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ランドスケープ・アゲート  作者: 紅亜真探
【二】 逃亡 -ユウの過去編-
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追跡

 顔向けできないことはわかっていたが、さりとて黙ってなにをするわけにもいかず、ユウはとにかく、宿で待つアレサンドロたちのもとへ戻った。

 ユウたちが、最初に取った宿である。

 事情を聞いたアレサンドロは、

「そうか……」

 と、表情を曇らせながらも、意外にあっさり、事実を受け入れた。

「すまない。俺のせいだ。どんな罰でも受ける」

「本気で言ってんのか」

「ああ、好きにしてくれ」

 ユウは両ひざを折った。

 殴り殺されようと、文句は言えない。

 ハサンをよく知るユウだからこそわかる。カラスは、もう戻ってこないのだ。

「やめてよ。ユウが謝ることじゃないって……」

 ララがとりなしに入ったが、

「おまえは黙ってな」

 優しく頭をなでられ、むぅ、と唇をとがらせた。

「ユウ、悪いと思ってんなら……」

「ああ」

「馬、買ってこい」

「……馬?」

「とびきり足の強いやつだ」

 ユウは驚いた。

「追うのか? 無理だ! わからないんだ、どこへ行ったのか! ハサンは足取りを追わせない! 絶対に!」

「落ち着けよ、ユウ」

 かがみこんだアレサンドロは、ユウの肩を叩き、申し訳なさそうに笑った。

「あいつが言ったっていう、誰も信用するな、だろ? おまえには悪いが、俺だって、あのオッサンを信用してたわけじゃねえ。馬車にはモチをつけさせてもらった」

「うっそ!」

 と、これはララも知らなかったことらしい。

「あわよくば、N・Sも……と、思ってた俺を責めるか?」

「アレサンドロ……!」

 ユウは強くかぶりを振り、立ち上がった。

「買ってくる!」

「おう、頼むぜ」


 ユウはすぐさま、青毛と栗毛を連れ帰った。

 どちらもよくブラシを入れられた、良馬である。

 気づけば手の中にあった十万が、この二頭に化けた、というのは皮肉な話だった。

「モチから連絡は?」

「まだだ」

 答えるアレサンドロの腰には、いままでなかった長剣が下がっている。

 アレサンドロはユウの視線に、

「できりゃあ、使いたくはねえがな」

 と、剣を叩いた。

 そうして三人は宿の勘定をすませ、いつ事が起きてもいいように、わきの馬屋の軒先で連絡を待った。

「少しは寝ろよ」

 声をかけられたが、ユウはとても、そんな気分にはなれない。

 東の空が白み、カラスが飛びはじめても、一睡もできなかった。

「……遅い」

 朝焼けの、紫に染まった雲を見上げたユウは、つぶやいた。

 そのときである。

「……きゃっ!」

 馬の腹で眠っていたララが、突如、手を振りまわしはじめたのだ。

「やっ! な、なにこれ!」

 見ると、ララの頭に、小さなミミズクが乗っている。

 そのくちばしにくわえられているのは、葉のついた木の枝だ。

「来たな!」

 飛び起きたアレサンドロは、栗毛へまたがった。

「そいつは、おまえが乗せてけ!」

 と言うアレサンドロの言葉に従い、ユウは、立たせた青毛の鞍の前へララを座らせる。

 と、同時に、ミミズクが飛び立った。

「あれを追うのか!」

「このタイミングだ、間違いねえ。あいつがつなぎだ!」

 ふたりは、馬の腹を蹴った。


 ミミズクは、ペルンの東外門を抜けたところで、枝を落とし、森へ帰っていった。

 東はウィンザー、来た道を戻ることになる。

 しかしユウたちは、ためらいもせずに馬を走らせた。

 スズメ、カラス、ハト、サギ、フクロウ、ワシ、タカ、……。

 このあとも適当な間隔で、もしくは分かれ道で、昼には昼の鳥が、夜には夜の鳥が、皆一様に葉のついた枝をくわえ、三人を待っていた。

 ただ、おそらく赤い髪を目印にしているのだろう。

 どれも、頭を目がけて下りてくるので、ララだけは常に、嫌な顔で上を気にしていた。

 ハサンはやはり、迂回、逆進、馬車の乗りかえをくり返し、進んでいた。

「ユウ、おまえどう思う。やつはどこに向かってる?」

 アレサンドロに問われ、ユウは、ようやくあせりの取れた頭で、

「北部だ」

 と、答えを出した。

 ハサンはもともと、北部を縄張りにする盗賊である。

 以前の隠れ家は解体したのだろうが、まったく新しい場所に住み着くとは考えづらい。

 はたして。

 ウィンザーを抜けたあたりで、鳥たちは北寄りに進路を取るようになった。

 緑が色あせはじめた山道を抜け、隣領ローカスに入ると、それは確実なものとなった。

 さらに喜ばしいことに。ここにきて鳥たちが、迂回をしなくなったのである。

 ハサンが、追跡者に対する警戒を解いたという、なによりの証拠だ。

「ハサンはきっと、宿を取る」

 ユウは確信を持った。

 ……そしてついに。

 とある湖畔の、小さな宿場町の街灯に、三人は、愛すべき白フクロウの姿を見出したのだった。

「おい、モチ」

 らんらんと目を輝かせたモチは、ユウたちの到着にも気づかず、おそらくハサンの持ち物だろう二頭引きの馬車をにらみつけている。

「モチ」

 小声で呼んだアレサンドロが街灯の脚を叩くと、モチは警戒心もあらわに鋭い視線を下に向け、

「ホ……ありがたい……」

 力つきたように、目を閉じた。

「あっ!」

「危ねえ!」

 三人は腕を伸ばし、落ちてきたその身体を受け止めた。

 軽い。

「これは失礼……眠って、いないもので……」

 モチは、首もすわらないほど衰弱していた。

「ハサンは、あの……」

「ああ、そんなのはあとだ。動くんじゃねえ」

「いえハサンは、あの宿です。二階に……」

 と、息も絶え絶えに指し示されたのは、湖に面した、小体だが上等な宿である。

「ああ、よくやってくれたぜ」

 アレサンドロが治療用の更布へ水を含ませ、くちばしに押し当ててやると、モチは喉を動かし、ホ、と、息をはいた。

「早く行ってください。あの男はまた、明日の朝には出ます」

「わかった。……死ぬんじゃねえぞ」

「それは、大げさというものです」

 モチは、ララに預けられた。

「モチ……モチのおかげだ。モチがいて、本当によかった」

「ホ……」

 ユウに抱きしめられ、モチは気恥ずかしげに、足をうごめかせた。

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