慈善活動
その日から、これまでの人生の中で、穏やかな毎日をすごしている。
愛とやさしさに満ち溢れ、尊敬と思いやりに包まれている。
皇子殿下はわたしを全力で愛してくれているし、ローマンは全力で甘やかしてくれる。
最初は戸惑っていたけれども、じきに慣れてきた。慣れるにつれ、この愛に応えるためには、わたしもそれなりのレディにならなければ、と決意をあらたにする。
森の中を歩きまわり、いっしょに農作物を育て、大工仕事も積極的にこなし、屋敷中を隅から隅まで磨き上げた。
継母と異母姉から嫌味を言われたりいやがらせをされると、食べて食べて食べまくってストレスを発散していた。が、ここではいっさいのストレスがない。
不思議と食べる量が減っていった。
胸がいっぱいということもある。
家事や農作業の合間に、三人でお茶を飲みながらおしゃべりをしたり読書をする。
しあわせすぎて怖いくらいである。
いつか、「やはり、きみは思っているレディとはちがうようだ。ここから出て行ってくれ」なんて言われてほっぽりだされるのではないか……。
この世のものとは思えない美形を見ながら、ふとそんな不安に襲われてしまう。
生活が激変した後も、秘密の地下道を通っては街に出て、慈善活動を続けている。
もちろん三人で、である。
街の人たちは皇子殿下を見、その美しさに心を打たれたり、涙を流したり、祈りの言葉をつぶやいたりしている。
それから、わたしとどういう関係なのかを問う。
じつは、お母様は平民のままで通されていた。だから、わたしもそのようにしている。
「ご主人様なんですよ」
笑って答える。
「メイドをさせていただいていて。ご主人様は、こういう活動に興味を持たれているのです」
メイドのことは抜きにしても、あとのことは嘘ではない。
それから、「痩せた?」とか「きれいになったね」とかきかれたり言われたりする。そして、「もしかして、ご主人様に恋でもしたのか」とか、「恋をしたら、人はきれいになるからね」と言ってからかわれる。
ということは、毎日体を動かしているから効果がでてきたのかしらね。
ちょっとうれしくなる。
一方で、皇子殿下はにこやかにされているけれど、わたしがメイドと言ったことがちょっぴり不満だったようである。
「せめて婚約者と紹介してもらいたかったな」
彼は、そう言ってすねた。
美しさも、こういう仕草は可愛らしいという感じになるのね。
思わず、クスクスと笑ってしまった。
そして、あっという間に数週間が経ってしまった。
本当にあっという間であった。
そんなある日、ローマンが皇宮に行ってきた。
テラスでお茶を飲みはじめると、皇子殿下が一枚の手紙を卓上に置いた。