離で野営すればアルジスを目指しても2日程だ。ただひたすらに南西を目指すだけなのに・・・。さては楽したいだけだな?
まぁ一応方向の微調整は必要だし。万が一迷子になられるよりはいくらかマシか・・・はぁ。
零号が心配そうにこちらを振り向く。
大丈夫だよ。頭をわしわしと撫でた。少しスピードが上がる零号。わかり易い奴だな。
笑みが零れる。
「もう少ししたら休憩にしよう!!かなり順調に来れてる!」
「おっけー!!」
街道から外れない様に走る。
急ぐ旅では無いからな。途中で寄れる場所があれば寄って行こう。
――こうして僕達はアルジスを目指した。
物見遊山を体現するがごとく、気になる場所には逐一寄った。
町や村は様々だった。エンカタ村の様に酷い状況のものは無く。どこも僕達の好奇心を刺激するには十分だった。色んな人種に色んな生活。場所によっては・・・少し腫れもの扱いされる場所もあったけど――仕方のない事だ。
やはり聞くのと実際に見るのとでは経験の濃さは段違いだった。
そうこうしているうちに最短2日で到着できるはずのアルジスに到着したのは5日後だった。
「うわぁ・・・――!」
「おおおおおー!!」
思わず感嘆の声を漏らす僕とシロ。
眼前に広がる巨大な都市。立派な城門がそびえ立ち、列を成す人たちが並んでいる。
その城壁の奥に垣間見える標高の高い建物たちは様々な形状をしており、至る所から蒸気が吹き出していた。外に居ても街の賑わいの声が聞こえてくる。
とても自分の視界内にはとらえきれない規模の大きさに自然と胸が高鳴った。
中は一体どんな街になっているんだろう・・・。
――エンブレイシア・アルジス。
その国の大半の国民は傭兵。若しくは鍛冶製造、商人に携わる人々が暮らす大陸を代表する大都市。レンガやコンクリート造りの大きな商業施設が所狭しと並び、その域は居住区を超えるとも劣らない。
国の構成は”ギルド”と呼ばれる、戦いを生業とする人々のグループが数えきれない程あるらしい。それがこの国の稼ぎ頭。国の財政を支えている。
国はそのギルド達に仕事を斡旋。仲介料によって潤っているとか。
・・・相当割高な仲介料なのか・・・良心的に徴収しても余りある依頼件数なのか。
僕は前者を疑っていたが・・・この規模となるとそれもどうだろうか。
そしてアルジス国主、フィラメントは喧嘩好きの暴君。自らもギルドを立ち上げ、自身すらも面白そうな傭兵業には嬉々として臨むという曰く付きだが・・・。
そんな国主で大丈夫なのか心配になる。――まぁ大丈夫だから国があるんだけど。
とりあえず列にならぶ僕達。シロは好奇心が隠せない様で列の前の方を右から左からしきりに覗き込んでいる。田舎者丸出しだ。僕達って・・・田舎者なのか?まぁいいや。
「おいお前ら。これをもっとけ。」
エルマーがリュックからガサゴソとカードを二枚取り出した。
「これは?」
「何これ―?」
「それはお前らの身分証だ。何だったらアルジス所属のギルド証だ。」
カードをそれぞれ受け取る。
カードには僕の年齢(もちろん見た目年齢)と、出身。名前。性別。そして僕の顔写真が張り付けられている。
「え・・・すごく嫌な予感がするんだけど・・・。」
「お察しの通り。マスターお手製の精巧な偽物だ。まずバレないだろ。」
やっぱり―――。
まぁ確かに旅人は行商人とかよりも遥かに細かい検査を受けるだろう。それに僕達の場合、出自を明かすわけにも行かない。というか話したところで信じてもらえないだろうし。
――信じるしか道はないって事か・・・。頼みますよ先生。
「ところでエルマー。ひとつ気になるんだけど。」
「なんだ?」
「ギルド名が”モフモフ隊”ってのどうなの??」
「ボクが考えたんだ。リーダーはボクだからな!!」
「あのー。文句は?」
「もちろん受け付けないぞ!今更直せないしな!」
「いいじゃんモフモフ隊ーー!!今は二匹もモフモフいるし!さすが師匠だよ!!」
「バウッ!バウッ!」
多数決が世の常か・・・。ネーミングセンス分かってて決めさせたでしょ先生。
あの人のニヤニヤ顔が目に浮かぶ・・・。
もうどうにでもなれ。ギルド証がすんなり認められればそれでいいよもう。
――というかそのギルド証を用意していたという事は先生はもう解っていたんだ。僕達がどこを目指すかも。まだまだ先生の掌の上か・・・。少し安心するような悔しい様な。
「もちろんその他の国の時に必要な身分証はボクが全部持ってるぞ!中身はその時のお楽しみだ!!」
にゃふーんと腕を組むエルマー。わぁー楽しみ!!とシロ。心配事が増えた僕。
「それにしても随分と長い列だね。いつもこんな感じなのかな?」
「どうなんだろー?でもそれだけこの国が繁栄してるって事だよね!」
「そういう事なんだろうけど・・・どうだろうね?」
無駄話をしている間に次々と捌かれる入国者の列。気が付けば僕達の後ろには更に長蛇の列が作り上げられていた。もう少ししたら僕達の番だ。
・・・・多分緊張してるの僕だけだろうな・・・・はぁ。
「次の方ー。」
門兵に声をかけられる。
「身分証の提示を。」
言われるがままに僕とシロはギルド証を手渡す。
ニッコニコのシロ。怪しまれない様に平静を装う僕。シロの図太さはこういう時に憧れる。
門兵がカードに手をかざす。――魔力?
エルマーに目をやるが、僕の肩で猫の振り真っ最中。便利でいいですねそれ。
「本物だな。通っていいよ。おかえり!」
気前よく通してくれた門兵。おかえりの言葉にふと温かい気持ちになる。
門兵からすれば国の仲間が帰ってきた時の何気ない一言だろうけど・・・騙しているのが申し訳なくなってしまう。
「さ!行こう!クロ!!」
「あ、うん。」
門兵に軽く頭を下げた。
城壁に備えられている入国者用の小さな扉から城門をくぐる。
目の前に広がったのは大勢の街行く人々。ここまで人が多いなんて・・・今まで寄った町と村の人々を足しても足りないくらいだ。
そして城壁の外からも垣間見えた背の高い建物の群れ。思わず声が漏れる。
活気ある街中の声に、騒々しさを超えて感動を覚えてしまう。こんなに大きな街が本当にあるんだ。
自然と気分が高揚していく。あ――忘れる所だった。
「エルマー。さっきの門兵さん。ギルド証に魔力を当ててたみたいだけど・・・何してたの?」
「あれはな。少し特殊な魔力発動に反応して、この国の承認コードが浮き上がる様になってるんだ。普段は目に見えないし、粗雑な模造品ならすぐにバレる。そもそも承認コードの添付方法自体、外部には明かされることは無いから模造品作ろうなんてバカはそういないけどな。」
承認コードを確認する魔力発動も特殊。国内機密の承認コード添付。
・・・まぁでも出来るんだろう。先生だから。――これに慣れる日が来るとは思わなかったけど。
それにしても街の活気もそうだが、所々に普段は無かったであろう垂れ幕が下げられている。
炎霊祭・・・?なんだろう?
「シロー。あれ、なんだろうね?」
「炎霊祭って書いてあるね??お祭りなのかな!?」
祭りは祭りなんだろうけども――。
「お祭りだからこんなに人がいるのかな?」
「そういう訳じゃないぞ。普段からアルジスはこんな感じだ。まぁ確かに毎年恒例の炎霊祭が近いってのもあるけどな。炎霊祭は五日後だ。」
「五日後!?クロっ!!」
はいはい。言いたい事は分かってる。・・・・それに僕も興味ある。
「暫くアルジスに滞在しようか!」
「おぉー!!そうしようー!!」
握り拳を上げて喜ぶシロ。




