精霊の憂い
前回の話
アウラに連れてこられた霊窟で夢を見たローグ。起きた時には回路が増えたが使い方が分からず、アウラの申し出により修行することにした。
「ーーアウラ!ちょっと休ませてくれないか!?」
「何を言ってるんだい・・・強くなりたいんだろう?」
いつもはこんなに人間と話す機会がない僕にとってはすごく新鮮な毎日だ。
目の前のローくんは実に面白い。今までの何百年という時の中で(もうどのくらい経ったなんて忘れちゃったけど・・・)初めての人間だもん。
回路が六つもあって、今も尚、文句を言いながらもきっちりと僕の攻撃を避けているのがいい証拠じゃないか。──まぁたまに当たってるけど、それでもすごいよ。うんうん。
ローくんが〝強くなりたい〟って言いだしてから僕が最初に出したお題は【僕の攻撃を避ける事。避けられる様になったらかすり傷でもいいから僕に触れてごらん】っていう事にしておいた。だって人間に教えたことない──っていうか僕達気づいた時には息をするように魔法を使うもん。教えられるわけないじゃん。
それに僕たち精霊にとってみれば人は実に脆い。体もそうだけど精神的にも扱える魔素の量や精度なんて僕たちから見たらとても魔法なんて呼べる代物じゃない。
そこらへんはディーちゃんこと〝水を統べるもの オンディーヌ〟は目敏いと思う。
一度隠れてディーちゃんの相棒、魔王リュール・・・だったけな?
その人が魔法を練習している時に姿だけを消して、魔法を直接味わってみようなんて思ったことがあった。
その時、僅かだったけど僕の周りの風が少しだけ剥がれたんだよ?
これは素直に称賛の言葉を送りたくなったよ。
人ごときが精霊に傷を与えたなんて、少なくても僕が産まれてから初めて聞いたもん。
僕たち精霊がこの世に存在しているにもちゃんと訳がある。
一つは世界の魔素量を調整する事。
二つ目はわる~い霊塊からたまに産まれちゃう〝魔物〟なんてものを倒す事。
三つ目は新しい精霊が産まれそうな時は立ち合い、道しるべとなる事。
「──ぐはっ」
そしてローくんも、その魔王なんちゃらもこれに抵触しそうだからね。いち早く監視対象を見つけたディーちゃんは本当にすごいと思うよ。普段はあんなに呑気で可愛いのにこういうところだけはしっかりしてるんだから。
「──ぬおっ!」
ちょっと話がそれちゃったかな?
っていってもさっきから僕はこの場をフワフワと漂っているだけからあまり関係は無いんだけど・・・。
「──ぐばっ!」
さっきから聞こえる悲鳴はもちろんローくんの物ではあるんだけど、僕は風に〝あの男の子を追いかけまわしてあげて〟って魔素にお願いしただけなんだよね。
今は絶賛ローくんの攻撃待ちって訳さ。
・・・一体何時になったら僕を楽しませてくれるんだい?・・・僕はこれでも期待しているんだよ?
***
あれから人間でいうと三ヶ月くらいかな?
やっとローくんが僕に触れてきてくれたよ。
やっと次に行けるね。うんうん。
「じゃローくん、次なんだけど僕は何もしないから君の攻撃を一つでもいいから当ててごらんよ」
「はぁ・・・はぁ・・・。 アウラ・・・とりあえず・・・少し休みたいんだけど・・・」
「何を言ってるんだい。強くなりたいんだろ?」
「いや・・・ほんと・・・一時間だけでもいいから・・・頼むよ・・・」
立つこともしないで地面に這いつくばりながらじゃ僕に攻撃する前に寝ちゃいそうだよね?
「う~ん・・・。じゃあ予定をちょっと変更して、また僕が攻撃するから避け続けてね?--あっ、今度は僕に触れなくていいからね」
「アウラ、そうじゃなくて・・・」
人というのは僕が思っていたよりも甘えん坊なのかもしれないね。
これをやると僕も疲れちゃうから本当は最後にしようと思ってたんだけど・・・しょうがないか。
なんたって僕はローくんに約束したからね。強くしてあげるって。
それとなんだっけ?確か・・・獅子の子落としだよね。うんうん。
すぐに僕は両手を空に伸ばす。
威力だけは最弱にしないといけないのが一番疲れるよ。
それにこれは僕でもちゃんと言葉に乗せないとだめだから最後にしたかったんだけどね~。
「君たちの本当の輝きを見せておくれ」
アウラの伸ばした手の先に風が集まり、螺旋を描き始める。
すぐにそれは小さな粒の様な塊となり、それが球体の中でぶつかり合っては辺りに衝撃波にも似た風が吹きすさぶ。
いい具合だね。みんなお利口さんだ。
「存分に踊っておいで。--風の花」
僕の言葉が届いてくれたみたいだ。
僕の指示通り一つ一つの粒がぶつかり合いながらも空へと大きく舞い上がっていく。
確かに一番疲れてしまう魔法ではあるけど僕はこの魔法を眺めているのが好きなんだ。
打ち上げられたように空へと向かった小さな風の固まり達が、雲を突き抜けた辺りで一斉に花を咲かせるように広がるんだ。
そしてそれが大地へと降り注ぐ。
空には風が作る一輪の花、大地には風の雨。
まさに生命が溢れる瞬間だと僕は感じられるよ。うんうん。
「ちょっとアウラ・・・。ーーがっ!」
「待って・・・。ーーうっ!」
「ほしい・・・。--おえぇ」
なにか苦悶に満ちた声が聞こえた様な気がするけど多分大丈夫だよね?
風たちにも〝いつもよりはゆっくりおいで〟ってお願いしているし、見た限りみんないつもよりはのんびり降り注いでるもんね。うんうん。
***
風が降り注いでから更に三ヶ月くらい経ったのかな?
僕はこれ程感動したことは無いかもしれない。
成長と言うのはなぜこれまでに僕たちの心に届くのか、いつか誰かに聞いてみたくなるよ。
・・・ん? 僕たちに心ってあるよね?うんうん。
あれからローくんはゆっくりなら風の雨を少しは避けられる様になってきているんだよ。日に日に避けている時間が長くなっているし、本当に君は人間なのか疑いたくなってしまうよ。
もう半分以上避けられているじゃないか?
・・・ちょっとだけ本気出しちゃおっかな?
***
僕は今、とても後悔をしたよ。
あれからローくんが八割くらいは避けられる様になった頃、ちょっとだけ本気でやってみたんだ。
そうしたらちょっとシャレにならない事態になっちゃって、まさか四大精霊を全員呼びつけなきゃいけない羽目になっちゃった。
みんなには問い詰められるしウェスタちんとかリタちゃんなんか、それはもう冷たい目で僕を見るんだよ?
だってこんな事誰も予想なんてできないよ。
ローくんがここまで人間やめてたなんて誰も思わないじゃないか。うんうん。
まぁローくんが覚えて無かったのは好都合だし、このまま内緒にして次の修業に移ろうじゃないか!!うんうん。
***
「なあアウラ、結局魔法はいつ教えてくれるんだ?」
ーー覚えてたか~。
「うんうん。そうだよね、そこは大事だよね」
痛いとこついて突いてくるね~。最初にも言ったけど僕って精霊じゃん?人間に魔法なんて教えた事ないからどう教えていいか分からないんだよねー。
それに僕たちってお願いすれば基本的には魔素が動いてくれるし。
風の花だけはたくさんの魔素にお願いしなきゃいけないから口に出すけど、あれだって僕が産まれてからすぐに使えたからなんて教えればいいんだろう?
──こういう時は・・・そうそう。嘘も方便だよね。うんうん。
「でもねローくん、君は今までの修業の間、何を見ていたんだい?見ていたなら出来るだろ?」
「・・・えっ?」
「今度は君の攻撃を全部受け止めてあげるから、今まで僕が使った魔法をイメージしてごらんよ」
ローくんならこんな感じでもなんとかなるよね?うんうん。
***
もうかれこれ10ヶ月くらい経つんじゃないかな?
ローくんはやっぱり僕が見込んだだけはあるよ。
なんたって今では僕の使ってた魔法より少し劣るけど全部使えてるもん。
最初はあまりに暇でちょこっと見せた魔法なんかも使えるようになっていたから・・・全部で九つ位の魔法は使えるんじゃないかな?
なかでも一番驚いたのは風の花まで使えるようになった事だよ!
あれは人が頑張って扱える類の魔法じゃないはずなんだけど・・・ローくん、君は本当に人間をやめてしまったのかい?
※※※
今日はローくんが集落に戻るんだって。なんでも誰も住まなくなった集落は燃やしたりするのが決まりなんだってさ。
やっぱり人間の考えることはよく分からないや。
それと首都?って所に行きたいらしいんだってさ。なんでもお金?っていうものが必要でそれを手に入れるために武装大会?っていうのに出たいんだってさ。僕も強くなったローくんが人の中ではどの位なのか少しだけ興味あるから少し手伝ってあげよう。
感謝していいんだよローくん?
m(*_ _)m