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見回り隊小次郎とふたりの親(後編)

前のページにある前編の続きになります。

まだの人は先にそちらから読んでもらえると嬉しいです。

 目が覚めると俺はまだ生きていた。


 ふかふかの毛布の上に寝ていた俺は、前に母さんから聞いていた人間の家だという事に気付いた。

 明るい光、暖かい空間、外敵に襲われる心配の無さそうな壁、良い匂い。

俺はそれらをボーッと眺めていた。





「起きたのかい?」


 声のする方を向くと前に見た人間と似た生き物がいた。

シワのある白い毛の生き物。

猫と犬のような、人間と近い生き物なのかもしれない。

 ちなみにあれもこの人も同じ種族で老化による変化だと気付いたのはもう少し後の事だった。


「お腹空いているでしょう? 買ってきたキャットフードをお食べ」


 何を言っているのかよく分からないが、お皿にご飯と水を入れた人間は、ふたつのお皿に入れ終わると近くで座ってこっちを見ている。

 食べて大丈夫なのだろうか?


「私はふさよ。あなたは?」


 何か話し始めた。こちらと意思疎通を取ろうとしているらしい。

何回もふさよと言いながら自分に指を指しているということは、この人間はふさよという名前らしい。

 それならとこちらも「おれはノノだ」と伝えておく。

伝わるか分からないがとりあえずだ。


「そうよ、ふさよ。あなたの名前は何が良いかしらねぇ?」


 ご飯と水と暖かさと、安心してホッとしたのか疲れが急に押し寄せてきた。

俺は無意識のうちにゆっくり毛布に包まり意識を落としていく。


「そうね、小次郎はどうかしら?」


 何か聞こえた気がしたが気のせいかもしれない。そこで完全に意識は無くなった。


「ゆっくり休んでねぇ」







 そんなこんなで、いつの間にか小次郎という名前を付けられ居候する事となった。

本当はノノなんだが伝わらない以上仕方ない。


 居候、つまりご飯と寝るところをもらっている。

だが貰ってばかりでは駄目だろうと、宿賃代わりに湧いてる虫を狩ったりネズミを狩ろうとしたり、撫でさして欲しそうな目をしていると撫でさせたりと仕事をすることにした。


 こうして生活を始めた俺は、体力が完全に戻った途端に母さんを探しに行きはじめた。

朝から夜まであの棒を持った人間や母さんを探して回る。

そしていつも見つけられず、居候先の家に帰り倒れ込む様に寝るという日々を送った。


 なかなか見つからない。もしかしたらあいつらに……と思う事もあったが、そんな噂すら聞かない。情報が全く見つからない事が余計に俺を焦らせた。







 ある日変化が起こった。

朝いつものように起きたら、急に正座とやらをしたふさよおばさんにこう言われたのだ。


「小次郎ちゃん。何かを探して必死なのは分かるわ。でも野良で無茶は危険過ぎるわ。だから無茶をしないよう見ててあげる」


 急すぎて何がなんだか分からない。


「だから、うちの子にならないかしら」

 

 この頃になるとなんとなく意味が伝わるようになってきたが、ふさよおばさんの話にはかなり驚いた。

 もしかすると本当に必死過ぎたのかもしれない。

確かに母探しは大事だ。

だが死にかけていた俺を助けてくれた人に恩を返さずというのは今更ながら不義理なのではないだろうか?


 俺はひとまず保留とさせてもらい、もう一度ちゃんと冷静にならなければと考え直すことにした。

 

 この日を境に、ここに住んで恩を返しつつ母さんを探すという選択肢を取っても良いのではという考えも出てきた俺は、具体的にどうするか考え始めた。


 そもそもここを出て母探しは簡単に終わるものなのか、その間の体力や襲われた時に対処できるか、食料はきちんと確保できるのか。命の恩人であるふさよおばさんに恩は返しきれているのか。


結論としては。


「ダメだ」


 母さんと狩りの練習をした時も、余分な体力を残しておけと言われていたことを思い出す。

あの暴漢の時も、体力を残していたから住処に戻れたのだ。

 そして今は逆に、朝から夜まで探して体力はもう全く無いという日々を過ごしている。

しかも助けてくれた恩を返しきれていないのに母さんを探しに行こうとしていた。


 母さんが見ていたらきっと叱られっぱなしだろう。


「お母さんを舐めないで。きちんと助けてもらった恩は返しなさい」と。


 そして俺はこの家の子になる決心をした。


伝わるか分からないが、居間に座るふさよおばさんをジーッと見つめる。

そして一言「よろしくお願いします」と。


「え? うちの子になってくれるのかい?」


 やった身としては何だが、まさか伝わるとは……

もう一度「うん」と言おうとすると、その前にいきなり抱き抱えられた。









「じゃあ今日からうちの子だ。小次郎よろしくね」


 にこにこで嬉しそうに言ってくれるのを見て、俺は恥ずかしくてにゃーとしか返せなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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