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屍霊術師ーネクロムー  作者: ELL
0. 序章 プロローグ
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プロローグ:思考の辿り着く先



何にもない空間だった。

目を開いても閉じても同じ様な景色が広がっていた。

目を開けると眠っているようなランタンが一つ。こっそりと辺りを照らしている。

ただそれだけの違い。

薄い明りに照らされた鬱陶しい黒髪。存分に塗りたくられた目の隈。簡素な革素材のズボン。傷んだ上着。この寒さでは屋内でも自然と体は震える。

昔は綺麗な顔をしていると言われた気もするが、そんな記憶もとうに風化を遂げている。

永い事荒んだ状況にある自分の顔など、誰が好んで確認するのだろうか。

何故。そんな理由はわかる筈もない。黴びた臭いと、このランタンだけが無と有の境界線を明確に揺らしていた。


ガララ・・・ザリ・・・・ザリ・・・


固い物体が擦れ合う無数の音が外から響く。もう聞き飽きた。

何年が経つだろう。隠れて、壊して、殺して。また独りで膝を抱える。

溜息を吐く気にすらならない。

腰にぶら提げたナイフに手をかけつつ、隠家にしていた廃墟を出る。廃屋が連なる通りを耳障りな音に従って歩くと、間もなく開けた場所に出た。

そこでは、頭蓋骨を剥き出しにした人間や腐った体をした人間が重そうに体を引き摺っている。

数は十や二十ではきかないようだが、相手方の標的はいつも通り。

僕の姿を確認するなり、携えた鉄片のようなものや爪、あるいは欠けた歯をも使って殺そうとしてくる。


「うんざりだ――。」


声を発したのかも分からない程に呟いた。


「・・・もう消えてしまおうか。」


廃墟に戻り、何万回と反芻した思考に陥る。何故この街から出る事が出来ないのか。

何故まだ生きているのか。何故死んだ人間は僕を殺そうとするのか。

いっそ、数えきれない程に殺してきた死んだ人間に殺されてやる方が良いのだろうか。

答えを持ち合わせていない問題ばかりが浮かんでは消えてくれない。

何も考えたくない。

考えたくない。


無意識に手にしたナイフの切っ先が喉に触れる。

ナイフから漂う死臭が鼻をついた。


「・・・・・・・・。」


手が震え、枯れた涙が呼ぶ感覚がする。幸せだった記憶が無いわけじゃない。

父さんも母さんも僕を愛してくれた。

母さんの作るご飯の味。父さんが遊んでくれた楽しい記憶。幸せだった。


今なら。


ナイフに力が籠り、一突きで喉を食い破った。

痛みか熱さか判別出来ない。

ナイフを引き抜き、その場に捨てた。倒れこみ、膝を抱えようとするが力が入らない。

薄明りを灯していたランタンの火がふっと消える。

流れ出る血が首に、肩に、顔に、耳に。生きていた証を残すように温もりを広げる。

ゆっくりと瞳を閉じた。

もう何も考えなくて済む。


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