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ランドスケープ・アゲート  作者: 紅亜真探
【終】 縁 ーユウの未来編ー
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少年皇帝(3)

 ア、ハ、ハ、ハ。

 奇声とも言える声を発しながら、すさまじい勢いで少年は駆けていく。

 倒しても倒してもつきることのない女人像を叩きふせながら、四人の男たちはついていく。

「カジャディール」

 しばし思案顔をしていたクジャクが、息も切らさずに問いかけた。

「あれは、先帝だと言ったな」

「うむ、まさに相違ない。まさしく、ユルブレヒト三世陛下」

「だとすると、やつとオオカミはどうつながっている。オオカミはやつをどう捉えている」

 ふむ、と、カジャディールも思案顔をした。

 皇帝三世が死んだのは数年前。四世の人が変わったのは数ヶ月前。

 抽出方法はさておき、オオカミはその時間差の分だけ、三世の記憶データを大切に保管してきた、ということになる。

 そして結果的に、三世の若返りの夢をかなえてやっているのだ。

「思えば俺たちは、オオカミの野望を知らん。結局、なにがしたいのか。なにを求めているのか」

 そもそも、行動の原動力となっているものはなんなのか。

 すべての答えの中心に、三世がいる。

 そのように思えるのは気のせいか……?

「いずれにせよ、叩いて吐くような輩ではないが。む……!」

 アーチ型の巨大な装飾扉をくぐるとそこは小部屋で、向かいの壁にも同じような大きさの、しかし鉄板と鋲で補強された重厚な扉がついていた。いま通ったのが女扉だとすると、目の前にあるのが男扉、といった雰囲気だ。

 おそらくここも後宮の入り口のひとつで、男扉の向こうは、普段、鉄機兵団などが行き来している城内のどこかなのだろうが、それよりもいま四人が優先して考えなければならなかったのは、部屋の中で待ち構えていた三人の男たちについてであった。

「コブラ、パイソン、アナコンダ」

 独立戦闘部隊。バイパー隊。

 クジャクは、クク、と、冷笑した。

「よく姿を見せられたものだ」

「なに」

 黒い肌の大男たちは、いっせいに気色ばんだ。

「たかだか十数年前のことをもう忘れたか。俺からうらみを買うほど機を見るに敏であったおまえたちが、よく勝算もなく、ここに姿を見せられたものだと言ったのだ」

「……!」

「ヘビはヘビらしく、尾と言わず、身体ごと巻いて逃げたらどうだ!」

 しゃあ、と、バイパーたちの双剣が六振り鞘走った。

 クジャクは鉄棍をひとまわし、ふたまわしして、

「行け、ここは俺が引き受けた!」

 と、前へ出た。

 かつて、クジャクは、北のトラマル砦でリーダーをつとめていた。

 トラマルといえば、いまも昔も難攻不落の代名詞。その砦が落ちたのは、ちょうどクジャクが所用によって留守にしていたということもあるが、それ以上に、バイパーたちの裏切りによるところが大きかったと思われている。

 そうなると当然、クジャクのほうがうらみ骨髄とばかりに襲いかかっていきそうなものだったが、このときはむしろバイパーたちのほうが、この場での決着にこだわるかのように目を血走らせたものだ。

 なるほど……これが追われる身の哀しさか。

「なにをしておる魔人殿、ゆくぞ!」

「ああ、うむうむ」

 カジャディールに手を引かれるようにしてジャッカルが男扉を抜けると、すかさずジョーブレイカーが扉を閉ざした。

 どすん、内側からなにかが打ち当たり、うめき声が聞こえたが、三人は消えた少年皇帝を追って走り出した。

 さて……。

 男扉の先には長廊下が続いていた。いや、左右両面に開口部があるところを見ると、渡り廊下といったほうが正しいのかもしれない。

 磨き上げられた窓から見えるのは、いまにも雨が落ちてきそうな重たい空と、見事にかりこまれた丈の低い生垣だ。

 ばたん。

 廊下の向こうで扉が閉まった。

 ジョーブレイカーを先頭に、ジャッカル、そして、カジャディール。

 体当たり同然に、鋲打の扉を抜けた。

「お……」

「ここは?」

「警備隊の、詰め所であろうな、魔人殿」

 カジャディールの回答に、ジョーブレイカーもうなずいた。

 実に、百人から入れそうな大空間である。

 しかし、丸椅子はすべて長机の上に積み重ねられ、予備の武具を立てかけておく台は軒並み空であったので、掃除はしっかりとされていたが、やはり忘れられた場所という感が強かった。

 そのとき、またしてもあの音が。

 ばたん。

 ア、ハ、ハ、ハ……。

「やれやれ」

 カジャディールはぐったりと、ため息をはいた。

「ジョーブレイカー」

「は」

「これはどうやら、我らをどこぞへか、おびき寄せられるお心づもりと見たが」

「仰せのとおりかと」

「ふむ……では、な」

 大祭主は黒装束の配下を見やり、

「そなたも娘を救いにゆくがよい」

 ジョーブレイカーの深緑の目が、ぐ、と、大きく見開かれた。

「そなた、そのためにここへ参ったのであろう。この先のことならば案ずるにおよばぬ。わしがおる。神も見ておられる」

「しかし」

「騎士どもの手のおよばぬ後宮ならばいざ知らず、陛下の行かれたあの扉の先は、おそらく、よく知るグライセンのお城よ。リドラー騎士も、近衛の騎士もおろう」

 皇帝がなにをたくらんでいようと、それら騎士たちの手前、あやしげな術や兵器は使いにくいはずである。いまさら大量殺戮だの大規模催眠だのという手が出てくるはずもない。

「案ずるな、ゆけ、ジン・サラマール。陛下と娘、どちらを救いにゆくか、ここが最後の分かれ道と見た。いまをおいて機はあるまいぞ」

「……」

「ええい、なにをぐずぐずと。スダレフにとって、娘はそなた封じの切り札。よも始末することはあるまいが、連れて姿をくらますことは十二分に考えられる。その上、支援者たる三世陛下がお消えあそばされれば、二度と日の当たる場所へは現れまい。それでよいか、よいのか?」

「……御免!」

「そう、それでよい。汝らに大地の加護があらんことを!」

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