炎砂の大国 8:枯れた水源
その水源は村長宅の後ろにある通りを道なりに行った先にあった。
まぁまぁ歩きはするが、水源として頼るには近いくらいだ。
「こちらです・・・。」
導かれた先には見えるのは、大きな湖を湛えられる程のサイズの窪み。
いや、元は豊富な水を湛えていたのだろう。
――村人のものだろうか。湖の入り口には多数の捧げもの?の様なものが置いてある。元は花であっただろうものから、食べ物、お酒の様なものまで。
「ここで何があったんですか?」
僕の問いかけに村長が考える。
「そういば――水源が枯れる数日前に大きな地震が一度ございました。・・・ですが今までそんな事はいくらでもあったのです。・・・そのくらいしか心当たりはございませんなぁ・・・。」
地震か・・・・。十分な可能性だ。
多くの人々は忘れるように生きているが、”今までがこれからではない”。
今まで幾度もあった事でも、この先同じように何ともないなんて楽観は本当は出来ないんだ。
――僕はそれを知っている。
「わかりました。少し調べてみますので人払いをお願いしても良いですか?・・・村の方に何かあってからでは遅いですから。――この水源の周りだけで構いません。」
「えぇえぇ承知いたしました・・・。」
「それと・・・見届けたいでしょうけど村長さんも暫くお家に居てください。何か成果があればお伝えに戻りますから。」
少し訝しげにしながらも承知してもらえた。
――さてと。
「シロ。ちょっと底まで降りてみよう。」
「うん!まずは原因調査だね!!」
原因と言っても粗方予想は付いている。地震しか無かったのであればそれが原因だ。
そして、可能性としては2パターン。
流れていた地下水脈が地震の地下変動で塞がれてしまった場合。こちらの場合、どこで流れが変わったかにも寄るが基本的に根本解決は難しい。
だから願うのはもう一つのパターン。
――暫くした後。
湖の底を調べる僕達のもとに村長が人払いが終わった旨を伝えに来た。
お礼を言って、村長も家に戻る様に伝えた。
湖の周りに誰もいない事は分かっている。さっき調べた。割と念入りに。魔力探知よりもソルの流れを感じる方がそういう事には遥かに高性能だ。違和感があるからな。
「多分ここら辺だろうな。」
地面をザクザクと杖で突く。
「ここら辺って?」
「水が湧きだしていた所だよ。こういう所の湖は地下水脈が湧き出る事によって水が尽きないんだ。」
「ほえー?雨とかが溜まるんじゃないんだ??」
「雨だってそうだよ。まぁここら辺で雨が降る事は稀だから・・・遠方で降った雨が地下を伝ってここで湧きだしたりしてるかもしれないね。」
人払いも済んでるみたいだし早速やるか。
「――デュナ・ブラーム。」
術式が構築。湖を覆うようにドーム状の結界が形成される。
「何したのー?」
「あぁ、これは衝撃吸収の結界だよ。本当は味方にかけたりして、相手の攻撃の衝撃を和らげるもの。まぁこれはその一番下のレベルだけどね。――これで十分でしょ。」
地面に手を付いてソルを探る。
簡単な話。水があればそこには多量の水のソルがある。その感覚を探す。
―――・・・・あった。良かった。これなら何とか出来る。
でも遠いな・・・。
基本的に一の扉は僕の周囲のソルの従属しかできない。
ソルの感覚が分かるのは数キロメートル。ここでは属性の把握や乱れ位しか分からない。
従属転換になれば数百メートル程。目視になればさらにその半分位だ。
これでも訓練してかなり距離を伸ばした。まぁ特例はもちろんあるけど。
「――うーん・・・。」
腕を組んで少し考える。眉間に皺を寄せる僕の顔を覗き込むシロ。
「どしたのー??」
「いや、確かにこの下に水があるにはあるんだけど・・・。結構遠いんだよね。」
「なんだぁ!!そんなこと?」
ほう。シロには考えがあると。
「掘ればいいんだよ!!」
ぐっと握りこぶしを作るシロ。
はい脳筋。どれだけかかると思ってんの・・・。
はぁ・・・。
――!っと待て待て。これは案外いけるかも知れない。
「それだシロ!」
「でしょ!!掘ろう!!」
「いや、それは無理。」
ポケッとした顔をするシロ。
「少し荒っぽくなるかもと思って張っておいた結界が役に立ちそうだね。」
僕の言葉にさらに疑問符を浮かべるシロ。
これは特に説明する必要も無いだろう。やってもらった方が早い。
あ――忘れる所だった。
「シロ。ちょっと剣見せて。鞘ごとちょっと貸して。」
「いいよー!!・・・でも何するの?」
するのはシロ。なんだけど確認しておかないとね。
シロから手渡された剣を受け取る。
ええっと――。見た目には何も施されていない。・・・先生の事だからとんでもないものを仕込んでるに違いない・・・。
一応確認しておく。予想外の結果になってしまうかもしれないからな・・・。シロはろくに確認もしてなかったし。
鞘から剣を引き抜く。
鞘の内側には・・・。太陽光が上手く入り込むように調整しながら覗き込む。
これは肉体強化のステッカー。まぁ鞘は基本体から離れる事は無いから、こっち側に施すのが定石だ。
剣の方は・・・。これは魔術による刻印だな。普通は見えない。・・・けど僕には見える。
――!!エンチャント強化だ。これは確認しておいて良かった。
他には・・・。柄には摩耗防止のステッカー。使い込めば込むほど柄は摩耗するからこれも分かる。
問題は柄の内側だよなぁ・・・。バラしたら戻せないし・・・。
・・・・・まぁ見られないものは仕方ないか。
剣を鞘に戻し、シロに返す。
「ありがとう。大体わかった。」
「ん。それで??どうやって水源を復活させるの?」
「うん。シロは思いっきりここに剣を突き刺すだけだよ。」
「そんなのでいいの?いくら私が強いからってそれでいけるかなぁー?」
「もちろん。僕も手伝うよ。とりあえず構えて。」
僕の言葉にシロは背中の剣を引き抜き、両手で構えた。
「レヴィクーペ・ウォータ――。」
構えた杖からの術式構築。
これには水のソルが多量に必要だから、周りのソルを従属転化。対象はシロの剣。
完成度は通常レベル。一般の魔術師が使うレベルで大丈夫だろう。
――杖を振る。
シロが構える剣に、水で出来たヴェールが完成した。
「わわっ!!何これ!!」
「水のエンチャント魔術だよ。説明すると長くなるから手短に話すけど、武器に属性を与えたんだ。」
「これは・・・水?」
「その通り。シロがその剣を振れば、水の刃が同時に飛び出す感じかな。エンチャントにも色んな種類があってね。今回は目的上、魔撃を追加するエンチャントだけど、ものによっては剣自体の属性を変えて―――。」
「すごいすごーい!!振っていい?振っていい??」
聞いてない!!・・・・虚無感。・・・はぁ。
「振っちゃダメ。良いからそこに思いっきり突き刺してみて。」
湖の一番底の部分を杖で指す。
「むむぅ・・・。思いっきりそこに突き刺せば良いんだね?思いっきりで良いんだよね??」
何の確認なのか・・・。
「うん。頼んだ。」
「まっかされた!!」
ニコッと笑うと同時にシロの跳躍。ゆうに湖の深さを超え、僕が張ったドーム状の結界ギリギリまで跳ね上がる。どういう脚力なんだろう・・・。
落下の勢いに追加されるシロの腕力。
「おもいっっっきりぃ!!!!!」
刺し込まれる剣。ズドンッと砲弾でも落ちたかの様な音。そして小規模の地震。衝撃波・・・ヤバいな。差し込んだ剣の両脇から水が噴き出る。
「そのまま剣を抜かないで!」
「うん!!思いっきり差しちゃったから抜けない!!」
・・・あーはい。そうですか。
少し距離を取っておいて正解だったな。あの威力・・・怖い怖い。
剣両脇からの水。あれは僕のエンチャントの水だ。・・・・これで届いてくれてると良いんだけど。
ニコニコとしてるシロの横を通り過ぎ、剣に手を当ててソルの状況を探る。
・・・・これ・・・・地下水脈通り過ぎてるな。・・・まぁ届いたことには変わりないか。
先のエンチャント。魔術師の力量も関係するけど、水の刃の威力や速度はその武器の攻撃威力に比例する。僕は一般魔術師レベルのものしか発動してない。
シロが僕の想像を遥かに超えた馬鹿力なのか・・・先生のエンチャント強化のせいなのか・・・。
まぁどちらにせよ・・・エンチャントは色々と気を付けよう。――下手すると惨状になる。
さてさてそれはそうと。ここまで出来れば後は簡単。
僕の魔術が届いてさえいれば、そこからさらに水のソルを従属。地下水脈の水流方向をこちらに誘導する。
もちろん、地下水脈のたった一部の水流だ。この水脈は他の所でもオアシスを作っているかも知れないからな。他に影響を及ぼさない様に・・・。
じわじわと突き刺された剣の周りから水が染み出す。よしよし。
「シロ。剣を引っこ抜いて。多分もう抜ける。」
「分かったー!!」
横で見物していたシロが剣を握り、踏ん張る。
「ぐぬぬ・・・・ぬぬーーー!!よいしょ!!」
勢いよく引き抜かれた剣に続いて水が滾々とあふれ出る。おおっと声を上げるシロ。
ここでもう一仕事。空いた穴に手を触れる。
土操作術で水の通り道を固める。これは一旦形さえ成ってしまえば、後は自然と凝固する。暫くした後に魔術は解除されるようにしておいた。
「これで水源の確保は終わったね。」
「すごーい!!けど・・・これ湖が溜まるまですっごく時間がかかりそうだねぇ・・・。」
「まぁ村人が一日に使う水の量くらいは余裕で湧き出してるんだけど・・・。」
後は見栄えの問題か。皆に喜んでほしいのもあるけど・・・完全に復活した方がこの後都合が良い。問題はもう一つあるからな。
「シロ。湖から出て、辺りを見張ってて。見られちゃ困る。」
「分かった!!なんか悪い事するんだね!!」
悪い事はしないよ!!良い事だけど見られちゃ困る事をするんだよ!!
急いで湖を駆け上がるシロ。
察したエルマーはいつの間にかシロの外套に潜り込んでいる様だ。抜け目のない・・・。
湖を出たシロを見上げる。両手を頭の上で繋いでニッコニコの○マーク。
大丈夫そうだな。――まぁ念の為。
「ハイディング。」
結界内側にさらにもう一つ結界。これはさっきとは違い結界内の状況を不明瞭にするものだ。魔力から人の動きまで。名前の通り隠す魔術だ。結界式なのが不便だけど。
辺りを漂うソルを片っ端から水属性に従属転化。純度を最高にしてっと・・・。
「ウォーター。」
杖の先端に術式が構築され、巨大な水の球が収束する。
その大きさが湖の深さを超えそうになった所で留める。
ザバァーーー!!
少しの間をおいて水の球は弾け、湖が一瞬で一杯になる。
バレない為とはいえこの量の水が巻き起こす水流は不味い。湖の底で使うんじゃなかった。
下手すれば溺れる。急いで浮上。
「ぷはぁっ。危ない危ない。溺れる所だった。」
「わーーー!すっごいねクロ!!湖完全復活だよー!!」
上手くいったな。湖の縁まで泳ぎ、水から上がる。
相変わらず濡れすらしない服。まぁ今回はそのおかげで溺れずに済んだ訳だけど。
水を含んだ衣類ってすごく重いし。
でも・・・さすがに不自然かな。髪すら濡れてないって・・・・。
その横でいそいそと鎧を外すシロ。
「何やってんの・・・?」
「え!?クロ見てたら泳ぎたくなった!!鎧付けてると濡れすらしないからね!!やっぱり水浴びてさっぱりしたいじゃんっ!!」
じゃんっ!!じゃないよ。でも――そうか。術式はシロの場合鎧に施されているのか。
じゃぁ僕の場合は――。
外套を脱ぎ、上衣の両袖を外す。多分これかな。
僕を他所にシロが湖に飛び込む。
「うひゃーー!!きっもちいいよー!」
感想が完全におっさんなんだよなぁ。――じゃ、僕も。
湖に飛び込む。
上半身だけ濡れる。さすがにズボン脱ぎたくないからな。これで我慢。
十分に気持ちが良い。
エルマーは”何が楽しいんだか”って顔で僕の外套の上でお昼寝。
――僕達は少しの間だけ水浴びを楽しんだ。




