炎砂の大国 11:シロの願い
数時間前―――夕日が差し込む村長宅。
円形のテーブルを囲んで僕とシロはこの後の作戦について打ち合わせをしていた。
「村長の話からすると盗賊がこの村を監視している事は間違いない。」
「うん。じゃなきゃアルジスへの伝令係がやられちゃう訳ないもんね。」
「そういう事。そして、そんな村で盛大な宴が始まったとなればまず間違いなく再度蹂躙しに来る。」
「そうだよね・・・。」
「そこを逆に利用する。」
ふむふむと頷くシロ。いつになく真面目だ。許せない思いは僕と同じなのだろう。
「盗賊と言えども野生動物とは違っていくらか知恵は働く。まずは偵察を出すだろう。」
「状況が解らなきゃ骨折り損って事になっちゃうかもしれないもんね?」
「うん。そしてその偵察の内、一人を残して他は潰す。湖近くで宴をするって村長が言っていたから、ある程度村で戦ってもまず人的被害は出ない。まぁここは戦い方に融通が利く僕がやる。」
「あれ?私は?」
「シロには残った一人を尾行してもらう。他の偵察からの連絡が全て途絶えれば普通はアジトに一旦戻るからね。そこでアジトを潰してもらう。人気のない所に構えているだろうから大暴れして問題ないだろうしさ。」
「わかった!!」
「ただ、アジトに仲間が何人いるか分からない。暫く様子を見て、村に向かう盗賊がいるなら放っておいていい。僕が村に入る前に片付ける。シロはアジトと、アジトに残った盗賊たちを潰すんだ。」
頷くシロ。ここで一旦間が空く。
「作戦は大まかにこれだけ。でも――覚悟してほしい。今回の相手は人間。殺さずに済めばそれが一番だけど多分そうはいかない。」
「―――・・・うん。」
「それでも、この世界で必死に生きる人達の為。自分たちが正しくある為にやらなければならない時もある。・・・忘れないで。」
「わかった・・・。」
暗い顔のシロ。
今回は生きる為じゃない。生かす為。自分たちの正義を押し付ける為に生きているものを殺めるのだ。迷う所があるのはわかる。でも迷っていれば向こうは構わず殺しに来るだろう。
念を押す。
「頼んだよ。シロ。無事に帰ってきてね。」
「――・・・うん!」
シロは迷いを押し殺して元気に頷いた。
―――動いた!
盗賊を離れた位置から監視していた私は急いで走り出す盗賊の尾行を開始した。
気取られない様、付かず離れずの位置で尾行する。
クロがかけてくれた魔術のおかげで姿は透明。足跡はこの乾ききった大地で気にする必要はないし、自然動物の狩りよりも簡単!
盗賊が酷く取り乱している様に見えるなぁ。きっとクロが上手くやったんだね。
暫く後を尾けると、砂漠の入り口辺り。一つの大きな砂丘の裏に廃屋がいくつかあった。正しくは、辛うじて元は建物だったと分かる程度のコンクリートブロックやレンガが複数むき出しになっていた。そこに盗賊は駆けこむ。
全体が見渡せる様、出来るだけ迅速に砂丘の頂点に駆け上がった。
――あそこみたいだね。
クロにはああ言ったけど・・・まだ正直迷ってる。でもきっと迷ってたら危ないからクロはちゃんと言葉に出して伝えたんだよね。それも解ってる。けど・・・。
私の思考を他所に盗賊たちは動き出した。
10人程度が建物の陰からぞろぞろと姿を現す。
偵察が慌てながら状況を伝えている様だ。身振り手振りが見える。――伝わったのか、その複数人は村の方向に向かって走り出した。
・・・あれは放っておいて良いんだよね。クロが何とかしてくれる。
何人くらい残ってるかな・・・。それもちゃんと把握しないと。
足音一つ立てない様にアジトへ近づいた。
物陰から物陰へと移動しながら状況を把握する。
体が透明だからってバレない保証はないからね。慎重に動かないと。
――ここに残っているのは必要最低限の見張り三人。一つの建物片を囲むようにして、辺りをしきりに見回している。
緊急事態だもんね・・・本陣が襲われる可能性も考えてるんだ。
見張りの位置からすると・・・真ん中の建物陰座ってる人。多分あれが盗賊のリーダーかな。
風格が少し違う気がする。――合わせて四人か。
リーダーを中心に考えると、リーダー左右と後ろに一人ずつだね。
・・・そうと分かれば、まずは見張りから。
あ――。確かこの透明化は誰かに直接接触すると解けちゃうんだよね。
出来るだけ早く・・・音を立てない様にっと。
風の鳴く音よりも静かに地面を蹴る。
物陰から飛び出したシロは一度も地面に足を付く事無く勢いそのままに剣を引き抜いた。
気付く間もない左の見張りに強烈な一撃。柄頭で首元を突く。
力なく倒れる見張りの背を足場に高く跳躍。後ろを見張る脳天に剣の側面を叩きつける。
見張りが沈む音に気付く右の見張りとリーダー。
だがリーダーが振り返るよりも速く、右の見張りに繰り出される拳。胴当てに入るヒビ。直後、見張りは吹き飛ばされコンクリート壁に貼り付けになった。
「ふぅ・・・。よくできましたー!」
シロの後ろで斧を片手にゆっくりと立ち上がる盗賊のリーダー。
「なんだぁてめぇは・・・。」
あれ、一瞬で見張りを片付けたのに思ったより余裕があるみたい。
腕に自信があるのかな?
「これで一対一だよー!降参するなら今の内だと思うけどなぁ?」
「たかが使えねぇ雑魚を片付けたくらいで調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
すごむリーダー。
うーん。もっとすんなり行くと思ったんだけどなぁ・・・。
「何かと思えばただの女一人に情けねぇ奴らだ・・・。」
倒れている見張りを蹴り上げる。
「なっ!!ひどい!仲間じゃないの!?」
「この雑魚共は俺の力にあやかろうとして近づいてきた只の駒だ。・・・この≪術紋≫の力になぁ!!」
シロの足元から無数の土の針が飛び出す。異変を感じたシロは数舜前に後ろに飛び退いた。
あれ?魔術の術式構築が見えなかった・・・。――違う。構築してないんだ。
そうか!!師匠が言ってたやつだ!
魔術の術式構築をしない代わりに、体に直接術式を彫り込んでるんだっけ??
特定の魔術を術式無しで発動出来たり、ものによっては身体能力に直接作用するものもある――とか言ってたようなそうでもないような・・・・。
大丈夫師匠!重要な事は覚えてるよー!!
”タトゥーは一つとは限らない”だよね!
飛び退いたシロの着地に合わせてさらに土の針。
着地するはずのシロの両足はふわりと土の針の勢いに合わせる。
土の針の上に立つシロ。ここで盗賊のリーダーが状況の把握をし始める。
「・・・てめぇ・・・何者だ!?」
「お前の様な悪党に名乗る名はなぁーーい!!」
一回言ってみたかったんだよね!
土の針はシロの跳躍の勢いに崩れる――。
初撃、横に振り抜いたシロの剣は盗賊の斧に辛うじて弾かれる。
二撃、後ろ下段回し蹴りで足を払う。これも跳ばれる。
三撃、両手で繰り出した大振りの攻撃は斧を弾き飛ばし、盗賊は大きい後ずさりを余儀なくされた。
「クックック――。」
劣勢な状況にも関わらず笑う盗賊。ブーツナイフを取り出す。
「何余裕ぶっちゃってんのさ!!」
「お前――人殺したことねぇんだろ?」
図星。
「そして、出来れば誰も殺さないで済めば――なんて都合の良い事思ってんだろ?」
さらに図星。
「甘ぇ・・・。甘ぇよなぁ――!!」
叫ぶ盗賊に、図星を突かれたシロは少したじろぐ。
その隙を見逃さない盗賊。
シロは瞬く間に砂塵の球体に閉じ込められた。
「俺のタトゥーはサンドスパイクだけじゃねぇんだよ――!!」
砂塵に豊富に含まれた小石や瓦礫片が鋭くシロの体を傷付ける。
手の甲を、肩を、頬を掠めるたびに傷を作り、血液が傷を埋めようと溢れ出る。
解ってた。解っていた筈なのに反応が出来なかった。
図星を突かれて焦ったんだ。
無意識に攻撃を手加減していた自分に苛立ちを覚える。・・・これは戒めだ。
驕っていた自分への――。
一つ大きく息を吐いた。
「そいつからはもう逃げられねぇぞ!!どこまでもてめぇにまとわり付いてじわじわと痛めつけ続ける!!てめぇはもう―――!!」
突如。砂塵の球体からシロの剣が飛び出す。
それは反応する間もない盗賊の左肩に突き刺さった。
「―――がっ!?」
盗賊が倒れると同時に砂塵の球体は力なく霧散する。
「君。喋りすぎだよ。場所が分かりやすくて助かったけど――。タトゥーは体に施す魔術式。魔術式を壊しちゃえばもう使えないよね。」
盗賊に歩み寄るシロ。
倒れた盗賊の真横に立ち止まると盗賊の左腕を足で抑え、肩に刺さった剣を引き抜いた。
そしてその剣は盗賊の右足の甲も貫いた。
「うぎゃぁぁっぁぁああ――!!!」
叫ぶ盗賊。
「君がそれぞれ魔術を使った時に魔力が集まった場所。ちゃんと見てたよ。――これでもう何もできないね。」
冷たい視線が送られる。
「なっなぁ!?――助けてくれよ!?俺たちは生きていく為に仕方なく盗賊なんてやってんだよ!!わかるだろ!?――なぁ!!」
先程とは打って変わって見苦しい命乞いを始める。
「もう盗賊はやめるっ!!まっとうに生きていくから命だけは助けてくれ!!」
「・・・・・・・本当に?」
「あっ!?あぁ――本当だ!!これからはちゃんとまっとうに生きる!!」
「――次は無いからね。」
剣を引き抜いたシロは、盗賊がねぐらとしていたアジトに歩き出す。
もう魔術は使えないし・・・。あんなに必死に命乞いしてる・・・。もう大丈夫だよね。
きっと悪さから足を洗ってくれる。――私はそう信じたい。
いくつかむき出しになっている建物らしきものに一閃。
凄まじい砂煙と共に一撃で粉々に崩れ去った。
・・・これでもうここをねぐらにする事は出来ないよね。これで良い。剣を背中の鞘に刺した。
やっぱり無意識に手加減しちまってたって事か・・・。
――こいつぁ甘ぇ・・・。お前ら・・・。そろそろ起きてんだろ?―――
―――そろそろ来る頃かな。
「エルマー。シロの方に付いていかなくて良かったの?」
「あぁ。アイツは優しすぎる。ボクに甘えられなくなった時に備えて今の内に一人でも出来るようになっておいて貰わないとな。」
「そっか。師匠も大変なんだね。」
「クロに師匠って言われるとむずがゆいな。」
にゃっはっはと笑うエルマー。
僕も思わず笑みが零れる。
「ほら。来たぞ。」
「そうだね。――僕は僕の仕事をこなそう。」
数は12か。
手練れもいないみたいだけど・・・。油断は禁物。
誰一人―――生きては帰さない。
瞳に暗い色が灯る。




