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誓い

「叫んでしまってすまなかった。本当に、お世辞じゃない。いまのきみが、本来のきみなんだ。きみは、平民の母上の娘という負い目があって、その母上が死んでからは、継母や異母姉に虐げられてきた。婚約者もきみを蔑み、バカにしていた。そういう負の要素が、本来のきみを封印してしまったにちがいない。それがここに来て、知らず知らずの内に封印が解かれてしまった。美しくなったのはきみ自身の努力もあるけれど、それが本来のきみだからだ」


 皇子殿下の手が、テーブル越しに伸びてきた。


「もっとも、わたしはカオリ・バルテン自身を愛している。いまの容姿や性格だろうと、前の容姿や性格だろうと関係はない。カオリ。「クルーガーの三つ星」なんだけど、じつはわたしはその星の一つにすぎないんだ」

「ということは、あと二つの星があるということですね」

「そういうわけ。一つは、きみだ」

「わたし?」

「そう。そして、最後の一つは、きみとぼくの子どもだ」


 皇子殿下の言葉の意味を理解するまでに、しばらく時間がかかってしまった。


 理解した瞬間、顔と心と頭の中が熱くなってしまった。


「わたしたち親子がそろってはじめて、「クルーガーの三つ星」となる。最初のときは、きみにプレッシャーをかけたくなかったので告げなかったんだけど、「クルーガーの三つ星」の出現は、この国に受難がふりかかるときなんだ」

「そ、そんな……。なにか悪いことが起こると?」

「残念ながら、それがなにかまではわからない。そもそも、それに関しては神託が下されないからだ」

「なんとなく、わかりました。その受難を、「クルーガーの三つ星」がどうにかするというわけですね」

「ご明察」


 なんだか急に使命感というか正義感というか、そういうものがムクムクとわいてきた。

 でも、同時にちがうなにかも心の中をおおきくしめている。


「皇子殿下は、使命感からわたしを正妃にされたいとおっしゃっているんでしょうか」

「たしかに、わたしは「クルーガーの三つ星」としての運命さだめを背負い、使命を受けている。きみも同様だ。だから、わたしたちは夫婦にならなければならない宿命だ。だけど、わたしは「クルーガーの三つ星」である以前に一人の人だ。運命さだめをおしつけられていても、愛してもいないレディと寄り添うことはしたくない。だが、幸運なことにその相手がきみだった。ここ数週間で、わたしの想いはより強固なものになった。最初に街できみをみたときに心を打たれたのは、間違いでも気のせいでもなかったわけだ」


 やさしく握られている手は、あたたかさと安らぎをあたえてくれる。


「もちろん、きみも一人の人だ。だから、わたしのことが気に入らなければ、それはそれでいい。さっきはカッコいいことを言ってしまったけど、わたしたちはそんな運命さだめにとらわれるべきではない。もしもきみが、すこしでもわたしという一人の男に興味があって、いっしょに歩んでくれると言うなら、わたしはこのままきみを全力で愛し、守ることを誓うつもりだ」


 もったいなさすぎる言葉である。

 わたしにそんな権利があるのかしら、と恐縮してしまう。


 だけど、わたしも皇子殿下に負けないだけの想いがある。


 最初に出会ったときに心打たれ、いっしょにすごすときを重ねるごとに、その想いが深く強くなってゆく。


 安らぎと愛を教えてくれ、あたえてくれた。


「皇子殿下、わたしもあなたに誓いたいことがあります」


 ローマンを立会人にし、皇子殿下とわたしはこの穏やかな日の午後、誓いを立て合った。


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