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ランドスケープ・アゲート  作者: 紅亜真探
【一】 はじまり -アレサンドロの過去編-
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カゴの鳥

 話を聞いてみると、北部森林帯の生まれだというこの北フクロウは、もう四年近くも、この場所にいるのだという。

 当時この施設では、L・Jの開発ともうひとつ、別の研究がおこなわれていた。

 それが、人造魔人計画。

「文字どおり、人工的に魔人を誕生させる計画です」

 フクロウの薄く閉じられた目が、針のように光った。

「最終的な目標は、ふたつ。知能レベルの向上。そして……」

「不老長寿」

 アレサンドロの言葉を受け、フクロウは小さく、うなずいた。

「皇帝家、貴族、富裕層。いわゆる特権階級のための計画だったのでしょう。しかし結局は、魔人の謎を深めるばかり。唯一の成功例である私とて、せいぜい言語を獲得しただけにすぎません」

「計画は消えたのか」

「さ、どうでしょう。私を生かしているところを見ると、まだ未練はあるのかもしれません。軍部が反対しているという噂もあります」

「どっちにしても、いい迷惑だな」

「まったく」

 このようにフクロウは、どのような質問に対しても、すべてよどみなく答えた。

 で、ありながら、ユウたちの名や身上に関しては一切問おうとしない。

 単に興味を持たないだけかもしれないが、その態度は実に信頼できる相手として、ふたりの目には映った。

 飾らない、その純朴な気質もいっそ好ましく思われる。

 そこでユウとアレサンドロは、いままでのいきさつを手短に語って聞かせ、

「なにか知らないか?」 

 と、たずねてみた。

 返答は、すぐに帰ってきた。

「それならば道が違います。いま来た扉を出て、四つ角を右へ……」

 道順がつらつらと並べ立てられる。

「随分とくわしいな。ずっと鳥カゴ暮らしじゃねえのか?」

「さ。長くひとつところにいれば、つまらないことに通じるものです」

 アレサンドロは、へえ、と、あごをかいた。

「だが、悪ぃがこっちは、おまえさんのようにそう賢くはねえんだ。いまのを全部覚えていけってのは無理がある。ああ、とても行けたもんじゃねえ。道案内でもいねえことにはな。なあ、ユウ」

 視線がかち合い、ユウはすぐに、その言葉の意味を理解した。

「ああ、ああ、そうだ。だから案内に立ってくれ。一緒に行こう」

 すると、それまで眠るようだったフクロウが、カッと目を見開き、

「ホ。なるほどそれは……悪くない、提案です」

 と、声を上げたかと思うと、

「外へ出るなど、考えたこともありませんでした。長くひとつところにいれば、つまらないことにとらわれもする、ということですか……」

 と、みるみる小さくなってしまったのだった。

「よし、決まりだな。鍵は?」

「やってみる」

 ユウは大ぶりな錠前に、鉤手のついた用意の針金を差しこんだ。

 錠前はずしはユウの得意分野である。

 ものの数秒で、錠は難なくはずれた。

「まさか、このような日が来ようとは」

 すっかり気をよくしたフクロウは、ひょこひょこ身体を揺らしながら、歩いて檻を出た。

 それは単に扉がせまく、飛ぶことができなかったためだったが、その愛らしい仕草には、思わずふたりとも笑ってしまった。

「外、ああ、外」

 フクロウの声には、隠しきれない興奮の色が浮き出ている。

「あなたがたには、なんと礼を言ったらいいか……」

「なあに、気にすんな。帝国のやり口が気に入らねえだけだ」

「おそれいります」

「俺はアレサンドロ。こいつはユウ。おまえは?」

「残念ですが、名はありません。ここではただの、五一二号です」

「そうか……」

 ユウはなにげなく、フクロウの頭に手を乗せた。

「あ……」

「どうした?」

「……柔らかい」

「おまえなあ、なに言って……」

 アレサンドロも乗せる。

「あ……」

「な?」

「……こいつは、ヤバイな」

 特に首まわりや腹は、指を離すのが惜しまれるほどだ。

 フクロウはされるがまま、むしろうっとりと、なでられるのを楽しんでいるようである。

「白くて、丸くて、柔らかい……」

 フクロウの名は、『モチ』に決まった。

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