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見回り隊小次郎と暴れ猫事件(前編)

前編後編と分かれております。

読む際は注意お願いします。

 俺の名前は小次郎。

しがない見回り隊の平社員猫である。

朝から夜まで町の平穏を守る為にパトロールをし、育ての親であるよぼよぼ婆さんに心配をかけないくらいの時間に帰宅する毎日だ。


 連絡はいつもの連絡係である環と情報交換をする。

朝と夕の二回に分け、同じ連絡係の猫と連絡をするのは情報の確実な共有化が目的らしい。

難しい事は分からん。


「そっちは何かあった?」

「小さいのがちょこっとあっただけだったな。今日は平和で良かった」


 こっちの連絡は殆ど無く、強いて言えば調子に乗って木に登ったものの降りれなくなったガキんちょの保護くらいだ。


「それを聞いた後で残念なお知らせだけど……」


 だが向こうは違うらしい。

遠くの町からやってきたらしい野良猫が、ここ数日盗みを繰り返していると連絡が回ってきたようだ。

被害として把握しているものは、例えば適当な家のベランダから服を取ったり、店から食べ物を掻っ攫ったりと、今のところ被害者は人間のみらしい。

何かの怨恨か?


「で、そいつの特徴は?」

「茶と白の縞々の、貴方よりも大きめな男よ」

「それは本気で暴れられると厄介そうだな」


 俺も大人ではあるが、それよりかなり大きいようだ。大きいほど力が強い傾向にある以上、冷静に対処しないといけない。


 その夕方のうちに、近いうちに見回り隊を数人ほど呼んで説得、補導をすることが決まったらしい。

迅速な対応という事は不味いことになりそうなのか?








 猫には猫の、人間には人間のルールがある。

例えば人間は無闇に猫を攻撃してはいけないというルールがある。

では猫はと言うと、こちらも人間と無闇に敵対しないというルールがある。


 当然だ。

昔、人間と本気で争ってその区域で歩ける猫が絶滅寸前までいったことがある。

純粋な数の多さ、連絡網の速さ、無知な猫を捕らえる罠や武器等、我々猫は町で生きるには基本的に不利な生き物なのだ。

 そこで共存の道として友好を結んでいるのが現状である。


 つまり、相手が動く前に人間側の被害者を増やさないようにしなければ友好に亀裂が入るということだ。



 


 次の日には人選まで話は進んでいるのを聞いた。

なかなかの暴れ方で、ある程度戦闘経験のある猫の中から選ばれるはずだ。

 これは、勝つというよりも相手に大怪我をさせないように確実に制圧したいという意図がある。


「で、メンバーは決まってるのか?」

「ある程度絞っているそうよ。現場もここから近いし、貴方は候補に入っていると思うわ」









 この次の日には環の言った通りメンバーのうちのひとりに入れられた訳だが、残りのふたりもなかなか強そうだ。

これは思ってるより被害は多く、捕縛若しくは説得は確実に成功させよ、という事なのかもしれない。


 前からの何ヵ所もの襲撃ポイントから、次の予測をする。そしてきっとここだろうという店の並ぶエリアまで足を運んだ。

今回は万が一相手が強かった場合を考え、全員で纏まってパトロールだと思われないよう警戒心を解いて巡回をする。


 上手くいってくれるといいのだが。









「ドロボー猫め!」

「きゃー」

「なんだなんだ!」


 遠くから聞こえた怒鳴り声とざわざわとした大衆の声を聞き、俺達は一目散に駆けていった。

匂いを頼りに追いかける。するとすぐに影を捉えた。人間の遅さを理解してるのか、揶揄いながら走っている。

 だが、こちらにとっては都合が良い。問題無く追いつきそうだ。


「そこの茶色の縞々猫、止まってくれ!」


 大声で呼び掛けると相手はこちらを一瞥し、スピードを落として細い道にすっと入っていった。

どうやら話し合いに応じてくれるらしい。

しばらく歩き、やがて小さめの広場まで辿り着いた。


「俺は見回り隊所属の小次郎。君は他所からやってきたらしいが、この町のルールは知っているか?」


 もしかすると他所と此処でルールが違う可能性もある。まずは話し合いだ。


「知らん。知る必要もない。自由にやらせろ」


 思っていた以上に威圧感のある声と体格。

きっとそれは自信の現れなのだろう。


 それ以上に気になることがふたつある。

ひとつは野良猫だとすれば怪我も殆ど無く妙に小綺麗で、日頃から毛並みを整えている感じがする。


 そしてもうひとつ。

威圧感の割に、その目は悲しさが見える気がする。

そしてあとひとつ何か違和感がある。

それは何だ?


「なるほど、だが人間から盗みをしてどうなるかは猫なら誰でも理解できるだろう?」

「俺ならあんなとろい連中程度、簡単に逃げられる。お前こそ何にびびってるんだ?」


 声の感じが少し変わった。

うっすら『人間に対しての侮りか苛立ち』が見え隠れする。

 見た目と言動から、人間の危険性を知らない飼い猫だろう。


 念の為に味方ふたりに目配せし、保護の為にも逃げられないよう位置取りしてもらう。



「お前、元飼い猫だろう?」

「それがどうした!」

「そして何か自分にとって悲しい出来事があって自棄になった」

「……うるさい」


 図星らしい。

違和感があるはずだ。ずいぶん昔に無茶をしたあの感じだ。


「ひとまず一度落ち着いてみたらどうだ?」

「落ち着くだと?」

「このままでは人間がお前を捕獲しに来るだろう。」

「捕獲? 人間にできるのか?」


 認識がやはり甘い。家猫だったのか?

だがこの猫も多少は冷静さを取り戻してきている気がする。


「人間はお前が思っている以上に知恵が回る。狡猾な罠を張り、お前はすぐに捕獲されるだろう。ちなみに捕まった猫は多いが帰ってきた猫はいない」

「そ、そんな……」


 目に見えて冷静さを取り戻して来た。

このまま上手く話し合えば不幸なひとはこれ以上出なくなる筈だ。


「だがもうたくさん悪さをやってきた! ご主人に合わせる顔も無い!」


「その為の俺達だ。我々見回り隊が保護しよう。そしてこの町のルールを覚えて貰い、被害者に可能な限り謝罪をするんだ」

「本当なのか……? まだ間に合うのなら、まだ間に合うのなら……」

「その為にも色々聞かせてもらう事になるがな」


 何か思うところがあったらのだろうか、野生に身を任せた者が陥る衝動が消えて冷静になれたのか、彼はゆっくりと座って大人しくなった。

読んでいただきありがとうございます。

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