見回り隊小次郎と子猫のくろまめ(前編)
こちらは前編後編と分かれております。
俺の名前は小次郎。
見回り隊という地域の安全を守る仕事をする普通の黒猫だ。
今日はこの前から比べて少し暖かくなってきてカラッとした天気。良いことがあるかもしれない。
そんな事を思ってしまったからか、朝連絡では妙な相談をされてしまった。
「ひとつ相談があって……」
朝連絡はいつもの環、全身真っ白な猫である。基本的になんでもそつなくこなすタイプのはずが、妙に歯切れの悪い言い方をしながら話を始めた。
「そんな言いにくい厄介事か?」
「そんなんじゃないけど……」
言わないといけないか悩む程らしい。
今度はどんな事件が……
「あのね、いつか見回り隊に入りたいって子がいるの」
「それくらいなら別に困ることでもないだろう?」
拍子抜けしたが、まぁそれくらいで丁度いい。面倒なのはパスだ。
「その子、まだ子供で狩りすらまだできないのよ。でもその母親にぜひ訓練をさせてあげて欲しいと言われてしまって」
「まずは狩りができるようになってからだな。その親に伝えてくれ」
流石に狩りから教えるとなると見回り隊以前の問題だろうに。
「それが、その母親は怪我の後遺症で狩りを教えれないの。幸い飼い猫の母子だから衣食住には困らないらしいんだけど、せめて子供にはひとりで生きていけるようにしてあげたいって……」
「そんな理由が……」
それは確かに何が起こるか分からない以上、一人前の猫にしてあげたいという願いは分かる。
「なるほどな。だがなんで俺なんだ? 他にもっと上手い猫、それこそ環だって狩りくらい教えられるだろう?」
「それが、その子って貴方のファンらしいのよ。それでたまたま私が話に出しちゃって…… ごめんね?」
「ファン?」
俺に?
前に聞いた噂を思い出して嫌な予感がしてきた。
断れない?
あっ、もう言うだけ言って逃げられた……
さて、どうやら想定より数倍厄介な案件らしい。
二日後の朝、連絡用の公園には俺と環、そして噂の母子が集まることとなった。
環は親子の道案内と、そのふたりとの顔合わせするのに来てもらった。
この後は見回りの任務に戻るらしい。
どれくらいの子かと思っていたが、獲物を狩れないほどは小さくない子猫だ。
これなら基礎さえ教えれば何とかなるかもしれない。
「母のチョコと言います。どうかこの子をよろしくお願いします。私じゃ満足に教えられなくて……」
「ほんものの『疾風』だ!!」
「こら! 今から狩りを教えてもらうんでしょ。挨拶をしなさい。」
「ぼくはくろまめだよ!」
名前の通り、母はチョコ色の毛に足が白、くろまめは白に黒に近い茶色の斑点模様の親子だ。
子猫らしい元気な声で自信もありそうな感じがする。
……疾風についてはスルーさせてくれ。
「今日から狩りの基礎を教え、一人前の猫を目指してもらう。それでいいな?」
「うん!」
「返事は元気だな、では着いてこい。チョコさんもこちらへ。」
こうして狩りの練習が始まった。
上手くいけば良いのだが、なにぶん教えるのは初めてで半分は我流だ。
さて昔のことを思い出すか。
まずは小さい虫を仕留める練習からだ。
草むら手前まで来て耳を澄ませる。
「ここなら練習になるだろう。まずはひとりで試してみろ。」
「分かった!」
何も知らないかと思っていたが、音を立てずに忍び寄ることは把握していたらしい。
あとは捕らえる目と瞬発力だ。
「えい!」
ん?
なにか違和感があったが無事狩りを成功させることができた。
「やるじゃないか。本当に初めてなのか?」
「家でれんしゅうした!」
「それでそこまで動けるなら問題は無いだろう。次は少し大きめのを狙うか」
少し移動するとトカゲのような小さめの爬虫類も生息している。
今日はどこまで狩れるのか測るのも良いかも知れない。
「次はトカゲだ。目で探したり音を聞き分けて狩るんだ。いけるな?」
「うん!」
早速見つけたようだ。
またしても違和感。何かが引っかかる。
大きい獲物は賢い故に飛びかかるタイミングがシビアになる。
「とう!」
飛びかかるも着地点がズレたのかすり抜けて逃げられてしまった。初心者ならよくある事だ。
「失敗しちゃった……」
「悪くは無かったぞ。あとはタイミングだ。」
「うん。がんばる!」
このあと夕方まで狩りの練習をしてみるも、結局トカゲを捕らえることはできなかった。
その間、俺はずっと何か引っかかった気分で見ていた。
何が変なんだ?
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