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婚約破棄だよ、オッケー?

「ああ、きみとは婚約破棄だ。オーケイ?」


 第一皇子に、さらっと婚約破棄宣言をされてしまった。


 ええ。最初からわかっていた。


「きみは隠れ蓑さ。ほら、ぼくってば美形だろ?控えめに言ってもモテるんだ。それで、ちゃんとした婚約者を見つけるまでに、いろんな意味で相性の合うレディを見つけたい。その為には、一応婚約者がいる体にしておかないと、父上や官僚たちがうるさいからね。それには、きみなんかぴったりだ。おとなしくって理解力があって、なにより、ぼくの好みじゃない。ぽっちゃり系なんて、生理的に無理だからね。まっ、きみはきみでテキトーに遊べばいい。もっとも、遊んでくれるジェントルマンがいればの話だが。公式の場では、きみを伴わなきゃならない。そのときだけ、呼ぶからさ。あぁもちろん、そのときにはかならず間隔を空けて立ってくれよ」


 初対面でそう命じられた。


 緊張と淡い期待は、その一瞬で絶望とあきらめに変わった。


 それはそうよね。


 それ以降、わたしは都合のいいお飾りだった。


 だから、その日、婚約を破棄されてもたいしてショックではなかった。


 それよりも、そのつぎの言葉の方がショックだった。


「ああ、そんな顔をするなよ。大丈夫。ちゃんと代わりは準備しているからね。第十皇子だ。「呪いの獣」と言った方がわかりやすいかな?この皇宮にある森の奥にいるんだ。きみになら、彼がぴったりだ。おっと、時間だ。正式に決まった婚約者と会う約束をしているからね。ああ、そうだ。ちなみに、その正式な婚約者は、きみの異母姉だから」


 わたしのことなど顧みることなく、彼は去ってしまった。



 第十皇子は、皇族が悪しき精霊を怒らせたということで、呪いをかけられたらしい。


 その姿は醜く、性格は荒々しく、まるで野獣のらしい。


 だから、「呪いの獣」と呼ばれている。


 そんな容姿だから、だれもその姿を見たことはない。皇宮の森の奥深くに封印されているという。


 そんな怖ろしい人の婚約者に?


 婚約破棄をされるのは仕方がないにしても、どうしてそんな「呪いの獣」をおしつけるわけ?


 一瞬、なかったことにしようかと思った。きかなかったことにしようかと思った。


 だけど、バルテン家の屋敷は、継母と異母姉に乗っ取られているようなもの。


 これまではまだ、第一皇子と婚約をしているということで、なんとかわたし自身の存在価値はあった。だけど、異母姉に婚約者の権利が移ったのだったら、わたしに存在価値はなくなってしまった。


 屋敷を放り出されてしまう。

 はやい話が、わたしには帰るべき場所がなくなった。


 亡くなったお父様を恨むのは間違っているけれど、再婚の相手はもうちょっと慎重に選んでほしかった。


 皇宮から屋敷に戻ったら、継母が勝手に荷物をまとめて門のところにでも置いているかもしれない。


 あの継母なら、平気でするはず。


 だったら、いっそこの足で行ってしまおうかしら?


 いくら獣でも、わたしを食べてしまうなんてことはないはず、よね?


 いずれにしろ、わたしには何もない。すべてを失ってしまった。


 このまま行っちゃえ。


 森のある方角を見てみた。


 一歩を踏み出そうとして、はたと気がついた。


 いくらなんでも、着替えや下着もなしで行くのはまずいわよね。


 思い直し、いったん屋敷に戻ることにした。


 予想通り、門の脇に古めかしいトランクとメッセージカードが置いてあった。


『バルテン公爵家は、わたしたちが立派に盛り立てます。だから、あなたはどこへなりとも行ってちょうだい』


 継母の直筆なのかしら?

 彼女の字を見たことがないからわからない。


 まっ、荷づくりする手間が省けたし、継母の顔を見ずにすんだ。彼女から、嫌味を言われるという苦行を免れた。


 トランクをひっつかむと、皇宮へと戻りはじめた。


 そのとき、邸内から馬車がでてきた。慌てて歩道に退避した。


 皇家の紋章が入っている。


 元婚約者が、新しい婚約者である異母姉を迎えに来たわけね。


 すぐ横を通りすぎて行った。


 窓から、二人の姿が見えた。


 元婚約者の顔には下心が貼り付いているし、異母姉のそれには打算がにじみでている。


 似た者どうしね。どうかおしあわせに。


 走り去る馬車を見ながら、ぜったいに破局を迎えるであろう二人のしあわせを祈った。


 そして、てくてくとあるいて皇宮へ向かった。


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