炎砂の大国 5:優しき眠り
さて、僕達の朝食は済んだ・・・。
ウルフ団の皆はどうしようか――。
そういえばシロが朝ごはんを食べるなりどこかにすっ飛んで行ったけど――。
「よーいしょっとぉー!!」
シロの声と共に目の前にバッファローが落ちてきた。その数6頭。これは助かった。
皆の食い扶持の心配をしなくて済む。
「これだけあれば皆の分足りるよねっ!!さーさ!!みんな朝ごはんだよ!!」
ウロウロとバッファローの周りを囲むものの、誰も食べ始めようとしない。
「あっれぇ?バッファローのお肉嫌いなのかな??私は好きなんだけどなぁ・・・?」
「うーん・・・。どうしたんだろう・・・。」
困った二人にエルマーが救いの手を差し伸べる。
「デザートウルフって種族はボクたちみたいに一日に何食も食べないんだよ。数日に一回。しっかりと食べられれば十分な贅沢だ。丸ひと月食べなくても全然問題無いぞ。」
つまりは・・・後で食べようとしてるって事か。
・・・その管理も僕達親玉の役目だな。
「ありがとうエルマー。」
「おう!お前らはまだまだ知らない事ばかりだ。行き先に指図はしないと言ったが、旅の助力は惜しまないぞ。分からない事があれば聞くが良い!」
シャキンっと親指らしきものを立てる。
本当に助かるよエルマー。
「それなら後にとっておいた方が良いよね!――でもどうしよう??数日後まで痛んだりしないかなぁー??」
「鞄に入れるつもりなら大丈夫だぞ。ボクのリュックと同じ造りなら、入れたものは入れた時点のままだ。腐る心配は要らないぞ。そもそもお前らの食べ物だってそうだろ?」
「あっ!確かに!!なら問題ないねー!!」
そう言いながらニッコニコでバッファローを次々と鞄にしまうシロ。ウルフ団も動揺している。
事情を知らなかったら恐怖の絵面だろうなぁ・・・・。
でも確かに――エルマーの言う通り、鞄にしまった食べ物が痛んだり、しまったものが破損したりすることは無い。この鞄・・・本当にどういう仕組みなんだろう。先生が造ったんだよな・・・?
うーん・・・ダメだダメだ。今はそんな事後回し。早く砂漠を抜けないと色々と不便だ。
「みんなちゃんと休憩とれたかなぁー?」
「水遊びしてた位だし大丈夫でしょ。――そもそも疲れてなかったのかも。」
「でも心配になっちゃうよー。私達には完全に分かってあげる事ができないもん。」
「だね。だから僕も早めに休憩を取ったんだけど・・・。」
話す僕達の前にぞろぞろと集まるウルフ団。
出発はまだかと急かす様に皆で行儀よくお座り。ついでに尻尾も振っている。
零号と1号が僕達の前にそれぞれ座る。
僕とシロは目を合わせて笑った。
「行こっか!!」
「そうだね。――行こう。」
即席オアシスの魔術を解き、僕達は再び砂漠の道を進んだ。
――その後の砂漠突破は順調も順調だった。
道中、何度か魔物との戦闘もあったが、シロも僕も十分に対応可能。
それどころか、ウルフ団だけで片付けてしまう事もままあった。なんていうか連携が上手くなっているような・・・まさかシロの戦闘訓練が功を奏しているのだろうか・・・。
適度に休憩して、可能な限りの移動を繰り返した。
――4日後。
「砂だらけも終わりが見えてきたよー!!」
僕の前を走るシロが振り返りながら手を振る。
砂と枯草だらけの砂漠は終わり、点々と樹木が生えている様子が少し遠くに見える。
この地面もいずれ柔らかい砂では無くなるだろう。
・・・もうそろそろか――。
「シロ!ここら辺で止まろう!」
この先はもういつ人の目に触れてもおかしくない。もう少し行けば最低限に道が整えられた街道が見えてくるだろう。ここからは歩きだ。
「おっけー!!」
慣れた様に1号と零号は徐々にスピードを弱め、停止した。
その他ウルフ団も僕達の周りで立ち止まる。
「ちょっと待っててね。」
僕の言葉に全員がその場で待機する。
「シロ――。相談があるんだ。」
「珍しいね?どしたのー?」
「ウルフ団での移動はここまでだ。これ以上先はきっと色んな人たちの目に付く。」
「確かにそうだけど・・・この子たちは??」
切り出しづらくて少し間が空いてしまう。
「そのことなんだけど――砂漠に返そうと思う。」
「えーー!?そんなのないよ!!皆ここまで頑張ってくれたよ!?」
「分かってるよ。僕だって辛い。でもこの先この子たちをずっと連れて行く事は出来ない。」
「そうだけどーー!!クロの魔術で何とか出来ないの!?」
「悔しいけど、僕の知っている魔術の中にこの状況をどうにか出来るものはないよ。」
「じゃぁじゃぁ鞄に入れちゃえば――。」
「それはおススメしない。この鞄。ものを入れておくにはすごく便利だけど、入れてから出すまでの間。どんな理論で保存されているか分からない。もしかしたらこの子達に死ぬより酷い苦痛を与えてしまうかもしれない。」
「えっ・・・じゃぁじゃぁ――!!」
泣き出しそうなシロ。そんな顔しないでくれ――。この子達にとっても、僕達にとってもこれが最善なんだよ。
「ここでウルフ団とはお別れしよう。」
少し間があった後、最終宣告を告げられた様にシロが深く肩を落とす。
僕は最初からそのつもりだったからまだマシだ。
シロの気持ちは良くわかる。数日とは言え一緒に仲良く過ごした仲間だ。それにシロは皆をすごく可愛がっていた。
――こんな時・・・先生だったらシロになんて言うんだろう。
「シロ・・・。でもこの子達をこのまま返すつもりはないから。――せめて安心してほしい。」
僕に言えるのも。僕に出来るのもこのくらいだ。
俯いて止まったままのシロは目元を籠手でゴシゴシと拭って顔を上げる。
「どういう事?」
目元も鼻も真っ赤だ。もっと僕が上手くできればそんな悲しい思いをさせなくて済んだのに。
自分の無能さに嫌気が差してしまう。
「彼らの記憶を一部消去する。僕達がいた事。僕達がした事を忘れてもらって、零号がリーダーだった時のヒエラルキーに戻すんだ。そうすれば、この子達はまたこの砂漠で生きていける。」
「辛いのは私達だけで済むの?」
「そういう事。置き去りなんて酷い事は出来ないよ。」
そうだろうな。自分が寂しいのもある。でもシロはそれ以上に自分たちが急にいなくなった時の事を考えて泣いたんだ。頼れるリーダーが急にいなくなったのではこの子達はバラバラになってしまう。それではこの先を生きて行く事すらままならなくなる。
その事を憂いて泣いた。そういう子なんだ。
「良かった――。・・・やっぱりクロは優しいんだ。」
優しければこんな手段は取らない。取らなくて済むような手を取る。
僕はシロが悲しむ事も分かってたんだ。――思考を振り払って明るい顔を作る。
「さ!みんなおいで!!」
僕がウルフ団に呼びかけるとみんながみんな尻尾を振って近づいてくる。
この光景を見て心が痛まない人間なんている筈もない。
1号から16号まで、一匹ずつわっしわしと撫でまわした。今までありがとう。
――そして零号。わっしわしと撫でまわした後に抱きしめる。ダメだ。泣きそうだ。
でもこれでいい。これがお互いに最善だ。
シロも片っ端から撫でまわして一匹ずつ抱きしめた。終わる頃には涙と鼻水で顔はグズグズだ。
見なかったことにしてあげよう。
「――いいね?シロ。」
「うん!しっかりとお別れしたよ!!」
シロは顔をゴシゴシと拭きながらニッコリと笑顔を作った。
――じゃぁまずは。
「シュラーフ。」
術式が構築、展開されるとウルフ団は一匹、また一匹と眠りについた。
これは低レベルの入眠魔術だ。後遺症が残らない様にこれにした。下手に強力な眠る魔術をかけてしまうと魔術解除後に過度の運動機能の低下や、酷ければ目が覚めないなんてこともあり得るからな。
・・・シロがウトウトしている。
いや、シロは起きててよ。横っ腹を杖でつつく。居眠りを注意された学生の様にビクッと起きる。
ええと――これは調整が難しいから一匹ずつだな。
眠る零号の頭に手を触れる。
「エアインプレイク。」
これはそもそも使う魔術師が少ない。別名”都合の良い思い出”。その名の通り、記憶操作魔術だ。この発動には全属性のソルが必要だし、割合も難しい。その割には効果を発揮できる場面は少ない。先のファジネイション同様、微弱なソルにより記憶を操作する為、知性が高すぎる生き物には作用しないからだ。でもファジネイションが効いた事を考えると零号達にも効く。
念の為に今回は完成度も高め、属性割合も精密に行う。――覚えていられては困るから。
――――良し。これで僕とシロは記憶から消えた。
1号から16号まで、順に魔術を施す。今までの労を労うように。丁寧に。
一通りを終えて、動作を眺めていたシロの隣に戻る。
「終わったの??」
「うん。――悲しいけど、これで僕達の事を思い出す事はもうないよ。シュラーフを解けば、僕達はただの人間にしか見えない。」
「そっか・・・・。」
クロ・・・悲しそうだなぁ。でもそれを誤魔化して隠してる。
自分では優しくないとか思ってそうだけど、そんな事無いよ。私は見てたから知ってるもん。
きっとクロは最初からこうなる事が分かってたんだ。
そして、黙ってる事も選んだ。私が我儘を言わない様に。自分だけが傷付きながら。
私にだってそれくらいはわかるよ。――家族なんだから。
「行こっか!!」
「・・・そうだね。」
「――あ!すっかり忘れてた!!これは君たちへのお礼だよ。」
シロが鞄からバッファローを取り出して、眠る彼らの少し離れた砂漠側に置いた。
「このくらい良いよね!!」
「いいんじゃないかな。本当に助けてもらった。」
「よし!改めて行こう!」
「・・・そうしよう。」
僕達は歩いて砂漠を抜けた。ここは・・・辛うじて街道のていを保ってはいるが・・・。長年放置されている街道の様だ。人通りも無い。あまり使われないのだろう。
ウルフ団が結構遠くに見える。ここら辺でいいかな。
僕とシロは立ち止まった。
――魔術を解除。
一匹、また一匹と目を覚ます。辺りをウロウロとし始めた。
その内の一匹。一回り大きいデザートウルフが目を覚ますと遠吠えを上げた。
それを合図に眠っていたデザートウルフは目を覚まし、辺りをうろついていたデザートウルフはそのもとに集った。その後、集団でバッファローのもとへ向かう。
うんうん。ちゃんと食べに行ってくれたな。これで元の縄張りに戻る燃料は足りるだろう。
それに、消したのは僕とシロの記憶。シロによって強化された戦闘能力は恐らく残る。
この先も元気で生きて行って欲しい。本当にそう願うよ。
――暫くデザートウルフ達の姿を見つめた。
「これで良かったんだ。お前らは間違ってないぞ。」
シロの肩に乗っていたエルマーが二人を元気づける。
僕とシロは頷いてゆっくりと歩き出した。




