見回り隊小次郎と遠くからの来訪者
俺は小次郎。
見回り隊に配属され、日々猫と人の為に地域を見守る猫である。最近では猫同士の揉め事解決にも力を入れている所だ。
今日は環から不思議な話を聞いた。
なぜかこっちの言葉を理解せず、しかもよく分からない言葉を使う猫がいるらしいと、ここ数日ほど一部で噂になっているらしい。
「寝ぼけてるかマタタビの吸い過ぎが原因じゃないのか?」
「それがどうも違うみたいなの」
環が言うには、まるでこちらの言葉が理解できないような所作をし、話し方も不思議な感じらしい。
確かに妙だし不思議だというの気になる。
「なるほどな。ならその猫の飼い主が外国人ってことは無いか? そしたら本猫も外国語になる可能性もあるかもしれないだろ?」
「それが飼い主さんは日本人なの。噂によると遠い県からこの地域に引っ越してきたらしいわ」
「もしかすると方言か何かで伝わらない可能性もあるか。よし、見かけたらコンタクトを取ってみる。その猫の外見は?」
「すらっとして青にも見えるような黒猫そうよ」
さて、噂の猫が何か大きなトラブルを起こす前に探してみるか。一応これでもベテランではある。もしかすると知っている方言かもしれないしな。
その一週間後、ようやく噂の黒猫に出会うことができた。
川でも魚の獲りやすい場所を見つけたようで、二匹ほど獲っている。上手いな。
「こんにちは、俺は小次郎。この辺で見回りをしている猫だ。君は最近引っ越してきたらしいけど不便は無いかい?」
まずはフレンドリーにいく作戦でいこう。
魚を取らないという意思表示でチョコンと座って話しかける。
「サカナ、アゲナイ」
なるほど。これは確かに癖の強い話し方だ。
「魚を奪いにきた訳じゃないんだ。この地域には猫同士で助け合う集まりがある。引っ越ししてきたと聞いて、そういった互助組織があることを知って欲しかったんだ。」
「オレ、ナワバリ、ホシイ」
「ナワバリは匂いで空いてるところを探してくれ。どうしてももっと広い所が欲しいなら一対一の正々堂々と決闘で決めるのがルールだ。」
「ワカッタ」
「ああ、ありがとう。ちなみに君の名前は?」
「クロロン」
「そうか、ありがとうクロロン。何かあれば俺を頼ってくれ」
こうして拍子抜けと言ってしまうとアレだが、なんの問題も無く問題も起こらず解決してしまった。
じゃあ他の猫が言ってた意思疎通ができないって何だ?
「え? あの猫の言葉を聞き取れたの?」
次の日、環も同じくあの猫クロロンと会ったらしい。
だが意思疎通は失敗。何を言っているのかさっぱりだったようだ。
俺が思っていたより遠くから来ていたらしい。完全に失策だ。
「もしかすると遠くの方言だったのかもなー」
「それで、たまたまあなたは知っていたってこと?」
「前に耳にしてね」
思ってるよりまともに聞き取れないらしい。
今の自分だとどこまで聞き取れるか分からんからこういう時は厄介だ。
「誤魔化すの下手くそなのは相変わらずね。嘘をつく時に尻尾が左に傾く癖は直した方が良いと思うわ」
「ゔっ?」
「嘘よ。でも何か隠してるんでしょ? 話せるタイミングが来たら教えてよね」
まさか自分のヘマでバレるとは思わなかったと言うべきか、誤魔化したのを追求されなくて良かったと言うべきか。
だがどちらにしても環には感謝だ。
これは早くまたクロロンに会わなければ。
思った以上に通じてなかったらしい。
甘く見過ぎた、このままでは不味いことになりそうだ。
“猫に幸あれ”
次の日、俺と環は見回りを休んでクロロン探しに絞って行動した。これは放っておくとろくな事が無さそうだからな。
俺は昨日のあいつの匂いを思い出しながら、うっすら匂いがする気がする方へ早足で進んで行く。
すると徐々に住宅街の方に近付いて行く。
どうやらこの近くに住んでいるのかもしれない。
「匂いなんてしないのによく分かるわね」
「薄っすらとだが匂いがするんだ。会ったばかりだから分かりやすいのかもな」
話しているうちに大きな庭付きの家に到着した。
なんとなくここだろうという感覚がある。
「ひとまず庭を確認してみるか。もしかするとこっちの匂いで出てくるかもしれん」
裏庭を見ると、丸い石を敷き詰めて木を植えてある綺麗に整備された所だった。
最近引っ越ししてきたからなのか全体的に新しい。
そんな庭の日の当たる所にあいつは寝転んでいた。
「久しぶりだな、クロロン」
「ひさしぶりだ」
前より発音が良くなっている。
これならこの地域で暮らせるだろう。
「こ、こんにちは。わたしは環よ。」
「たまき、おぼえた」
「小次郎、この猫さんは環って言ってる?」
「たまきの名前を覚えたってさ」
まだ完全には馴染んでなかったか。
だが馴染んでないなら鳴き声を思い出すだけだ。
「環、落ち着いてゆっくり聞いてみるんだ。案外聞き取れるかもしれんぞ?」
「そんなこと……」
「おれ、クロロン。このにわのボス」
「んー…….あ、このお庭のボスって言ってる?」
「そうだ、やっぱり聞き取れるじゃないか」
「そうね、先入観なのかしら?」
この会話で急激に耳が思い出したなんて理解できんだろう。
今まで似たような事があったが、頑張って会話をすると思い出せるのは体験済みだ。
何故鳴き声を忘れて言葉を覚えるのかは未だにわからない。
「じゃあなクロロン。この地域は色々と面倒なルールがあるが、困ったら俺を頼ると良い」
「ありがと、こじろー」
こうして、この外国猫騒ぎは決着となった。
今後はたぶん他の猫も聞き取れるようになるだろう。
そしてこの地域の特殊性、つまり『この地域の猫は言語を使い、鳴き声を忘れる』という事が完全に露見する前に収束させる事ができたのだった。
「ねぇ小次郎、今回は誤魔化されてあげるね。それと、秘密ってひとりよりふたりのほうが気が楽になると思わない?」
「どうだろうな」
俺個人としては環を信用している。
長年の見回り隊の相棒としても信用している。
だからこそ、何かあった時に何も知らない有能な猫がいて欲しいというのはわがままだろうか?
読んでいただきありがとうございます。
良ければ感想やブクマ、下の星をポチりなどなどお願いします。