炎砂の大国 3:優しさとは
デザートウルフを引き連れてシロのもとへ向かう。
ん?なんか様子がおかしい。
「――であるからして君たちの攻撃は直線的過ぎるんだよ!!時には柔を・・時には剛をが戦闘の基本だよ!!」
「それボクが教えたやつな。」
デザートウルフ十数匹がシロの前に座っている。
――状況が飲み込めん。
僕が声を掛ける前に、こちらに気付いたシロが大きく手を振る。
「あ、クロー!!そっちも無事に終わったんだね!私は今この子達に戦闘の何たるかを教えてたところだよー!」
いやいや何がどうしてこうなった・・・・。
これじゃ最初から全部シロに任せてたら良かったんじゃないかなって。
まぁ・・・野生動物的な意味で通ずるものがあったんだろう。うんうん。
――シロに一通りの説明をした。
デザートウルフがどういう生き物かから始まり、僕が現在のリーダーみたいなものという所まで。
「なるほど!!じゃぁクロが親玉だね!」
「親玉って・・・なんか悪者感強めだなぁ・・・。」
「でもクロが親玉になったって事しかこの子たち分かってないよね??」
デザートウルフたちをちらっと見る。
皆僕達を囲むようにして行儀良くお座りしている。
「それなら問題無いよ。こっちの意思を伝える魔術があるから。」
「えーー!?魔術ってなんでもありなんだねぇ・・・ちょっとズルくない?」
「魔術は人々の生活に古代から関わっているからその過程で色んな進化を遂げてるんだよ。それに何でもありって訳じゃない。現にその魔術だって対象と主従関係が築けていなければ使えないし。」
ふーんと興味なさそうなシロ。
全く――。魔術の奥深さをいつか教えてやりたいものだ。・・・あれ・・・僕誰かに似てきてる。違う違う気のせい気のせい。
軽く咳ばらいをした後、自分とシロの喉に手をあてる。
「ヴェステル。」
触れている個所に術式が現れ、消失する。
「何したのー?」
「僕とシロに魔術をかけたんだよ。これはとある民族の魔術でさ。その民族は魔物と共生しているんだ。」
「魔物と一緒に生活してるって事!?そんな事できるの!?」
「魔物と共生って言ってもそんな強力な魔物じゃないよ。畑を耕したり、狩りとかを一緒に行ったりしているらしいんだ。」
「へぇ~。色んな生活してる人がいるんだねぇー。」
「その時に意思疎通出来ないと困るでしょ?その為に作り出された魔術。自身の意思を言葉で伝える事が出来るんだ。」
「え!すっごく便利!!これでワンちゃん達ともお話出来るんだね!!」
「いや、残念ながらお話は出来ない。あくまで一方通行――。でも彼らの意思はその素振りである程度分かるものじゃないかな。」
「そうなのーー?ざーんねん・・・。まぁでもそっか!何となく分かるよね。」
うんうんと頷くシロ。
だからボディランゲージや意思の表し方が犬に近い狼族をお供に選んだんだけどね。出来るだけ彼らとも仲良くしたいから。
「さてみんな!!シロたちを手伝ってくれるかな!?」
シロの呼びかけにデザートウルフたちが遠吠えで応える。尻尾もブンブンだ。
指示を受ける事、それをこなす事に喜びを覚える習性も犬に近い。旅を手伝って貰ったとしても彼らにも負担が少ない。
でも手伝ってもらうからには彼らも仲間だ。・・・名前・・・つけようかな。だが数えてみたら17匹・・・・レパートリーがない。
――突如、背後の地面が大きく盛り上がる。
サラサラと体からこぼれ落ちる砂。黒く光る鎧の様な体躯。両腕に携えた巨大な鋏から始まり、尻尾はぐるっと半円を描いて先端には鋭くも極太の針を持ち合わせている。
巨大な蠍が姿を表した。
「うわわー!!この世界のサソリってこんなに大きいんだね!!」
「そんなわけないでしょ!!魔物だよ!!デスリーパーだよ!!」
一斉にデザートウルフが臨戦態勢を取る。
「――大丈夫。ちょっと待っててね。」
臨戦態勢の彼らを諫めた。主の言う事は絶対だ。一匹また一匹と臨戦態勢を解いていく。
シロに目で合図をする。
「うんうん!!君たちのご飯は私たちが準備してあげるよー!――あ、いい事思いついた!!あのサソリちゃんにも旅を手伝ってもらおうよ!!」
「ダメ。そういう類の魔物じゃないから。」
君たちのご飯発言の後の提案とはとても思えない。
「えーー!クロのケチ!!」
「いいからやるよ。」
「分かってますよーだ!!」
―――その日の夜。
僕とシロ、そしてデザートウルフたちは広めの洞窟で暖を取っていた。
厳密には洞窟ではない。砂もとい土操作魔術で僕が作った簡易的なドームだ。中は広々。
その真ん中で焚火を囲んでいた。デザートウルフ達は皆で丸まって寝てる。
・・・そのお腹の上でエルマーも丸まって寝てる。モフモフがモフモフで寝るなんて・・・罪深い。
彼らにとっては・・・生まれて初めての外的要因に気を尖らせなくていい安らぎなのだろうか。
だったら少し――嬉しく感じる。
それにしてもデザートウルフ達。デスリーパーの尻尾と甲殻以外、見事に食べ尽くしてたなぁ。
空腹だから気が立っていたのか?まぁ空腹って万物に対して大敵だよな。僕もなんか嫌い。
残った甲殻は僕とシロの鞄に分けてしまってある。――尻尾は埋めた。なんか怖いから。
防具の素材としては比較的高価な品だ。どこかで路銀の足しにしよう。
「いやー!砂漠の夜って寒いんだねぇ!!びっくりしちゃったよー。」
「そうだね。ここら辺は下手すれば氷点下まで下がるらしいよ。まぁ・・・僕らは服のおかげでエルマーに言われるまで気付きもしなかったけどね。」
本当にすごいなこの服。日中の砂漠の暑さも感じない。夜の寒さも感じない。
あれだけ動いたのに破れや摩耗どころか汚れ一つ付いてない。感覚がおかしくなりそうだ。
「――そういえば!このドームって大丈夫なの?」
「大丈夫も何もこの時間にこんな砂漠を誰かが通る訳ないでしょ。」
「いや、そうじゃなくてさー。魔術で作ってあるんでしょ?普通の魔術って術者の意識が途切れたら当たり前だけど解除されるよね?クロが寝たら皆ぺしゃんこ??」
ぺしゃんこ??じゃないよ。そんな訳ないだろう。
「あぁ、そういう事。大丈夫だよ。維持はソル自体にお願いしてある。」
正しくは従属、命令だけど――命令って言葉はあまり好きじゃない。
「そっかそっか!なら安心して眠れるね!!」
「うん。魔物除けの術式もドームに張り付けてあるし。少なくとも朝までは大丈夫。」
「明日からはどうするの??」
「彼らに大活躍してもらうよ。乗せてもらって砂漠を移動しよう。デザートウルフの敏捷性は砂漠では随一。スタミナだってある。」
「えー。こんなにかわいいのになんか可哀そう・・・。」
「そこはギブアンドテイクだよ。彼らにはもちろん無理はさせない。それにご飯と安心できる寝床も僕達が用意してあげればいい。」
「そっかー!助けてもらう分、私たちも助けてあげれば問題ないよね!!」
「そうそう。僕達の可愛いたくさんの仲間達を無下に扱う訳にはいかないでしょ。」
「・・・クロって優しいよね!」
優しい?僕が・・・?
そういえば先生も同じこと言ってたな・・・。
――そんな訳ないのに。
「そんな馬鹿な事言ってないでそろそろ僕達も寝よう。明日からは大移動だからね。」
「照れなくていいのにー!!まったく素直じゃないんだから!」
「はぁいはい。おやすみー。」
「もーー・・・・おやすみ!!」
ごろんっと横になる。丁度デザートウルフの枕。素晴らしいモフモフだ。
デザートウルフはちらっと片目だけ開いて再び閉じる。
むず痒い思いをはぐらかして話を切り上げた。
僕は優しくなんかない。優しくしてくれた人の真似をしてるだけだ。今は――。ただ、優しくありたいと思っている事に間違いはない。
でもこれからの旅。優しくもいられない時が来るかもしれない。非道でいなければならない時が来るかもしれない。――そうなったら先生やエルマーに・・・シロに失望されるのだろうか。
起こりもしていない未来を憂いても仕方がない事は分かってる。
こんな事悩むなんて――らしくない。
けど僕は僕で居たい。その時・・・皆は信じてくれるだろうか。
答えなんて出ない。そう分かりきっている疑問を抱えながら睡魔の呼び声に耳を傾ける。
――意識は次第に安寧を受け入れた。




