炎砂の大国 10:冷徹な刃
――村を走る二人と一匹。
「――クロ!数は!?」
「この感じだと・・三人だ。村の中央と南部。そして村はずれに一人ずつ。手慣れてるな。」
野盗の偵察だ。
隠して送り出した伝令がやられたっていう村長の話からして、野盗がこの村を監視している事は確か。そして、一度蹂躙した村だ。再度盛り上がるような事があれば再度奪いに来る。
――予想通りだ。今日は偵察。明日若しくは今夜遅くが本命だろう。
それを利用してこっちから叩く。
村の中央、南部は村の中の偵察。そして偵察に何かあった場合、拠点に連絡する役割が一人。
「シロ!手筈通り、村の中は僕が片付ける。シロは伝令を尾けて!バレないでよ?」
「まっかせっなさーい!」
シロに杖を向けた。エルマーが僕の外套に潜り込む。
「クラールハイド――。」
術式が展開。霧散する。
シロがみるみる内に姿を消す。
「ありがとー!行ってくるね!!」
二手に分かれる。
村長宅で事前に打ち合わせた通り、シロに魔術をかけた。
――クラールハイド。透明化の魔術だ。隠密行動には持って来いだけど、足跡等、物質に及ぼす影響に変わりはない。本当に姿が見えなくなるだけの魔術だ。他の人間、魔物など魔力のあるものと接触するとソルが乱れて解除されてしまうのが難点。・・・まぁシロなら大丈夫だろう。
僕は僕の役割をこなさなければ。
――野盗はこの村の中央と南部。場所はさほど移動していないな。
まずは合流させないと面倒だ。中央の方に顔を出すか。――気配を完全に絶つ。
目まぐるしいスピードで村の中を駆ける。足音一つ、布がすれる音すら立たない。
・・・偵察と言っても堂々と来るほど馬鹿ではないだろう。身を隠してると考えるのが打倒。
そして――僕には無意味だ。一つの家屋の屋根上で立ち止まる。
酷く荒らされた家屋の壁横。向こうにも魔術師がいるのか?大分お粗末な隠蔽魔術がかけられている。それでも普通の人間なら気付かないだろうな。
――まずは炙り出す。
「ラディソル。」
対象にかかっている魔術を消滅させる魔術。他にも何かかけてあったら面倒だ。
まとめて消してしまえ。
野盗は自身にかかった魔術が消失したことに気づき周りをしきりに見回している。
そんなんじゃ僕は見つからない。さぁ仲間の所に逃げるんだ――。
何が起こっているか皆目わからない野盗は走り出した。
後を追う。――よしよし。村南部に向かっているな。良い具合に取り乱している。もうそろそろか。
村人は全員、今は湖付近で宴会だ。被害が出る事は無い。
取り乱した野盗に駆け寄るもう一人。――かかった。
「ラディソル――からのパラライズ。」
もう一人に施された魔術を消去。
次いで術式を構築。野盗の周りに黒い靄がかかった。
二人とも意識はあれど指一つ動かす事は出来ない。心肺機能に害を及ぼす程にはしていないが、軽度の麻痺を引き起こす一般的な魔術も純度を高めれば死に至る事もある。
ここで僕は二人の前に姿を現した。
「――!!誰だてめぇっ!!何しやがった!」
「こんな事やってタダで済むと思ってんのか!?」
次々に浴びせられる罵詈雑言。――時間の無駄だな。
腰にぶら下がっている短刀を引き抜いた。
瞬間、自分達の立場を理解したように黙る盗賊。
「――よく聞け。喋るのはお前達じゃない。僕の質問にだけ答えろ。」
沈黙。了承の証だ。
「まず一つ目。お前らのアジトはどこだ。」
沈黙。もちろん答えない事は分かっている。お決まりみたいなものだ。
「次に二つ目。何故この村を襲った?」
一人が口を開く。
「俺たちぁ盗賊だ!!生きる為に奪って何が悪い!?」
「生きる為?――それは違う。お前たちは盗賊の前に人間だ。生きる方法は他にもいくらでもあっただろう。この村は優しい人達ばかりだ。困窮していたのであれば、願えば受け入れてもらえたはず。そんな交渉もせず、堕落し、暴力に訴えかけた。――違うか?」
「この世は弱肉強食だろ!?弱えぇ奴が強えぇやつに食われて当然じゃねぇか!!」
「なら。お前たちは僕に殺されても文句はないな?」
息を飲む盗賊。
「な、なぁ!!助けてくれよ!!」
「そ、そうだ!お前ほどの力があればもっと良い暮らしが出来るぜ!?俺たちと一緒に――!!」
「黙れ。」
盗賊に数歩近づく。
「最後の質問だ。――お前らは今までそうやって命乞いして来た相手を助けた事があったか?」
沈黙の数舜後、短刀は流れるようにして二人の人間の首を刎ねた。これでもうその汚い口も開けないだろう。力なく、二つの塊は地面に崩れ落ちた。
心は冷えきっていて何かを感じる余地はない。
「ウォーター。」
切ったばかりの短刀を洗い流す。
あんな奴らの血でこの大切な短刀を汚して置きたくない。
――鞘におさめる。
しゅるりとエルマーが僕の肩に乗る。
「――大丈夫か?初めてだろ。」
「うん。大丈夫。家を出た時、もう覚悟はしていたから。――それに初めてじゃないよ。」
――自由の責任。思ったより早かったけど、いつの日か人を殺める事もあるだろうと思っていた。
でも僕が手にかけたのは最愛の両親でも、隣人でもない。ただの悪だ。
何も痛まない。
「――・・・幻滅した?」
「何がだ??この世界では死ななきゃ分からない奴は山ほどいる。・・・お前は守る為にこうした。誇らしく思えど幻滅なんてする訳ないだろ。綺麗事だけじゃ生きていけないのはボクの方が解っているつもりだ。」
良かった。
エルマーの頭を撫でる。
「ありがとう。」
少し笑みが零れる。でもいつか・・・僕が間違う様な事があれば・・・。
その時は頼んだよ。エルマー。
「にしてもこの二人はどうするんだ?このままって訳にも行かないだろ?」
「そうだね。ちゃんと考えてあるよ。」
血溜まり諸々まとめて土操作魔術で大きなボールを作る。強度は高め。
そのまま持ち上げて―――あっちが砂漠側だな。角度は・・・・こんなもんか。
ボールに杖を向ける。
「ウィンドラファル!」
本来は人一人が吹き飛ばされる程度の突風を起こす魔術。
でも今回は純度100%での魔術発動にする。
杖の先に術式が展開。風のソルが収束した後、精密な指向性を持つ凄まじい突風が発生。
盗賊入りのボールは吹き飛ばされ、あっという間に見えなくなった。
村の木々が少し大げさに揺れた後、何もなかったかのように再び静まり返る。
「これで砂漠の方まで飛んでったと思うから。後は砂漠の生き物の糧になってもらおう。」
「最後位はこの世界の役に立てて良かったな。」
笑えない皮肉をいうエルマー。
――うん。僕の感知距離を抜けた。もういいだろう。魔術を解除。
「行こうか。」
「おう。」
村の外。少し離れた場所まで歩く。盗賊の配置からして村の南部方向。そこまで遠くはない距離にアジトがあるのだろう。
今の所は作戦通り。後の僕の仕事はここを守る事だ。――容赦はしない。
そっちは頼んだよ。シロ。




