美形?
「殿下、カオリ・バルテン公爵令嬢がいらっしゃいました」
「どうぞ」
返ってきたたった一言は、心地の良い低めの声。
どんな人なのかしら?
頭の中に浮かんでいるのは、お話にでてくるゴブリンとかゴーレムとか、そんなおどろおどろしくていかつい感じの男性。というよりかは、怪物。
「カオリ様、どうぞ」
ローマンがドアを開けると、室内から光があふれだしてきた。
一歩一歩、慎重に進む。
怖いもの見たさ、というものもある。
ま、まぶしい。部屋のなかは、光で満ちている。
陽光が、大きなガラス窓から射しこんでいるのかしら。
「はじめまして、カオリ・バルテン公爵令嬢。わたしは、ハンス・アインハルトです。あなたと会えるのを、ずっとずっと心待ちにしていました」
スラッとした人影が、わたしの前に立った。
逆光で彼の姿がよく見えない。
すると、彼はすこし前屈みになった。わたしの手を取ると、そこに口づけをする。
こんなこと、めったにないことだから、どぎまぎしてしまった。
って『心待ちにしていた』、ですって?
彼が姿勢を正すころには、わたしの目は大分と光に慣れてきた。
な、なにこれ?
彼の姿を見た瞬間、そのあまりのすごさに目がくらんでフラッときてしまった。
「大丈夫ですか?」
それに気がついた彼が、すぐにわたしの背に手をまわして抱きとめてくれた。
ダメ。顔が近すぎる。
こんなの無理。無理すぎる。
すぐ間近にある彼の顔は、この世のものとは思えぬほどの美形なのである。