第2話 僕は仲間じゃない!?
「あの、ハーブレット学長……僕の固有スキルは、【薬識】ですか?」
「さよう。【薬識】で間違いない」
僕の質問に、ハーブレット学長が伏し目がちに答えた。
その時、僕の脳裏に虹色オーブの情報が弾ける。僕が自分の能力を自覚したからだ。
このオーブは、手をかざすと固有スキルを教えてくれる水晶玉で、非常にレアな鉱物フレングラスの結晶を研磨した物、らしい。
僕の固有スキル効果は、いわゆる"知識チート"と呼ばれる類のものだった。アイテムについてのあらゆる情報が瞬時に理解できる。それが未知のものであっても知っていたかのように理解できるのは、まさにS級と言うに相応しいスキルだと思った。
僕は自分の能力を自覚したところで、3人の学友達へ視線を向ける。偉く豪華な装備を身に着けていて……って、なんか凄く残念そうな、哀れみを混ぜた表情だな。そんな目で僕を見ないでくれよ。
僕はそのままくるりと振り返り、壇下にいる他の卒業生たちも見た。彼らは【A級スキル】だったり、【B級スキル】だったりした者達。彼らの装備の程度もすぐに分かる。【薬識】という名前の割には、薬だけでなく、アイテムであれば何でも鑑別できてしまう万能さだ。
でも、それだけなんだなぁ……。なにかもうちょっとこう、閃きがあったり、新薬の発想があったり……そんな感じのを期待していたのに。
「お主らはもう下がって良いぞ」
僕が内心で嘆いていると、ハーブレット学長は僕らに退壇するよう指示を出した。学長も少し気まずかったのかもしれない。僕は落胆の気持ちを心に押し込んで、素直に壇を降りることにした。
その後はつつがなく、残りの卒業生のスキル開示も行われていった。全員のスキル開示が終わり、僕ら卒業生8人は横一列に並ぶ。
「この学び舎を出て、これから諸君らには多くの困難が立ちはだかるだろう。しかし、諸君らには素晴らしい力がある。そして、諸君らは多くの人を助け、世界を救う者達である。各々が見出した力を最大限に活かし、偉大なる功績を残してくれると、ワシは確信しておる。以上をもって、ここに閉式を宣言する。皆の活躍を期待しておるぞ」
閉式の宣言を終えると、ハーブレット学長は壇上の端にある幕へ消えていった。次いで、アナグニエ副学長が虹色のオーブを慎重に持ち上げてハーブレット学長の後をついて行った。アナグニエ副学長の鋭い瞳が、ちらりと。僕と合った気がした。思い過ごしかもしれないが、少しの哀愁と何か思うところがあるような……複雑な色を帯びているように感じた。
僕らはハーブレット学長の退壇を見送って一礼をする。ようやく荘厳な儀式を終え、肩のこる重い雰囲気が霧散した。
あたりが騒然とし始めたので、僕も周りにならって学友達へ声をかけることに。
「ナクトル、レグサ、ニルバ。これから、僕らの冒険が始まるね! 君たちの固有スキルは凄そうだし、僕も心強いよ! これからもよろしくね!」
言って、僕は手を差し出す。しかし、3人は誰ひとりとして僕の手を取ってくれなかった。
「いや、ハルガード。君には申し訳ないんだけどさ……」
神妙な面持ちで、ナクトルが言う。
「俺達はこれから魔王を倒しに行く。見たところ戦闘向きでない君を、この先の危険な戦いに巻き込む訳にはいかない」
ナクトルの隣に立つレグサとニルバの2人も、首を縦に振って同意していた。
ちょっと待って。ナクトルが何を言ってるかわからない。僕らはアカデミーで研鑽を積んでる間、卒業後は皆で冒険に出ようと約束していたじゃないか?
「そん、な……」
ナクトルの急な心変わりを僕は信じられず、思わずつぶやいた。しかし、僕は内心で感じている焦燥を……その気持ちは隠すように努めて言った。
「し、心配してくれてありがとう。でもほら、僕の固有スキルだって【S級スキル】だしさ! きっと、冒険に役立つから!」
「君は要らない。はっきり言わないと分かんないかなぁ、ハル君。君の実力はボクが十分に知ってる」
間髪入れず、ニルバがため息混じりに言う。
「スキルバフもない君程度の実力じゃ、ただの足手まといにしかならないんだよね。正直、君の潜在能力が【薬識】だったことに、ガッカリだよ」
続けざまに放たれた言葉に、僕はショックを受けた。
在学中、彼女は戦闘があまり得意でない僕に稽古をつけてくれたんだ。正直S級スキル持ちの稽古になんて、ついていくどころか、ボコボコにされ続けたけれど……それでも彼女のおかげで、僕はそこそこマシに剣を振れるようになった。
そんな彼女が僕に向けた言葉が、今の台詞だ。信じられない。
「そんな……卒業したら、僕ら皆で一緒に冒険へ出ようって、言ってたじゃないか!」
僕は縋るように、レグサの肩を掴もうとした。
しかし、その手はすり抜けてしまった。【薬識】で、それがドレスの効果だと認識出来た。魔力を流すことで、意図的にすり抜ける効果だ。
すり抜けて無様に手をつく僕が振り向くと、レグサが冷たい目で見下ろしていた。
「力もないくせに、私に触らないで下さい。あなたは今、私たちの立ち位置から落ちたのです。今どき、アイテム知識チートなんて。冒険で何の役に立つというのかしら? 戦闘員どころか、サポート役にもならないじゃない」
レグサの辛辣な言葉が僕の胸に刺さった。
これも便利な世の中になった弊害だろう。昔はアイテムの質も良くなかったし、その場にあるもので窮地を凌げるサバイバル知識が物を言う局面も多かった。
しかし、現代ではそんな小難しい事を考える必要が無い。だって、回復アイテムは『エリクシール』さえあれば万事解決なのだから。あらゆる傷を治し、魔力も全回復するこのアイテムがあれば、大した知識なんて要らない。そういうことだ。
悲しいけれど、このとき僕自身も……彼女の言う通りだと思った。思ってしまった。
そんな気は薄々感じていたんだ。僕だけが不人気のアイテム学講座にせっせと出向き、アナグニエ副学長の研究室に入るまでのめり込んで……。
アイテムの歴史を知ったり、調合の実験をするのはとても楽しくて有意義だった。色んな効能を知れたし、物事の真理を解明した気になれて僕の知的好奇心は満たされた。でも、そんなのは……冒険では露ほども役に立たない。
【薬識】なんて、どう考えても時代遅れのハズレ枠スキルなんだよ……。
僕はもう言葉を失い、その場に俯くことしか出来なかった。涙が溢れてくる。今になって考えれば、こんなの初めから分かってたことじゃないか。
悔しくて泣いている僕が、それでもと思って顔を上げた時。彼らは既にいなかった。
僕は悔しさから握りしめた拳をほどくと、手のひらを見つめて、また握り直す。頭の中で、これまで積み上げてきた本たちがパラパラと開いていく感覚があった。
『たとえ知識が時代遅れにあっても、現代の力強い社会は先人たちが積み上げた知識の土台に成り立ってる』これはアイテム学の教科書からの受け売りだけど、今の僕に残った唯一の希望が、その条文だけだった。
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