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ランドスケープ・アゲート  作者: 紅亜真探
【終】 縁 ーユウの未来編ー
251/268

鳥瞰戦図

『おぅい、とっつぁん。どんな具合だ』

 飛行戦艦オルカーンの前甲板に、白と橙のL・Jが降り立った。

 将軍機、神速のベネトナシュだ。

『どんなもなにも、見たとおりに決まっとります』

 紋章官、ヨーゼフ・グレゴリオはあきれたように答えたが、

『見たとおり、か。なるほどな』

 と、スピードスター・ホークこと、デューイ・ホーキンスがどこかのんびりとしているのと同様に、グレゴリオの声にもまた、あせりのようなものは含まれていない。

『まったく、あの化け物装甲の前じゃあ飛行戦艦もかたなしですわい』

『何発撃った』

『とりあえず三です。こげ跡もつきゃあしません』

『やれやれ、クラウディウスが欲しがるわけだ』

『大将、そいつは……!』

 グレゴリオは勢いよく指を立てて、あたりをきょろきょろとうかがった。

 それもそのはず、ラッツィンガーから直接、今回の戦の裏側と真の目的を聞かされ、

「付き合わせて悪いが、なにをなすべきか、わかってくれるな」

 と、肩を叩かれたのは、七軍の中でも空の戦場のいっさいをまかされた、このホーキンス主従だけなのである。オットー・ケンベルのように輪郭までは察している者もいるが、特に一般の騎士たちの前で、クラウディウスが黒幕だ、皇帝はあやつられているのだ、などと口にするのはまずい。

『すまんすまん。で、どうだ、もう少し寄ってみるか?』

『弾の無駄使いはせん主義です』

『ハ、ハ、よく言うぜ、とっつぁん』

 ホークは景気よく笑い転げた。

『しかし、よろしいので』

 グレゴリオは通信回線を、メインモニターから手もとのモニターへと切りかえた。

『なにが』

『あの城です。こちらの手に渡るならまだしも、このまま奴隷たちの手に残るようなことになると……』

『やっかいだな』

『陛下はどのような判断をされると?』

『さあ、な。どうなるにせよ、いまは待ちの一択だ』

『はあ』

『……あくまでこれは、俺の意見だがな、とっつぁん』

『は』

『戦はやっぱり、もう終わらせてやらんといかんのだ』

『はあ』

『俺はいまやっかいだとそう言ったが、それはあそこにいる連中が国家の敵だった場合の、まあ、いわゆる一般論てやつだ。元老院の好きそうな理屈だな』

『確かに』

『レッドアンバーがそうでないことは、もうみんな知ってるだろう?』

『しかし』

『とっつぁん』

『む……』

 情のこもったホークの声は、グレゴリオのいかめしい眉を八の字に下げさせた。

『とっつぁん、だからここは陛下を待つんだ。陛下の決められたことなら、俺もラッツィンガー将軍も文句は言わんさ』

『帝都のほうは、どうなっとるんでしょうな……』

『なあに、上手くいくさ』

『だと、よろしいですが』

『ハ、ハ、どうした。今日はまた、いつになく神妙じゃないか』

『そりゃあ、帝国の命運がかかった戦です』

『ほう、命運のかからん戦があるならお目にかかりたいもんだ。さて……』

 ホークは操縦桿を握りなおし、

『もう一周してくるか!』

 と、ベネトナシュを発進させた。

『そうだ、とっつぁん。あの青いN・Sを見たか?』

『青はまだ。そういえば、黒も見とらんですな』

『なら帝都か。あいつには、借りがあったんだがなあ』

『お……!』

『出たか?』

『いや、坊主どもです。ギュンターとカール・クローゼ』

 ホークは機首をめぐらせて戦場を見下ろした。

 踏み荒らされた平原の中に道ができている。

 行動不能となった数多のL・Jが、上空からは道路の玉石のように見えるのだ。

 その道の先頭には、L・Jの大群にかこまれた二体のN・Sと真紅のL・Jがおり、そこへ向かっていま、将軍機、火炎のミザールと電雷のフェグダが、それぞれの紋章官機を従えてはせ向かっていた。

『さあて、どうなるかな』

『四対三ですか』

『いや、こいつは……!』

 ぱっと、真紅のサンセットⅡが転進した。

『おいおい、ララ坊のやつ、あの四人をひとりでやる気か?』

『なんとまあ!』

『ううむ、漢を見せたな。さすが百人斬りのシュトラウス!』

 ホークが感嘆の声を上げると同時に、足を止めてサンセットⅡを見送っていた二体のN・Sも、再びクラウディウスの陣へ向けて走り出した。

『大将、どうします』

『どうするもなにも、見守るしかできんさ。だが……』

『だが?』

『目を離さんようにしておいてくれ。戦場じゃあ、なにが起きるかわからん。あのララ坊も、ギュンターも、カール・クローゼも』

『次の時代に必要な若者たちですな』

『やっぱり、よくわかってるぜ、とっつぁん!』



 ホークが自軍激励という名の観戦飛行に発ち、コルベルカウダへの攻撃が一段と火力を増したころ。

 N・S獅子王とコウモリは多くのL・Jを引き連れて、クラウディウスの陣へと入らんとしていた。

 引き連れて、というと、なにやら秘密の連携を組んでいるようにも聞こえるが、この、獅子王たちを遠巻きにしてぞろぞろとついてくるL・Jたちは皆、あの雄叫びをおそれているのである。それで近づくに近づけず、ただN・Sの移動に合わせて前進している状態なのだ。

 ここまで獅子王とコウモリが行動不能にしてきたL・Jは、数十機にものぼるだろうか。

 アレサンドロとハサンは、

『大丈夫だって、まっかせて!』

 と、頼もしく飛び出していったララを見送った以外は、ほぼ立ち止まらずに駆け続けていた。

『アレサンドロ、連中の肩を見ろ。軍章が変わったぞ』

『紫か』

 ここまでは黄色か、桃色のペイントだった。

『やつは近い』

『一気に抜けるぜ、ハサン!』

『いいとも、派手にやれ』

 N・S獅子王は一際高く雄叫び、光炉をやられて機能不全におちいった敵機たちの上を、まるで飛び石でも踏んでいくかのように走っていった。

『ハ、ハ』

 と、N・Sコウモリもそれに続いた。

 ちなみに、この『雄叫び』。

 たとえばサンセットⅡのような特別機や改良の進んだ新型機、またN・Sには効力を発揮できないらしいことがわかっている。

 らしい、というのは、そもそもこの能力自体、アレサンドロは今日の今日まで知らなかったのだ。

 超光砲のメラクに自らの居場所を示すため叫んでみた結果、多くのL・Jが光炉停止を起こした。

 そこではじめて、この力を認識したのである。

 獅子王になじんだように見えて、アレサンドロは、まだまだ手探り状態なのだ。

『アレサンドロ、いたぞ!』

『おう!』

 アレサンドロにも見えた。

 セロ・クラウディウスの将軍機、ラベンダー色の『旋風のメグレズ』。

 そして、その足もとに、

『オオカミ、カラス!』

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