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見回り隊小次郎と白猫の環

 俺の名前は小次郎。

見回り隊でもどちらかと言えば古参に入る、地域を守ろうと奮闘している黒猫だ。


 ここ一ヶ月ほどは中規模の数での衝突や迷子等の事件が多くなってきている。

 更に解決にも時間のかかるものが多くなってきているとこのとで、朝ペアの環と見回りをして確実に問題を解決するようにと連絡が来たようだ。

期間は一ヶ月ほど、問題が減らなければ他の手を使うとかなんとかって話のようだ。

 確かにここ数ヶ月は少しヤンチャなのがちょっとだけ増えてきた気もするがペア組んでまで必要なのか?


 だが考えとは反対に妙に胸騒ぎがする。

これはなんだ?


「まさかペアで見回りとはなー」

「それくらい今の状態が不味いということでしょう?」

「ホントなのかねー……」


 ただ、急に増えたのなら何か良くない事が起こる前触れなのかもしれない。気の所為だと思うには胸騒ぎがしすぎる。

 ただの直感だからこの違和感を信用しても良いのだろうかも分からん。


「小次郎はペアは嫌だった?」

「嫌ではないが、今のところ何も無いからな。本当に必要なのかってやつだよ」


 さて、せめて早めにこの違和感の正体に当たりますように。







 確かにここニ週間、やけに小規模の問題が多い気がする。喧嘩や物を壊す、ゴミ箱を荒らす等を度々目撃するようになった。

 俺達は見回りルートの範囲内で、こういった問題を片付けていく。とは言っても、ふたりで回ればそこまで難しくもない。

 次は他の地域の現状の把握だ。


 実は数ヶ月前に、他の地域の見回り隊のメンバーが年齢を理由に数ペアほど引退してしまっている。それが関係があるのか、見回りが行き届いてない場所から荒れてきているように感じる。

 つまり猫不足が原因なのだろう。

新規メンバーを集めるしかないか?


 そして荒れてるのは猫だけではないようだ。

 普段に比べ妙に苛立ちを見せる人間がいる気がする。八つ当たりでゴミ箱を蹴る、人に怒鳴る、動物を追いかけ回す。

 今までもたまに見かけていたが、最近は少し多いような気もする。


 何が起こってるんだ?











「また猫だ! やはりここは封鎖すべきでは?」


 馬鹿でかい声が遠くから聞こえる。

俺は環と目配せし、素早く忍び寄った。


「ですがここのオーナーはこの通路は空けておくようにと」

「だが猫だぞ? 汚いと思われたら客入りも悪くなるじゃないか!」


 なるほど。見回り隊のルートがちょうどその店の隣らしい。

見回り隊なら汚すなんて事はしないが、もしかすると野良猫の可能性もあるか。

だが伝える手段が無い。

さてどうしたものか?


「この人たちなんて言ってるのかしら? 猫とか汚いとか、わたし達のことだと思うんだけど聞き取りにくくて……」

「よく分からんがここは見回り隊のルートのひとつだ。人間にとったら毎回うろつかれるのも困るってやつだろう、きっとな。逆に考えてみると良い。俺達の集会に人間達が毎回来たらどう思う?」

「なるほど! 確かにわたし達の集会に毎回人間達が来たら困るものね」


 やはり環はある程度しか人間の言葉を理解できないようだ。頭の良さは変わらないと思ってる。

では何が違うのか、だが何か違うことは確かだ。これも探りを入れないとな。


「つまり、ここを通る猫に聞くのが早いって事だな」

「そうね。あれ? ここって確かこの前に年齢で引退した猫さんのルートじゃないかしら?」

「そういえばそんな話を聞いた気がするかもしれん」


そこそこ前の月一会議で聞いたような聞いてないような?


「だったらもしここを荒らしている者が居るとすれば、一般猫か他の生き物よ」


 それなら犯行現場を抑える必要があるだろう。

これは思ったより時間がかかりそうだ。








 次の日から環とまた同じ店を観察しに行ってみる。実際に野良猫とやらが汚しているとなると話し合いでの解決策も出てくるだろう。


「うーん。たまに野良猫が通るくらいで、汚して歩いては無さそうね」

「つまり他の場所で何かあるんだろう。じゃないとあそこまで怒ったりはしないはずだ」


 あと汚れそうな所と言えばあそこだろう。




「これはカラスね」

「他にも荒らしてそうなのがいるっぽいな」


 予想通り店の裏にはゴミ置き場があった。

さっきの場所からでも薄っすらと臭いがしていたが、ここまで来るとはっきり分かる。


 ビニール袋をポイポイと投げ入れて蓋は閉めなかったのだろう。

中はぐちゃぐちゃ、外にも転がって中身が出ているものばかり。

おまけに小さいゴミ箱は転けて中身が半分くらい出ている。


「これを猫のせいだってあの人は言ってるの?」

「そうみたいだな。ここを襲ってる連中は頭が良いのか、きっと夜中の人の居ない時間に来ているんだろう。そのせいで見かける猫に目が行って犯人にされてしまったって訳か……」

「うぅ…… どうにかならない? 例えばカラスを捕まえて置いておくとか!」

「それを狩れる相手ってことで余計に猫が怪しまれるだろうよ」

「……そうよね」


 こういう時に人間と話せない種族の壁というものが腹立たしい。


「もしかすると猫も荒らしているかもしれん。ひとまず張り込んで犯人探しだな」





 こうして一週間ほど張り込んでみることになった。

結論としては、猫は関わってなさそうだ。


 荒らしているのはネズミとカラスの二種類。

ここのゴミ箱はザル警備だからとみんな集まってくるらしい。夜中にネズミ達が大量に現れたのは流石に驚いた。

 それにカタコトでゴハンゴハンとうるさくて参ったし、散々だ。

 朝方にはネズミは帰り、カラスがやってくる。彼らはネズミの取れない所の袋を引っ張り出して開けていくのがルーティーンなようだ。バレないよう殆ど声も出さない所に頭の良さを感じる。

 言葉は分からないが、我々猫と変わらない頭があるようだ。


「やっぱりネズミとカラスだったのね」

「この数は流石に想定外だ。ふたりじゃどうにもならん」

「増援を呼んでどうにかなりそうでもないわね。けどあのゴミ箱があのままな限り、いつか冤罪で猫にも被害が出る可能性があるわ」

「長老に連絡して聞いてみるか。とりあえず俺達ができるのはここまでだな」


 ここまでなってくるとどうしようもない。


 俺と環は急いで我が地域唯一の神社、古根(ふるね)神社に行き、いつも寝転んでいる長老に調査内容を説明することになった。


 そして長老は一言「暫し待て」と。



 え?









“ゆるさん”






 待てと言われて仕方なく待っていると、事態は急展開を迎えることになった。

 まさかまさかの閉店である。


 どうにも前々から何かがその店のゴミ捨て場を荒らしていたようで、近所から臭いのクレームが続いていたようだ。

その対策として猫をという話だったようだ。

 だが、そこからその店の衛生面や品質管理等がボロボロと出てきてあえなく閉店となったらしい。

 更に見回り隊の増員は近々募集をかけて派遣されるらしい。

 ここの治安も時期に良くなるだろう。


 けど、本当にそんなタイミング良く店が潰れるのだろうか?

長老の「暫し待て」は、この事を知っていたのか?

 きっとまだまだ何か得体の知れない大きなものが底にあるような気がした。

読んでいただきありがとうございます。

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