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ランドスケープ・アゲート  作者: 紅亜真探
【二】 逃亡 -ユウの過去編-
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策動・出撃

「工作部隊は出ているな」

「はっ!」

「作戦開始を伝えよ」

 自軍装甲車司令室へ戻ったマリア・レオーネは、大型モニターに表示された周辺マップをながめ、指示を飛ばした。

 めまぐるしく変化するその画面上では、お手並み拝見とばかりに、黄色のマーキングが青の背後へとまわっていく。

「サリエリめ。上手くあやつったつもりだろうが、そうはいかん」

 マリア・レオーネは、眉間にしわを寄せ、腕を振りかざした。

「全機兵長へ電信! 先陣は我が軍がつとめる! レーダーで捕捉次第、シミュレーションどおり部隊を展開。足止め成功ののち、両翼より包囲せよ」

 ふたりの通信士の指が、素早く打電する。

「なお、敵L・J、および、N・Sの抵抗も考えられる。工作部隊は足止め工作後、敵戦車L・J用ハッチ開放を合図に先手を打て! ギュンター軍到着までに、勝負を決める!」

 一方、その動きは、

「リ、リドラー軍、動き出しました!」

 マンムートのレーダーでも捉えられていた。

「ヴァイゲル軍は……進行速度変わらず! 後方支援のようです!」

 と、メイは、ほっとしたように叫んだが、その後届いた無電に関してはリドラー軍独自の暗号で組まれており、傍受はできたものの、ララでも解読できなかった。

 これは、ギュンターやサリエリにしても同様で、マリア・レオーネはむしろ、ふたりに作戦内容を知られることを警戒したと言える。

 鋭く舌を打ったアレサンドロは身を乗り出し、

「振り切れるか?」

 操縦席で舵を握るセレンに聞いた。

「無理」

「……はっきり言ってくれるぜ」

 すると、律儀にもメイが右手を挙げ、

「あ、あの……もぐったら、どうでしょう」

 と言う。

「もぐる……?」

「はい! このマンムートは、地中潜行が可能なんです!」

 メイはこの手の話題でいつも見せる、『セレン様の発明はすごいのだ』という、誇りと尊敬に満ちた目の輝きをもって、アレサンドロを見返した。

 しかし、そうした場合は大抵、

「モニターから目を離さない」

 と、『セレン様』からおしかりがくるのが、メイの哀れで、かわいらしいところだ。

「山、検索」

「りょ、了解です」

 少し、しょぼくれたメイの指が、キーボードの上を走りはじめた。

 この地中潜行。マンムートの前方に突き出した、双角を使う。

 これ自体はレーダーの集合体なのだが、高速振動させることにより、分厚い岩盤をも砕く破壊力が得られるのである。

 ただし、キャタピラの性能上、真下への潜行ができないのが難点で、ある程度の奥行きを持った壁面へぶつけ、地中を水平走行できる深さまで、徐々に深度を下げていく必要がある。

 山を検索する、とは、それに適した壁を探す作業を意味するのだ。

「廃坑にヒットしました!」

 サブモニターの地図に、赤い光点が表示された。

 時間にすると、十分ほどの距離だろう。

「かなり大きな光石採掘所です。マンムートでも、途中までは掘削なしで入れる……と思います」

 セレンは、どうする? という視線を、アレサンドロへ投げた。

 アレサンドロはあごをさすり、

「やつらとは、やり合わなくても行けそうか?」

「ええと、この距離だと……難しい、ですね。五分後には、こちらの射程域に入ります」

「差し引き五分の逃げ戦、か……」

「それでいこう」

 ユウは言った。

「俺が残って時間をかせぐ。光石鉱に着いたら、先に行ってくれ。カラスなら、空からでも逃げられる」

「あ、じゃあ、あたしも!」

 と、手を上げたのはララだ。

「ほら、ギュンターが狙ってるの、あたしだし」

 ひと声うなったアレサンドロは、深刻な表情で頭をかいた。

「……オッサンの意見が聞きてえな」

 ハサンは、フンと鼻を鳴らした。

「ならばひとつ」

「ああ」

「状況は常に動いている。風のごとく、弾丸のごとく」

 言いつつ、空に指を走らせる。

「迷わんことだ。仲間の身を案ずるならば、なおさらな」

 アレサンドロの眉間に、しわが寄った。

「……なら、あんたにも出てもらうぜ」

「ああ結構。ちょうど、これを試したいと思っていたところだ」

 ハサンは、コウモリの指輪をちらつかせた。

「よし。ユウとモチ、ララは残って、適当に連中をかきまわせ。俺とハサンで戦車を守る。セレンと嬢ちゃんは、こいつをすぐに方向転換だ」



 セレンとメイをブリッジに残し、五人が格納庫へ飛びこんだのは、それからどれほどもたたないうちだった。

 すでにマンムートは転進を開始し、窓から差しこむ低い日差しが、徐々に、照らす場所を変えている。

 N・Sカラス、オオカミ、コウモリ、そして、L・Jサンセットの四体がそろった格納庫は、マンムートの最大搭載数を満たし、壮観のひとことであった。

 その中で、唯一の不安要素といえば、ハサンとコウモリの適合だが、

『素晴らしい。右手が動く』

 ハサンはご満悦の様子で右の手指を動かしている。問題なく乗りこめたようだ。

 N・Sは、乗り手の脳を機械の身体に移し変えるようなもので、ハサンのように、後天的に身体の一部を失った者であれば、脳はその動かしかたを知っているわけだから、こうしてもとどおり、機能を取り戻すことができるのである。

 本来は陽の光に弱いはずのモチが日盛りでも活動できる、というのも、N・Sによって補完されている一例だ。

『こうなると、ますます欲しくなる』

 ハサンは言った。

『N・Sで泥棒なんざ、できやしねえだろ』

『そうかな? 仕事は道具にさせろというが、いかなる道具をいかにして使うか、それを考えるのはここだ』

 コウモリの指が、こめかみをつつく。

『現に、N・Sでもって月の聖石を強奪しようという、勇気ある馬鹿者もいる』

『なるほどな』

『ア、アレサンドロ!』

 ララはケタケタと笑った。

 と……そこへ。

『開けるよ』

 ブリッジのセレンから声がかかった。ハッチは庫内、ブリッジ、どちらからでも開閉できるようになっている。

 ハッチ横の黄色灯に灯が入り、外壁を持ち上げるモーターがいっせいに動きはじめると、上下に順を追って開いていくハッチの隙間から、照り返した太陽の光と、冷たい風が飛びこんできた。

『きゃっ!』

 下から突き上げる衝撃とともにマンムートが大きくかしいだのは、実にそのときである。

『な、なんだ!』 

 と言う間に、さらに断続的な爆発が起こり、マンムートはえぐられた地面に右キャタピラを脱輪させ、左のそれを空転させる格好となる。

 ユウたち四体は、ななめになった床と壁の間へすべり落ち、せまい空間に折り重なってしまった。

『痛ッ……なんなんだ、いったい……』

 ここで最も被害をこうむったのは、コウモリとサンセットの下敷きとなった、N・Sカラスだろう。

 だが、マリア・レオーネの策は、これで終わりというわけではない。カラスが這い出てみると、カシカシという、金属の壁面を引っかく、奇妙な音がする。

 顔を上げて、ユウは息を呑んだ。

 開ききったままのハッチの角に鉤手がかかり、ぬっと現れた真紅のデュアルアイと目が合ったのだ。

『セレン! サソリ!』

 ララが、ブリッジへ叫んだ。 

 一五〇一式。

 工作・索敵用、超小型L・Jである。

 ララの形容するとおり、四対の脚部にクロー、反り上がった尾(作業用サブアーム)と、サソリによく似た形状をしている。

 マンムートの進路に爆薬を仕掛け、走行を妨害したのがこれだということは、ユウたちの目にも明らかだった。

 その、外壁を這いのぼってきたらしい三メートル級のL・Jは、発光信号をかわし合いながら、続々と格納庫へと侵入してきた。

『セレン!』

『わかってる。でも、それどころじゃない』

『リドラー軍の索敵範囲に入ります! L・J、多数出撃!』

 緊張した様子のメイの報告が、スピーカーから走る。

『くそっ!』

 アレサンドロは壁を蹴りつけた。

『仕方ねえ! ユウ、ララ! 本隊の足止めを頼む! 深入りはすんな! 手を出してこねえようなら、ヒヨコ頭は放っとけ!』

『わかった!』

『まっかせて!』

『モチ! 引き上げのタイミングはおまえが決めろ! 俺とハサンは、こいつらを片したあと、戦車を立てなおす!』

『了解です』

 スラスターを噴かせたサンセットが、一五〇一式の群を蹴散らしつつマンムートを飛び出し、そのあとにN・Sカラスが続く。

 二体は、間近へせまる土煙に向かい、疾走した。



『ララ』

『なに?』

『リドラー将軍のL・Jは、どんなのだ』

 ホバージェットが舞い上げる粉塵を避け、カラスはサンセットの真上を飛ぶ。

『アリオト? うぅんと、青くてねぇ……』

『そうじゃない。ギュンター・ヴァイゲルのL・Jは火を噴いた。クローゼのは電気だった』

『ああ、うんうん』

 ララは、いまにも戦闘に入ろうというのに、まったくペースを乱さなかった。

 その落ち着きが、ユウには腹立たしくもあり、うらやましくもある。

 ……生身でおびえてるほうが、かわいげがあるな。

 ふと、そんな馬鹿げた発想が頭をよぎり、ユウは、あわてて首を振った。

『どうしました?』

『いや……』

 身体を共有するモチに悟られたかと思ったが、いらぬ心配だったようだ。

『それで?』

『うん、アリオトはね……』

 サンセットのコクピットマイクから、紙を揉む、ガサガサした音がもれ聞こえた。

 飴の包装紙をはいだらしい。

『アリオトは氷。見た感じ、ミザールに近いかなぁ』

『タンクがついてる?』

『うんうん、背中にね。凍結液って言うの?』

 どうやら、そこが突破口となりそうだ。

『ユウ』

『ああ、わかってる』

 モチとユウ。同調したふたりの目が、おびただしい数のL・J部隊を、同時に捉えた。

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