神託
まだ興奮と混乱が覚めないでいる。
それでも、お腹の虫だけは主張を忘れていないみたい。
彼に抱きかかえられた状態で、『グーグー』と盛大に鳴りはじめてしまった。
神々しい彼の顔に、やわらかい笑みが浮かんでいる。
「カオリ、まずは腹ごしらえをした方がいいね」
「あ、いえ、も、申し訳ありません」
穴があったら入りたい、なんてものじゃない。
初対面でいきなりこれなんですもの。
第一皇子のときにはまったくといっていいほど感じなかったのに、いまはドキドキとキュンキュンが止まらない。
ローマンがすぐに食事の準備をしてくれた。
焼きたてのパン。お肉がホロホロと崩れてしまうほど煮込んだシチュー。ちょっぴり酸味のあるドレッシングがかかっているサラダ。外はサクッサクの生地で中は甘酸っぱいベリーがいっぱい詰まっているベリーパイ。気分の落ち着くシナモンティー。
ドキドキとキュンキュンはひとまず棚の上に置いて、それらを無心にいただいた。
どれも美味しすぎる。
ついついおかわりまでしてしまった。
人心地ついたところで、居間に戻った。
あらためて、彼と話をすることに……。
彼は、百年に一度あらわれるかあらわれないかの「クルーガーの三つ星」、という存在らしい。
現皇帝とは何の関係もない、辺境の地を統べる領主の子として生を受けたという。
神託でその存在を知った皇帝は、使用人とのお手つきの子であるとして彼を迎えた。皇帝の血を少しでも継いでいるとの体裁のためである。
「クルーガーの三つ星」は、皇帝になる運命を担っていて、しかもこのクルーガー皇国をより繫栄させる皇帝なのだそう。
が、兄皇子たちはそれをいいように思うわけもない。いくら「クルーガーの三つ星」とはいえ、それで納得するほど無欲でも物分かりがいいわけでもない。
ニ十歳になれば、皇太子になれる。それまで、彼自身を守るため、一人別の場所で養育されている。
それがこの森の中の屋敷であり、養育係がローマンというわけ。
ローマンもまた、神託によって選ばれた類稀なる賢者だという。
お話にでてくるようなその話を、お腹がいっぱいになった副産物である睡魔と戦いながらきいている。
話の続きは、まだあるみたい。