炎砂の大国 4:オアシス
・・・まだもう少し寝ていたいって――。微睡の中、顔に違和感を感じて現実が忍び寄る。
エルマー。顔舐めないで。エルマーってば・・・って・・・エルマーに顔舐められた事なんて無いよな。
頭蓋が大きく揺らされる。そして顔がもの凄く舐めまわされている事に気づいた。
「うひゃぁっ!」
情けない驚き声と共に飛び起きる。完全に目が覚めた。
舐めていたのはデザートウルフの元親玉。そういえば昨日枕になってくれてたんだった。
なんか申し訳なさそうな顔をされる。
「ごめんごめん。」
顔はべっちゃべちゃだけど僕が悪かった。
頭から首回りをもっふもふ撫でる。デザートウルフの表情がパッと明るくなる。かわいいやつめ。
「――5号!!連携が遅れてるよっ!13号が怪我してからじゃ遅いんだからー!はいはい2号も休まないっ!!」
外からなんか聞こえる。
そういえばシロと他のデザートウルフ達がいない。
「アイツは早起きだからな。ちょっと前からあんな感じだ。まだ明け方だぞ。」
僕の横に座るエルマー。鶏ささみジャーキーを咥えてもっきゅもっきゅ咀嚼している。
「何となく予想はつくけど・・・何やってるの?」
「戦闘訓練だと。」
はぁ・・・。魔物に戦闘訓練とか聞いたことないよ。
ドーム入り口の影から様子を覗こう・・・としたらバッチリシロと目があってしまった。
「あ、クロ―!!おっはようっ!!」
仕方ない。頭をポリポリと搔きながらドームを出る。後ろにエルマー。デザートウルフも続く。
「せいれーつ!!」
掛け声と同時にデザートウルフ達は一斉に走り出し、横一列に整列する。しかも背の高い順に。
何だろう。本当に教官と兵士みたいに見えてきたな・・・。
「親玉に挨拶!!」
一斉に軽く吠える。何を教えてるんだ。ショーでもやるつもりか。あと親玉はやめて。
まぁ言う事をここまで聞くならシロも僕の地位と同一視されてるんだろう。
「何やってるの・・・。」
「これから一緒に旅するのに鍛えてあげない訳にはいかないでしょー?」
「いくと思うけど。」
「だから連携の強化と、それぞれに名前を付けてあげてたんだよー。」
名前?それは助かった。
個別に指示を出したい時もいずれあるだろうからな。
「それで・・・名前は?」
「ん?大きい順に1号、2号、3号―――そして16号だよ!!」
・・・そのネーミングセンスは師匠に似たな。
まぁ・・・分かりやすくて良いか。
「あーー!ごめーん!その子の事忘れちゃってたー!!」
振り返ると、僕の後ろに着いてきているデザートウルフが少し残念そうな顔をしている。
「がっかりするな。――お前は零号だ。」
名を告げながら頭を撫でる。再びパッと明るい表情になる。
まだ短い付き合いだけど、デザートウルフは非常に表情豊かだ。悲しんだり喜んだり。
ボディランゲージも大概だけど、表情も分かりやすい。
――お前たちを選んで本当に良かったよ。
「さ、早速だけど移動を開始しようか。」
「むぅ、まだまだ鍛え足りないけど・・・そうしよう!!」
精鋭部隊にでも鍛え上げるつもりなのかな?
デザートウルフ達には少し待ってもらって、ドーム内で移動の準備を整える。
「忘れ物無いようにね。このドーム崩しちゃうから。」
「はぁーい!もうバッチリだよ!」
さっさと準備を終えて外に出る。ソルにお願いしていた行動を終了し、魔術を解いた。
まるで脱力したかのように砂のドームはドサッと砂煙を残して崩れ去った。
「これで良しと。」
「さぁ、ここから大移動だー!!」
昨日の内に、デザートウルフ達には僕達の目的を伝えてある。
「零号!1号!」
名前を呼ぶと、二匹は尻尾を振りながら駆け寄ってくる。
僕の方に零号が、シロの方に1号が駆け寄る。
僕達のサイズ的には逆の方がいいんだけど・・・・それぞれ懐かれているみたいだし無理強いはしない方がいいか。1号だって、シロを乗せても余裕あまりあるサイズだ。エルマーは既に零号の頭の上に乗っている。
それぞれがデザートウルフに乗る。他のデザートウルフ達はそれを見守っている形だ。
馬や鹿を移動の足にするのは一般的だが、デザートウルフとなると話は別。手綱や鞍がある訳でもない。少し不安だが――。
「グゥワウッ!!」
僕の表情を見て零号が吠える。心配するなって事?
つかまる所も無いし・・・首周りの鬣につかまっても痛く無いかな??
グッと少し強めに引っ張る。零号は気付いてすらいない。大丈夫そうだな。
「シロ!準備いい?」
「オッケーだよ!!」
鞄から地図とコンパスを取り出し、方向を確認。
よし、こっちの方だな。地図とコンパスをしまい、しっかりと鬣を掴む。
「――じゃぁ行こう!!」
掛け声と共に全速力で走り出す零号と1号。他のデザートウルフ達は後に続く。
早っ―――過ぎて首から先が置き去りにされるかと思った・・・。
自然と前傾姿勢をとる。思ったより揺れが少ない。何だったら馬や鹿よりも乗り心地が良い。
先生の授業で乗ったことがあるから分かる。それに比較にならない程速い。
自然の生き物と魔物ではこうも違うのか。
「零号!そんなに飛ばさなくて大丈夫だからね!」
「バウッ!!」
問題無いとでも言いたそうな返事。――この速度で普通に走っている速さなのか。
これはかなり助かりそうだ。
暫くした後――。
「シロ!!そろそろ休憩にしよう!」
「わかったー!!そうしよー!!」
デザートウルフ達が疲弊する前に休憩をとる事を提案する。
彼らには無理をしてほしくない。無理にでも休んでもらう。
「零号!そろそろ休憩にしよう!!」
伝えると同時にフルブレーキ。体が前につんのめる。
・・・・走り始めと止まる時の方法だけ教えよう。こんなんじゃ首がいくつあっても足りない。
零号から降りる。
陽の感じを見ると――そろそろ朝ご飯の時間だな。
涼しいうちにと思って早めに出発したけど、これからは暑さにも気を配ってやらないと。
「いやー!!ものすっごく速かったね!!」
「そうだね。このペースだと3、4日あれば砂漠を抜けられるかも知れない。」
「そうなの!?それはすっごい助かっちゃうね!」
「うん。デザートウルフ様々だよ。」
「もーー。ちゃんと名前つけた仲間なんだから種族で一括りにしないのー!」
じゃぁ何と呼べと。
「その名も・・・・ウルフ団だよ!!」
相変わらずのネーミングセンス!!団!!ダサい!!
「えへへー。さっき移動してる間に思いついちゃった!かっこいいでしょ!!」
「あーー・・・うん。カッコイイネ・・・・。」
まぁ良いよ。親近感は確かにあるから。
「さて・・・と。」
土操作魔術を使って巨大な皿を地面に造る。
その後、多量にある風と土と炎のソルを水のソルに変換。
「ウォーター。」
僕が唱えると共に、杖の先に術式が展開。宙に大きな水の玉が収束する。
先ほど造った大きな皿の上に水を落とす。大きな皿には水がなみなみと注がれた。
即席のオアシスだ。
「今のうちに皆飲んでおいて。」
ウルフ団・・・・は皆で一斉に水を飲み始めた。この砂漠で潤沢な水源があるのは限られた場所だけ。思う存分水を飲むこともままならない・・・過酷な環境だ。
本来、こんな初歩的な魔術でもこの出力で発動するのは難しい。砂漠にはそもそも水のソルが殆ど無い。普通の魔術師が発動するとなるとその殆どを自身の魔力に頼らなければならないだろう。
この手段も、人目につかない今の内しか使えないな。後で何かの容器に水を溜めておかないと。
――思考に耽っていた僕を他所に、いつの間にかウルフ団では水浴び兼水遊びが始まっていた。皆でじゃれあいながら思う存分に楽しんでいる。・・・微笑ましい。・・・・良く見るとシロも混ざってるぞあれ。
エルマーは僕の肩の上だ。エルマーは嫌いだもんね。水浴び。ふふっと笑う。




