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ランドスケープ・アゲート  作者: 紅亜真探
【終】 縁 ーユウの未来編ー
238/268

合同会議(1)

 さて……。

 こうしてバトンはコッセルに渡されたが、実のところ、請け負った仕事はそう簡単なものではない。

 紋章官会議などで、どうにかできるならばいいが、

『魔人城の処置』

 これほどの事案ともなれば、元老院と軍部による、合同会議が審議の場所となる。

 七名の元老院代表団と、七名の将軍。それぞれ七名ずつの補佐。

 計二十八名の大会議である。

 コッセルはそこで取りまとめられる最終具申案の内容を、とにかく上手く予定の方向へ導かなければならない。

 そして裁断者たる皇帝を、なるほど、と、うならせるような、皇帝好みの味つけまでする必要がある。

 ……と。

 ここまででもすでに難儀だが、加えてさらに、具申書以前の深刻な問題がひとつ。

 そもそもこの合同会議、補佐役の紋章官に対して挙手権を与えていなかった。

 状況と内容によっては許されることもあったが、許可がなければ発言できない決まりになっていたのである。

 では、いったいどうするか。

 コッセルとしては、ラッツィンガーに頼るより他はない。

 昨夜のことである。

 コッセルは主人に、ハサンの来訪があったことを告げた。

 皇帝の盆の窪に刺さった魔道具と、その除去計画について語った。

 はじめは驚き、次に、怒りにわなないたラッツィンガーだが、

「我々のみで、陛下をお救い申し上げることはできんのか」

 と問い、それがどうも確実性に欠けることを知るや、

「わかった」

 とだけ答えた。短くも、重く頼もしい、まさに鋼の一言である。

 コッセルは思わず身震いして、深く頭をたれたのだった。

「もう、そろそろか、コッセル」

「ええ閣下。もう、はじまりましょう」

 コッセルはダンスホールほどもある、広すぎる議場を見まわした。

 参加者は、ほぼそろっているようだ。

 元老院議長デルカストロがいる。魔人であることを公表されながら、まったく地位を揺るがさなかったクラウディウス、オオカミがいる。その紋章官、鉄仮面シックザールがいる。

 ちりんちりん……と、予鈴が鳴り、思い思いの相手と話しこんでいた二十七名は、整然と所定の位置についた。

 元老院側と軍部側は向かい合わせの長机で分かれ、ラッツィンガーの隣にはオットー・ケンベルの車椅子が入ったが、その背後にひかえるはずの紋章官は、もちろん来ていなかった。

「では……」

「失礼、お待ちください!」

 そのとき、ひとりの近衛騎士が駆けこんできて、赤い簡易胴鎧がふくらむほどに胸を張り、まるで天井にでも言うように、あることを告知していった。コッセルにとって希望とも絶望とも取れる存在が、今日この場に例外的に加わるというのだ。

 観音開きに扉が開かれ、ざわついた議場が一転、静まり返る。

 腰かけていた者は立ち上がり、

 ザ、ザァ……。

 と、一礼。

 皇帝、ユルブレヒト四世の入場である。



「……此度は陛下のご臨席をたまわり、恐悦至極に存じます」

「うむ」

 あとひと月ほどで十三歳を迎える少年皇帝は、もはや儀礼的に置かれているにすぎなかった天覧席に腰を下ろし、デルカストロの礼に対して大様にうなずいた。

 いやどうだ、この風格。先帝陛下にそっくりではないか……。

 亡きお父上もそうであったが、あの太い眉も、たばねられた髪の風合いも、年々、先帝陛下の面影を濃くしていかれる……。

 それにしても、またお背が高うなられたな。一五〇はおありになるか……。

 ひさしく皇帝に会わずにいた元老院の議員たちは、心中、にぎやかに感想述べ合った。

「陛下、慣例により、このデルカストロめが議長をつとめさせていただきまするが」

 へりくだって、デルカストロが言うのへ、

「うむ、構わん。魔人城と奴隷どもをどう始末するか。まずは皆の腹の内をとっくりと聞かせてもらおう」

「……は」

「よいか、余には構うなよ!」

 ユルブレヒト四世は、大人めかして足を組んだ。

「では、意見のある者は」

 おずおずと、元老院側から手が挙がった。

「おそれながら申し上げます。もはや奴隷どもの叛意は明白。ここは最大の手段をもって殲滅すべきかと存じます」

「魔人城は」

「可能ならば、こちらの手に」

 元老院で口裏を合わせてきたか、オオカミになにか吹きこまれてきたか、はたまた、どう始末するか、との皇帝の言葉にへつらったか。

 元老院の次席は意味ありげな微笑みを周囲に振りまき、やりきったという顔で着席した。

「他には」

「デルカストロ議長!」

 机を叩いて腕を突き上げたのは、鉄機兵団三席のカール・クローゼ・ハイゼンベルグだ。

 クローゼは鼻息荒く、

「私は反対です。私は……!」

 と、訴えかかる。

 しかし……。

「待て、ハイゼンベルグ将軍」

「は?」

 デルカストロが、とがったあごひげをしゃくったので、クローゼはなにごとかと指し示す先へ目をやった。

「あ……」

 ラッツィンガーの手も挙がっている。どちらが優先されるか、考えるまでもない。

「これは……!」

 やってしまった、と、クローゼは赤面して棒立ちになった。

 元老院が、クラウディウスが、ふんと鼻を鳴らしてあざ笑った。

「ハイゼンベルグ将軍」

「は、は!」

「よいな」

「は、もちろんです、議長」

 クローゼは、あわてて引き下がった。

 ……やれやれ。

 ラッツィンガーは苦笑するしかない。せめてクラウディウスの対応を見てから動きたいところだったのだが、クローゼが叫ぶのを見て、つい手を挙げてしまったのである。

 体制に反する、がむしゃらな擁護は、のちにつまらぬ反響、たとえば嫌味や嫌がらせとなって帰ってくる。それから身を守るために必要な肩書きと言う名の盾が、クローゼの場合は小さいのだ。

 発言するなと言うのではないが、戦と同じだ、直情的にならず、まずは大局を見ること。

 とにかくラッツィンガーはクローゼをかばってしまったばかりに、少々プランを立てなおさなければならなくなってしまった。

「では、ラッツィンガー将軍」

「……は」

「意見を」

 すかさずコッセルは、ラッツィンガーの立つのに合わせて椅子を引いた。

 ……ご存分に。

 ……うむ。

 のっそりと、ラッツィンガーは立ち上がった。

「おそれながら」

 うやうやしく低頭し、皇帝を見る。

「このラッツィンガーに、聖鉄機兵団全軍をお貸しいただきとう存じます」

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