元婚約者は勘違い野郎
「ほう、だれだ?」
わたしたちに気がついたのか、元婚約者である第一皇子が近づいてきた。もちろん、異母姉も継母もくっついてきているけど、二人ともその目は皇子殿下に釘づけになっている。
「見かけない顔だな。まぁまぁの容姿だが、まっ、わたしほどではないな。おっと、ずいぶんと美しいレディを連れているじゃないか。レディ、わたしは第一皇子のローマン・アインハルト。本日の主役だ。ちょっと顔がいいだけのうだつの上がらぬ貴族子息より、わたしのほうがずっと優良株だよ。どうだい、今度いっしょに異国の酒でも飲まないかい?」
バカ?バカなの?
いきなり誘う?
しかも、おでぶで都合のいい女を?
「遊ぶのでしたら、こっちの美形がいいわ。そっちがそういうつもりなら、わたしも遊ばせてもらいます。どうかしら、美形さん?ミステリアスな一夜をすごさない?」
バカ?バカなの?
異母姉、あなた自身がミステリアスな思考力すぎるわ
そのとき、侍従長が皇帝陛下のお成りを告げた。
全員が礼をとる中、陛下は大広間に設えられている玉座につかれた。
「急にもかかわらず、集ってくれたことに感謝する。とはいえ、当人の意向で堅苦しい形式ではなく、発表だけし、あとはパーティーを楽しんでほしい」
陛下は、まだそんなに年ではない。
明るく気さくで公平な皇帝として、あらゆる人々に尊敬されている。
「わたしの代に「クルーガーの三つ星」があらわれた。ということは三つの星が揃う将来、この国に災いが降りかかる。が、案ずるな。その災厄を祓うのが「クルーガーの三つ星」であるからな」
陛下の説明に、大広間にいるあらゆる人々が様々な反応を示している。
当然よね。
「「クルーガーの三つ星」?」
すぐ近くで、元婚約者が叫んだ。
当惑している。
おおよそ、自分がそうだったのか、とさらなる勘違いをしつつあるんじゃないかしら?
「わたしが?そうだったのか……」
さらなるつぶやきで、わたしの勘があたっていることがわかった。
「というわけで、「クルーガーの三つ星」こそが、次代の皇帝となる。その準備期間として、今宵皇太子になる息子を紹介しよう」
皇帝陛下が立ち上がられた。
すると、当惑しつつ元婚約者が陛下に近づこうとするじゃない。
近衛兵たちが動こうとしている。
「んんんん?なんだ?」
「父上、ご紹介にあずかるということですので」
「なにゆえだ?」
「第一皇子であるわたしこそが、「クルーガーの三つ星」なのでございましょう?」
「なに、おまえが?おいおい、寝言は寝て申すものだ。立場を利用して貴族子女と遊ぶことしか能のないおまえが?わが国のことどころか、皇宮内のささいな出来事すら興味のない愚か者が?」
国王陛下は、辛辣な言葉をたたきつけられた。
「はあ?それこそ大切なことでございます。貴族の噂、どこの家が勢いがあるとか、身をもって調べているわけです」
「はあ?」
国王陛下は、おなじように返された。
「いつかはまともになり、「クルーガーの三つ星」の助けになるやもしれぬと放置しておったが……。わたしが浅はかであった。おまえのことだけが、わたしの唯一の失敗だ。もういい。おまえの処遇は、「クルーガーの三つ星」に一任しよう。そこをどけ。邪魔だ」
「父上、父上、なにをおっしゃって……」
「近衛兵っ!こやつを下がらせよ」
元婚約者は、二人の屈強な近衛兵に抱えられ、国王陛下の御前から引き摺り下ろされてしまった。




