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ランドスケープ・アゲート  作者: 紅亜真探
【一】 はじまり -アレサンドロの過去編-
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グラッパ

 意気投合したモチとヤマカガシは、それから終日かけて閃光弾の改良に取り組んだ。

 ヤマカガシの専門分野は、そのとおり、化学である。

 N・Sの開発にも、躯体ではなく、核を中心とする内部機関の担当としてたずさわっていたもので、金属粉、しかも硬貨に着火、発光させるというこの突飛な思いつきが、この化学者の興味を一気に引きつけたらしい。

 ふたりはまず導火線に火薬を混ぜこみ、着火性能と燃焼時間を安定させることに成功した。

 その後、一フォンス硬貨の燃焼実験をくり返し、さらには外殻を、いまのままクルミか、クヌギのどんぐりか、はたまたトチの実かで迷っていたようだが、これは結局、加工のしやすいクルミでいいだろうという結論に落ち着いた。

 ちなみに、開発に費やした十フォンスは、今回すべて、ユウの懐から出ている。

「おかげで、いいものができました」

「ふたりのおかげで、だろうが」

「ホウ。これは失礼を」

 ヤマカガシが、シシシ、と笑った。

 そうして和気あいあいと夕食をすませ、気づけばすでに、深夜さながらの闇が下りている。

 これからがモチの活動時間ではあるが、さすがに睡眠時間が足りないようで、

「今日はこれで」

 と、モチはヤマカガシとともに寝室へ消えた。

「すっかり、仲よくなっちまったな」

「ああ、よかった」

「よかった?」

 ユウがうなずく。

「昨日モチが、もう野生には戻れないと言ってたんだ。だから……」

 ああして、モチが仲間だと思える者が多く現れるのは、ユウとしてもうれしかった。

 やはりモチには、幸せになってもらいたいと思う。

 モチがそうだと言ってくれたように、ユウも、モチのことが好きなのだ。

 そうか、と、うなずいたアレサンドロは、グラッパ・ブランデーのグラスをちびりとなめた。

「あいつも気の毒だよな。どっちつかず、ってのもよ」

「他の魔人にも、会いたいと言ってた」

「ふうん」

「いるのか? まだ……魔人は」

「いるぜ。十五年前に生き残った連中なら、何人か知ってる」

「そうか」

「それに……」

「?」

「きっといまでも、どこかで魔人化が起こってる」

 ユウは、はっと息を呑み、小さくうなった。

 魔人の数が増えるのはいい。

 しかし、

「また……戦になる、のか」

 それが、手放しで喜べない。

 アレサンドロも同様なのだろう。

「目の上のコブだと思われるようになりゃあ、そう、かもな。そこまではわからねえよ」

 吐き捨てるように言い、空のグラスを満たした。

 続けてユウにもボトルを差し出すが、こちらは、ほとんど減っていない。

「酒、駄目か?」

「ん……」

 ユウはそれをごまかすように、グラスへ口をつけた。

 実は、ユウは酒に弱い。

 ビールでさえ一時間かけて一杯、飲めるか飲めないか、なのだ。

 四十度以上にもなるグラッパなど、考えるだに恐ろしい。

「早く言えよ」

 笑ったアレサンドロはユウのグラスの取り上げて、その中身を少しだけ木製のタンブラーに移した。

「こいつは水割りでもいけるぜ」

「ん……すまない」

「なあに、おまえが大酒飲みってほうが気味悪ぃさ」

 かなり薄めに作ってもらい口をつけてみると、ぶどうの香りが残る、意外にも飲みやすい酒である。

「美味い……」

 アレサンドロはまた笑った。

「考えてみりゃ、おまえとサシで飲むのも、これがはじめてだよな」

 言いながら、アレサンドロはユウのグラスに残ったグラッパを、ひと口に喉へ流しこむ。

「街に戻っても別行動。互いの寝ぐらも知らねえで、一ヶ月。……ハ、それでよくおまえも、俺を相棒だなんて思えたもんだな」

 ユウはうつむいた。

「俺だって、何度も疑問に思ったんだ」

「じゃあなんで早々に手を切らなかった? 俺は最初に言ったはずだぜ。いつ見限ってくれてもかまわねえ、ってな」

「それは……」

 どうにも上手く言葉にできない。

「本当に、わからねえよな、人生なんて。昨日まで赤の他人だったのが、ちょいとした拍子に運命背負い合ったり、味方だと思ってたやつが、敵に転んだりよ」

 グラスの酒が、ゆらゆら揺れる。

「浮かんだと思や沈み、沈んだと思や浮き……。モチにだって、これから、いい目がまわってくるのかも知れねえ。俺にも、おまえにもな」

「ああ……だと、いいな」

 ユウは心底、そう思った。

「まあ、おまえくらいになりゃ、神様がドでかい幸運を落としてくれるさ」

「だから、茶化すな」

「ハハ、ハ」

 と、そのときだ。

 どすん、と、なにかが、戸板に打ち当たった。

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