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ランドスケープ・アゲート  作者: 紅亜真探
【一】 はじまり -アレサンドロの過去編-
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チンピラと眼鏡

「おい、もう逃げられねぇぞ」

 それは、いらだった、若い男の声であった。

「出て来やがれ! いるのはわかってんだ!」

 と、蹴りつけられたらしい戸板が激しくきしみ、かんぬきが鳴る。

 無論すでに、

「あいつら起こしてくる」

 と、アレサンドロは奥の寝室へと向かっている。

 残されたユウはつかんだ太刀の鯉口を切り、いざとなれば迎え撃つ覚悟で戸口の前に立った。

「おい、ぶち破るぞ、コラ」

 ……ああ、やってみろ。

 腰を落とし、扉を見すえるユウの胸に闘志がふくらんだ。

 ……さあこい。

「聞いてんのか! シュトラウス!」

「!」

「ええ? コラ!」

 ……違う。

「違う、アレサンドロ。これは、人違いだ」

「なに?」

 モチとヤマカガシを床下へ放りこんだアレサンドロが、足音を忍ばせて駆け戻ってきた。

「人違い?」

「俺たちじゃない。こいつが探してるのは、シュトラウスだ」

「シュトラウス? 知らねえな」

 ユウも同様である。

 しかし、そうこうしている間にも、

「出てこいや!」 

 外の男はわめき、扉を蹴り続けている。

「やれやれ、とにかく、話してみるか」

 でなければ、本当にぶち破りかねない。

 首をかき、アレサンドロはひとつ、咳払いをした。

「どなたです?」

 途端、静かになった。

 優しげに作られたアレサンドロの声に、明らかに動揺している。動揺が、広がっている。

「これは……ひとりじゃねえな」

 アレサンドロが、つぶやいた。

「テメェこそ、なにモンだ」

 男が言う。

「ここの住人です」

「あぁ?」

「なんのご用でしょう」

 すると、なにやら言い争う声が聞こえ、いまとは別の男が、

「夜分遅くに、すまないが……」

 話を継いだのだ。

 ユウとアレサンドロは、思わず顔を見合わせた。

 先ほどの連れ合いとは到底思えない、落ち着き払った口ぶり。

 はたして……、

「私は、聖鉄機兵団紋章官、ヴィットリオ・サリエリ」

 ……まさか、としか言いようがない。

 アレサンドロを見ると口は固く結ばれ、眉が、ぐっと寄っている。

 鞘を握るユウの手に、力がこもった。

「聞きたいことがある。外に出たまえ」

「……少し、お待ちを」

 言うが早いかアレサンドロは、ユウを引き寄せた。

「出るしかねえな」

「俺も行く」

「いや……いや、そうだな。おまえはあれを持って出ろ」

「閃光弾か」

「なにもなけりゃあ、それでいい。だが、もし俺が首を二回叩いたら、あれをやつらの目の前に放って、すぐにここへ逃げこめ。心配ねえ。ここには出口が山ほど掘ってある。きっと逃げられる」

「わかった」

「頼むぜ」

 手早く打ち合わせをすませて支度を整えると、ふたりは丸めてあった毛織物をマントのごとく羽織った。

 これは、居間で眠るアレサンドロの毛布として用意してあったものである。

「幸運を祈ります」

 床の跳ね上げ戸から、頭だけ出したモチが小さく言った。

 その隣では、ヤマカガシの大きな目玉も不安げに揺らいでいる。

「心配ねえさ」

 自分に言い聞かせるように再び言ったアレサンドロは、水がめの水を音を立てて飲みくだして、口をぬぐった。

 ユウは、細く、長く、息をはき出した。


 

 表に出たふたりを待ち受けていたのは、日中のような明るさと、各々、手に光石灯をかかげた数十人の騎士だった。

 これほどの人数が近づいていたことになぜ気づかなかったのか。

 そんな苦々しい胸の内をひた隠しに隠し、ふたりは前へ進み出た。

 値踏みするような目つきでこちらをながめる紋章官は、年のころ三十前後。銀縁眼鏡の、涼やかな顔立ちをしている。

 対して、

「こちらは、グライセン帝国、聖鉄機兵団軍団長がひとり、ギュンター・ルドル・ファン・ヴァイゲル将軍閣下であらせられる」

 金の胴鎧を身にまとい、組み立て椅子にふんぞり返る将軍は、ユウから見ても若く、暴力的で高圧的な、抜き身の刃のような男であった。

 さっきの、チンピラが……。

 さすがのユウも、驚きを隠せない。

 紋章官サリエリは続ける。

「閣下の御前であることをわきまえ、問いに答えるように」

 ユウとアレサンドロは、頭をたれた。

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