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凡才の牙  作者: 炉鳩シヲ
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第五話 『凡才得る』

 そのおじさんというか、おねぇさんというか、おばあさんだったかもしれないし、少年だったかもしれない。ただ、おじさんという印象が残っているということは、おじさんだったのだろう。

 神を自称するおじさんに出くわしたのは今から3日前のことだった。その日は休日で仁は7時半に起床し、母が家を出るのを見送ったのち、父との朝食もそこそこに外に出た。

 父と仲が悪いわけではないが、仁も高校生であり、親と一緒に居続けるというのが恥ずかしかったのかもしれない。仁は近くの小学校のあたりまで散歩しようと決め、歩き出した。

 しばらく歩くと、仁は大きな公園に来ていた。小学校の足元にあるクスノキ公園は学校よりも大きく、様々なクラブ活動に利用され、近所の人で散歩のルートにする人も多い。

 クスノキ公園に仁が通りかかったとき、ちょうど小学生だろう少年野球の練習が行われていた。舞い上がる砂の匂いと球児の頬につく土の跡とが、仁の小学生の頃の懐かしい記憶を呼び起こす。が、今となってはいい思い出ではないのですぐにかき消すが心のざわつきは消えなかったと思う。


 再び公園に目を向けると、仁と野球少年たちを挟んだグラウンドの反対側、特徴的な帽子をかぶった人影がこちらに向かって歩いてくる。野球少年たちはノック練習の最中で飛んでくるたまに集中するあまり近づいてくる人影に気づいていないようだった。

 コーチだろう男が打った球は地面すれすれをすべるように飛び、球児の足元でバウンドする。帽子の人影が、不規則な変化をした球をとろうとする球児にあと2歩と迫っていたにも関わらず気づいたいないようだった。

 ボールは帽子の人影の方に飛んでいた。


 ---ぶつかる。


「危ない!!」と仁は声を上げる。


 が、球児は冷静に球をキャッチしたのち仁と周りを見回し、コーチのそばに構えるキャッチャーに投げ返していた。他の球児たちも仁の方を見てまたコーチに視線を戻していた。

 唯一驚いていたのはおそらく仁だけであろう。球児とぶつかると思った帽子の男は、自分に向かって突っ込んでくる球児をよけようともしなかった。かといって当たりもしなかった。仁の目には球児は帽子の人影に吸い込まれたかのように見えた、そして次の瞬間帽子の男は姿を消したのだ。

 

「俺が見えるのかい?おまえ」


 声の主は仁の後ろから話しかけているようだった。

 仁はもしかして、と振り向くと、そこには帽子の人影が立っていたのだった。

 仁の記憶は酷くあいまいでそれが男だったか女だったか覚えていなかったが、一人称が「俺」ということは男だったのだろうと思うが、気の強い女性という気もする。わからないが男ということにしておこう。


「見えてるのか聞いてんだよ、おまえに」

 倒置法

「まぁその反応は見えてるんだろうな、俺が」


 何と返そうか仁は言葉を探す。

 今目の前で起こった奇跡というか奇術を仕掛けたのはこの男ということだろうか。多分そう考えるのが普通だろう。

 とりあえずは、

「あ、はい」と返しておく。

 

「はっきり言えやぁ、のぉ、おまえ」

「はい、見えてますよ。っていうか大丈夫ですか?さっきあそこでぶつかってましたよね」

 自分でも見ておいて馬鹿だと思うが、会話の話題はこれしか出てこなかった。

「馬鹿かおまえ?見えてたんだろう?俺が。だったら見てたんじゃねぇのか?」

「見えてましたし、見てましたよ。あなたがあそこで子供をすり抜けて消えるのを」

「ほら、見てたんじゃねぇか。となると、、まぁ、なんだ。神だ、俺は。自称じゃねぇぞ」

 と男は自称する。

「人に言っても言わなくてもいいが言わないほうがいいと思うぞ、あまり。頭がおかしいと思われちまう。」

「神って、、、」ひきつった笑みが仁の顔に浮かぶ。

 確かに誰にも見られず、人をすり抜け、姿を消し、数十メートルを移動すれば神にでもなれるだろう。

「心も読めるし、空も飛べるぞ。未来も見えるし、力を与えることもな」

 心が読めるなら、しつこく見えるか聞かなくてもよかったじゃないか。と仁は心の中で毒づく。

「からかったんだよ。いいだろう、少しは。久しぶりの会話だ。」

 確かに誰にも見られないってのは寂しいもんなんだろう。と仁は納得する。

「変だな、おまえ。変じゃないか?うん、変だ。神だぞ?俺は。驚いたり何かを頼んだりしないのか?おまえは。」

「普通はそうなんでしょうけど、僕は何というか実感がないんでしょうね。あとは、自称神が急に現れたところでお願いごともないですしね。」

「嘘だな、はっ。そうだな、わかるぞ、俺には。期待していないんだ、お前は。他人にも世界にも未来にも。だから、叶えたい夢もなけりゃ、頼みたいお願いもないんだ。そうだろ」

 確かにそうかもしれない。仁には目の前の自称神が言っていることが理解できる気がしていた。

「多分、そうですね。僕は期待していないのかもしれません。何も。何もね」

 仁はあきらめたように吐露する。

「そうか、お前にいいものをやろう。多分いいものだ。おそらくな。まぁ価値はおまえが決めろ」

「何をくれるんですか?」

 仁の疑問符が消えるより先に、自称神が目の前から消えた。

 瞬間心臓を掴まれる感覚。心臓に感覚があるのかどうかはわからないが、仁にはそれが心臓だとわかった。不思議と痛くはなく、自然と体が軽くなる。宙に浮かぶような感覚に脳が支配され、体の芯が熱くなり最後には重力が体に戻ってくる。

「終わった。まぁお前が決めろや、どう使うかは」

 自称神の声が遠くで聞こえる。仁は深い眠りに落ち、数十分後少年野球の少年たちに起こされるのだった。


感想やコメントありましたらお願いします。


まだまだ続きますよ

次回は学校編です。

これからもよろしくお願いします。

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