炎砂の大国:新たな世界
目が眩むほどの眩い光の中、自分が寝転んでいるのか立っているのか・・・はたまた逆さまになっているのか――。
そんな感覚がしばらく続いた後、唐突に開かれた世界。
―――空。――雲。――そして重力!!
落ちている!!
重力方向を確認。かなり高い場所から落ち続けているようだ――。
視界に映るのは砂。砂山。・・・そして遠くの砂嵐。
この高さから何もしないで落ちたら――きっと痛い。多分普通は死ぬ。
付近に人の姿は確認できない。
「それなら・・・――レビテイト。」
唱えると同時に杖に円形の術式が構築される。
直後、ふわっと体が重力から解放される。まぁ端的に言えば空中浮遊の魔術だ。
幸い風のソルは豊富。咄嗟の発動でもちゃんと術式構築まで出来てる。
上出来上出来。最初は心配だから誰にも見られたくなかったんだ。外の世界で勝手が違ったら困るし。しばらく周りを見回しながらゆっくりと降下。地面に足を付いた。
初めて目にする世界に心も自然と高鳴る。
あれ?――そういえばシロとエルマーはどこだろう?
「どいてどいてーーーー!!」
上空からの叫び声。満面の笑顔のシロだ。外套にエルマーもつかまってる。
おいおいまさか――!急いで横に飛び退く。
「でやっ!!!」
シロの声と同時に爆発の様な砂塵が舞う。
げっほげっほ・・・・。外套で顔を覆うつもりが間に合わなかった・・・。飛び込み回避でギリギリだったからな・・・。というか体半分砂に埋まってるよこれ。
「ふぅー!着地成功!!」
「久々にあんな高い所から落ちたなぁ。」
「あの白熱した追いかけっこ以来だね!!」
普通に着地って・・・・。
あのー。何から突っ込んでいいやら・・・。まぁいいか。無になろう。得意になってきた。
「あれー?クロ何してるの??」
半分埋まってる僕をシロが掘り出して抱っこする。まるで赤ちゃんの高い高いをされている形だ。
呆れかえっているのと何か悲しいのと――。ついでに服の隙間に入り込んだ砂を振り落とす。
まったく先生もすごい所に飛ばしてくれたなぁ・・・。まぁ大丈夫だったけど。
結果僕の尊厳は傷つけられた訳だ。
「一足先に僕は降りてたんだよ。・・・そろそろ降ろして。」
「あ、そうだったんだ!さすがクロ!!あの高さから落ちて無事だったんだね!!よかった!」
ストっと地面に立たされる。
無事だったんだね!って・・・こっちのセリフだよ。
短い溜息が漏れる。
「一旦現在地を確認するぞ。マスターの事だからあり得ないとは思うが、設定地点がずれてる可能性もあるからな。」
僕の肩にしゅるりと乗ったエルマー。確かに。今僕たちはどこら辺にいるんだろうか。
早速貰った地図を確認する。シロの頭が横から視線をさえぎる。手で少し避ける。
「いいか。この赤丸が今ボク達が居る所だ。・・・設定地点は大体あってそうだな。」
ここは――炎の精霊≪ガザーリオ≫を主祖とするエンブレイシア≪アルジス≫が統治する国家大陸だ。一年を通して熱帯気候の上、大陸の約4割が砂漠。大陸は広大なものの砂漠地帯が多く、食べ物等の生産系は隣国に頼っている面が目立つ――。
その代わりに傭兵を生業としている者が多く、戦闘のエキスパートと呼ばれる人々も多い・・・だったっけ。まぁ・・・理には適ってるよな。
生産出来ない代わりに他国で安全に生産出来る場所を担保する。商業ルートの開拓や、その安全を保証する。”戦える人達もこの世界の生活には欠かせない”を体現している国家だ。
そして、一部冥属を信仰の対象としている人々も居る。僕にとっては”友好的な存在が多数”居る可能性がある場所だ。先生も色んな事を考慮してここを選んだのだろう。
「ここ、砂漠のどっ真ん中だねぇ・・・。」
「そうだな。まぁ、空から落ちてくる人間を怪しまない奴なんて居ないからな。一番目撃されない場所を選んだんだろう。」
シロとエルマーのやり取りに納得する。近くであんな爆発みたいなの起こってたら誰でも警戒するよね。ここは好都合だ。好都合だけど・・・。
「ここからどこを目指そうか?」
僕の言葉にエルマーが応える。
「ボクはお前らの行き先には基本指図しないぞ。これはお前らの旅だ。お前らが考えて、お前らが歩むんだ。ボクはお守みたいなもんだからな。」
「うん。――確かにそうだね。僕もその方が筋が通ってると思う。」
「師匠の言う通り!行き先は私たちが決めないと!!」
地図とにらめっこ。
砂漠の真ん中。大陸でいうと中央よりやや東に位置している。
セオリーから行けば、アルジスを目指すのが筋だ。エンブレイシアは各大陸で一番の規模。人口を持つ。”世界を見て周る”目的である僕たちは是非とも見ておくべき場所だろう。
今後、別の大陸に渡ることがあったとしても基本的にエンブレイシアは見て周るべきだろうし。
「まずは・・・・エンブレイシアのアルジスを目指そうと思う。・・・シロはどう思う?」
「この大陸で一番おっきい街だよね!見たい見たい!!」
シロも僕の言葉に大賛成。めでたしめでたし。
「でも・・・。」
「でも・・・?」
怪訝な言葉に疑問を返す。
「私たちが居る所ってこの大陸の真ん中よりちょっと右側だよね。」
「そうだね。少し東にある大砂漠のまん真ん中だよ。」
「この地図がどのくらいの大きさなのかわかんないけどすごく遠くない?」
大きさって・・・縮度の事かな。まぁ確かに。アルジスは大陸のやや南西地点。僕達の居る場所からすると結構遠い。
「そうだね。歩けば・・・多分半年くらいでつくんじゃないかな?」
「は、半年!?」
壮絶なリアクションを返すシロ。
「そ、そんなんじゃ干からびちゃうよー!!食べ物も水も一週間分くらいしか用意してないよ!!」
「だから歩いた場合って言ってるでしょ。」
要領を得ない僕の返答にシロがぽけっとする。しばらく考え込むように眉間に指をぐりぐりした。
「歩かないの??」
考えた結果それか!!
――まぁ、半分くらい正解なんだけどね。
「ちゃんと移動方法は考えてあるよ。それに、この大砂漠は大陸の中央付近まででしょ。エンブレイシア以外の町に寄らないとは言ってない。さすがにエンブレイシアに近づくにつれて町や村も見えてくるんじゃないかな?そこで必要な物資はある程度補給すればいい。路銀もいくらか先生が用意してくれたしさ。」
「さっすがクロ!!じゃあそうしよう!」
考えることを放棄したな。
「あーーー!今バカにしたでしょー!!ロノさんとおんっなじ顔してた!!」
「え、い、いやそんな事無いって。考えるのは僕の役目。実行部隊はシロの役目でしょ?」
先生と同じ顔してたって・・・何かヤダ。何度あのニヤニヤにイラっとした事か。
「え!?実行部隊!?・・・・なんかかっこいいー!!」
あ、適当な事言ったのに食いついてくれた。そもそも実行部隊ってなんだろうね。
でもそれでいいよそれで。その方が平和。
「さぁさ、移動手段を確保するために少し歩こう。多分この感じだと近くにあるから。実行部隊長もしっかりついてきてね。」
「私部隊長なんだ!!よーし行こう行こう!!」
なんだろう。これじゃ僕がシロを利用してる悪い奴みたいじゃないか。素直すぎるだろうに・・・。
まぁ嬉しそうだからいいけど。なんか・・・後々誰かに騙されない様に気を付けてあげよう。
深い深い溜息を吐いた。
「やれやれ・・・先が思いやられるな。」
小さく呟いたエルマーは、体にまとわりつく砂を払うように大きく身震いしてからクロの外套の中に潜り込んだ。




