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見回り隊小次郎と子猫のくろまめ(後編)

前話の後編となります。

まだの方は前編からお願いします。

 飛んでは逃げられ、飛んでは逃げられ。

そうしているうちに日も暮れてきたようだ。

そろそろ切り上げるか。


「おつかれさん。今日はここまでだ。」

「まだやれるよ!」

「帰るまでが狩りだ。獲物を取っても、家まで体力を残さないとな。もし何かあった時に対処ができなくなるだろう?」


 そう、何があるか分からない以上、体力は残しておくべきなんだ。


「何かって?」

「例えば獲物を横取りされるとか、そもそも運ぶのも体力が必要になってくる。自身の体力を理解するのも狩りに必要なものだ。」

「へー」


 こうして一日目は終わった。何か引っかかるもやもやを抱えながら。









 二日目、今回もトカゲを狙っていく。

くろまめの目も鼻も高水準だと俺は思っている。ならば原因は別の所にある筈だ。


「今日もトカゲを狙う。今回は後ろから俺が見てるが気にするな」

「わかった!」


 さて、今の所は特に問題は無い。

くろまめはすぐにトカゲを見つけ、射程圏内に収める。

そして飛び掛かった。


「あっ……」


 またしても空振り。

だがこちらは手応え有りだ。問題がはっきり見えた。


「くろまめ、左足はどうした?」

「え?」

「右と左で力の入れ方が少し違う。だからズレて獲物を逃しているんだ」

「でも怪我なんてしてないよ?」


 怪我をしてないとなると、可能性は幾つかに絞られる。

 まずはひとつの可能性として、元々の骨格がそうなっている場合。

これは鍛えて調整するしかない。


 そしてもうひとつ。

その可能性に関係のあるものを見る。

つまり母親のチョコさん。

ちょうど怪我の位置も左足、もしこれを見て育ってきたのなら、癖で力の入れ方を真似ている可能性がある。



「よし、くろまめ。次は左足に力を入れる意識をしながら飛びかかるんだ」

「う、うん」


 良く分かってないようだが、とりあえず理解はしたようで再挑戦を始めた。

草むらに入って数分後にまたしてもトカゲを見つける。

構え、そして今度は左に力を入れて飛びかかる。


「取れた!!」


 若干力み過ぎた感じはするが、前よりズレは少なく飛びかかり見事にトカゲを捕まえたようだ。


「やったよ小次郎さん!」

「まて!」



 妙な音を一瞬聞いた俺はくろまめの背後まで走り抜け、そして……


「そこだ!」


 くろまめを狙う捕食者を音も無く刈り取る。

子猫なら狙い易いとタイミングを見計らっていたのだろう。

俺も少し離れていたから舐めていたな?


「え?」

「こういうことだ。狩りをするという事は狩られる側にも立つ可能性もある。体力を残すのはそういった意味もあるんだ」


 仕留めた蛇を目の前に置いてやる。

俺からしてもまあまあ大きい。

 こいつからしたらこんな大きな生き物が近くで息を潜めていたなんて恐怖そのものだろう。

案の定、ゆっくり理解し始めたのか顔は青くなって震えている。

俺は動けないくろまめを咥えてチョコさんに預けた。

思ったより応えたらしい。

ぴーぴー泣いてるが、これが自然だからな。


 こうして、最後に恐怖体験して動けなくなってしまった子猫のくろまめの今日の修行は終了だ。

一時間程して青い顔がマシになってきた頃、とりあえず動けるようになった事を確認してこの日は解散となった。


 これからどうするかはあいつ次第だ。








 三日目、まさかのケロッとした顔で来たくろまめとチョコさん。

思ってた以上にタフらしい。


「今日の狩りは何をするの?」


 俺を見つけて走ってくるくろまめ。

前に感じた違和感は左足の力の入れ方だったと気付いた今、彼はぎこちないながらも均等に力を入れながら走ってくる。


たぶん帰った後にみっちり扱かれたのだろう。


「今日はだな」

「うん!」

「訓練終了だ」

「え?」


 ポカンとした顔をしている。予想外だったのか?

そもそもの話、最初から獲物を取る感覚を持っていた以上、あとは違和感の調査と捕食される可能性という恐怖体験を教えるのが俺の目標だった。


 つまり、昨日で両方ともクリアしたって訳だ。



「今日からお前は一人前の猫として生きていけるということだ」

「えー? もっと何か無いの? 昨日のあの、シュッて見えないくらい速く動く必殺技とか!」

「あれは鍛えて速く動いただけで必殺技なんてものじゃない」


 アニメか何かの影響なのかあれを必殺技だと思っているようだが、単純に加速しただけだ。

だから変な名前を付けないでくれ……


ひとり必殺技のくだりが通じてないチョコさんにも、これで訓練の修了をきちんと伝える。

これで今回の件は終わりだ。


「ありがとうございました。まさか私の足の癖を無意識に真似していたなんて……」

「ああいうのは案外近い関係だと気付かないこともあるから気にしなくて良い」

「そう言って貰えると助かります。本当にありがとうございました。この御恩は忘れません」

「あ、あぁ」


 最後に凄く重い感謝をされて動揺してしまったが、なんとか完遂できたようだ。

 その後、丁寧に別れの挨拶をして彼女達は家へ帰っていった。

 途中までくろまめは見回り隊に入りたいと駄々を捏ねてたが、最後にはチョコさんにパンチで黙らされて渋々諦めたようだ。

あれは痛そうだった。



 くろまめは耳が良い。きっと今後も危機に対して逃げる事ができるだろう。

 そして色んなものが()()()()事が大変だという事もいつか気付くだろう。

 その時は俺がまた出張るとするか。

読んでいただきありがとうございます。

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